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.国際  投稿日:2015/1/22

[岩田太郎]【米国を襲うテロ再来の恐怖】~拷問被害者手記『グアンタナモ日記』の衝撃~


岩田太郎(在米ジャーナリスト)

「岩田太郎のアメリカどんつき通信」

執筆記事プロフィール

「お前に対してしたことで、俺は必ず地獄に落ちるだろう」

拘禁の理由はないと米連邦裁判所が判断したにもかかわらず、キューバにある米軍グアンタナモ湾捕虜収容所で14年以上、なお投獄されている「テロリスト」容疑者のモーリタニア人、モハメドウ・オウルド・スラヒ氏に、拷問を加えた米中央情報局(CIA)要員が語った言葉だ。この米国人看守は、拷問が犯罪であり、道徳的にも間違っていることをはっきり自覚している。

米国は12月にCIAの拷問報告書を公開し、米側から見た拷問の実態が明らかになった。被拘禁者が溺死する寸前まで行われる水責め、低体温症を引き起こす氷風呂、医学的根拠のない肛門からの食物や栄養剤注入、ウサギ跳びの姿勢の8時間強制、丸一週間以上の睡眠妨害、子供や親に危害を加えるとの脅迫など、死者まで出した残忍な内容だ。

米国の拷問に対するテロリストの報復を怖れる米政府は、在外公館など米関連施設で警備を強化している。こうしたなか、米国への新たなテロ攻撃を招きかねない内容の本が、1月20日に出版された。捕虜側から見た拷問を466ページにわたり綴った、前述のスラヒ氏の手記だ。

拷問被害者の体系的な告発は、12月に公開されたイエメン人のサミル・ナジ氏のインタビューと併せ、これが初めてだ。「国家機密」だとして、拷問した看守の名前など2500箇所以上が米政府により黒塗り検閲されている。内容は、CIAの報告書に比べ詳細で、具体性に富んでいる。

「(窓のない収容所で)尋問者は、『お前が犯罪者ということは分かっている』と言った。『俺が何をしたと言うのだ』『お前が勝手に決めろ。そうすれば刑を禁固30年に減らしてやる。でないと、二度とお天道様を拝めないぞ。協力しなければ、お前を穴に埋めて、収容者名簿からも消し去ってやる』」。

推定有罪で、罪を認めない選択肢はない。

「『お前はアラブ人で、外国語を話し、いろんな国に行っているな。おまけに、技術系の学校を出ている』『いったい、それのどこが犯罪なのだ』『ルールが変わったのだ。前は犯罪でなかったことも、今では犯罪だ。(米同時多発テロの)ハイジャック犯を見ろ。お前と同じ種類の奴らだ』」。

こうしためちゃめちゃな論理に対し協力を拒んだスラヒ氏には、あらゆる虐待が加えられていく。

「看守たちは、自分の局部を弄び始めた。神に祈りを捧げた。看守は、『そのクソ礼拝をやめろ。アメリカ人とこれからセックスするのに、お祈りか?』と言った。抗議のためハンガーストライキを始めると、『お前は死なせない。ケツの穴から喰わせてやるからな』と宣言した。」

「看守を困らせた罰として、真っ暗で不潔な部屋に放り込まれた。大音量で“Let the Bodies Hit the Floor”をガンガンかけ続け、目を傷める光の点滅で苦しめられた。あの歌は、一生忘れない」。

以上は、ほんの序の口である。このような拷問の記述が、延々と続く。スラヒ氏はまた、自身が尋問中に袋を頭からかぶせられ、首を絞めつけられた体験を語っている。そして、拷問者に対して言うのだ。

「い、息が、で、できない」

この言葉は、昨年7月17日、ニューヨーク州で警官に首を締め上げられ亡くなった丸腰の黒人エリック・ガーナー氏(享年43)の最後の言葉と重なる。その警官は起訴されなかった。拷問者や殺人警官は、「法の支配」がしっかり守る。

オバマ大統領は1月20日、広く国民に重要な政策問題を示す一般教書演説で、「グアンタナモ収容所の閉鎖に向けた努力を続ける」と表明したが、拷問にどう向き合うのかについては語らなかった。また、警察による丸腰の黒人の殺害にも触れなかった。臭いものには蓋、である。だが腐敗物の悪臭は、必ず漏れ出す。

米政府は、スラヒ氏の手記が出版されたことで、それを読んで憤りに燃えるスラヒ氏の同胞たちの報復という、安全保障上の問題に備えなければならなくなった。


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