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.国際  投稿日:2015/5/14

[岩田太郎]【米列車脱線事故、JR福知山線事故と酷似】~老朽化激しい米インフラ、さらなる惨事を懸念~


 岩田太郎(在米ジャーナリスト)

「岩田太郎のアメリカどんつき通信」

執筆記事プロフィール

米ペンシルベニア州フィラデルフィア近郊で5月12日午後9時過ぎに発生した全米鉄道旅客輸送公社(アムトラック)の列車脱線事故は、死者7人・負傷者200人以上を出す惨事となり、さらに死者が増えることが懸念されている。

事故現場は、首都ワシントンとニューヨーク・ボストンを結ぶ区間の中間に位置し、日本人ビジネスマンもよく利用する区間で、年間1千2百万人を運ぶ米国版の東京・大阪間のドル箱路線だ。脱線地点には事故当時、石油輸送列車が停車しており、事故車両があと45メートル暴走していれば、あわや大惨事になるところだった。

注目されるのはこの事故に、10年前の2005年4月25日に西日本旅客鉄道(JR西日本)の福知山線(宝塚線)の塚口駅と尼崎駅間で発生し、乗客乗員合わせて107名が亡くなった列車脱線事故との類似性があることだ。具体的には、「魔の急カーブ」に制限速度を大幅に超過した高速で進入したこと。運転士のブレーキ制御動作が遅れたこと。事故現場に自動列車停止装置(ATS)の導入予定がありながら、未設置だったこと、などである。

アムトラックの事故現場のカーブでは、1943年9月6日に車両軸箱の火災に端を発する客車脱線事故が起き、79名が死亡した「魔の現場」だ。制限速度は時速80キロメートルだが、ブランドン・ボシャム運転士(32)は、その2倍以上の時速170キロでカーブに進入した。カーブの直前で緊急ブレーキを作動させたが、列車は曲がり切れずに脱線した。

一方、福知山線事故では高見隆二郎運転士(享年23)が遅れを取り戻すため、制限速度70キロのカーブに116キロで突入した。カーブの直前、常用ブレーキを作動させたが間に合わず、列車は脱線してカーブ脇のマンションに激突した。

両方の事故において列車は新型車両であり、アムトラック事故の機関車は2014年に独シーメンス社が製造した、列車走行データ記録装置(ブラックボックス)搭載型だった。

事故現場のカーブには今年末までに米国型のATSであるACSESが設置予定だったが、計画が遅れていた。米評論サイト『Vox』の著名コラムニスト、マシュー・イグレシアス氏は、「もし設置されていれば、今回の事故は防げたかもしれない」と悔しさをにじませた。福知山線事故でも、ATSの設置予定があったのに、未設置だったため、事故を防げなかったことが想起される。

事故翌日の5月13日、ローレンス・サマーズ元米財務長官は、「昨日の脱線事故は、(鉄道など)インフラ投資の必要性を力強く物語っている」とツイートした。だが同じ日に、共和党が支配する米下院の予算委員会は、アムトラックへの補助を2億5千万ドル(約300億円)削減することを決議した。皮肉にも、事故が起こったのは「全米インフラ週間」の最中であり、米議会の決議によって老朽化する米鉄道インフラの安全性は、さらに懸念材料を抱えることになった。

ワシントン・ニューヨーク路線区間にあるニュージャージー州のポータル橋は100年以上前の1900年に竣工し、老朽化が著しいが、毎日15万人を運ぶ450本の列車が通過している。架け替えには9億ドルが必要だが、今回の予算削減で修理はさらに遠のく可能性がある。2012年10月のハリケーン・サンディで損傷を受けたニューヨーク州内の列車トンネルの補修は数十億ドルが必要だが、遅々として進んでいない。

川崎重工業の米国工場製新型車両を導入し、日本でも話題の首都ワシントン地下鉄でも5月13日、5千万ドルの予算削減が決まった。同地下鉄は今年、2件の発煙事故を起こし、うち1件で1人の乗客が死亡しているし、2009年にも9人が死亡する衝突事故があったため、安全性の劣化が心配される。

フィラデルフィアの事故を受けて、米外交評論サイト『フォーリン・ポリシー』は、「日本が売込み中のリニア技術採用が解決策か」という記事を掲載した。しかし結論は、「人口が過密でない米国には向かず、予算もない」だった。結局、ATS設置やインフラ補修を含む安全対策を地道に進めるしかないのだが、それが遅れ、より大きな惨事が起きる悪い予感がする。

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