【米経済、利上げで市場不安定化】~「シェール革命」神話も崩壊~
岩田太郎(在米ジャーナリスト)
「岩田太郎のアメリカどんつき通信」
米国では、2015年にどのような大きな変化が起こるか。筆者は以下を予測する。
(1) 賃上げ圧力なき米利上げと、ミニバブルの崩壊で市場不安定化
(2) 過大な生産量予測の見直しと、原油安による「シェール革命」神話の崩壊(3) TPP交渉の進展と米国内の対立激化
(4) 人種間緊張の深刻化と米国民の政治制度への不信増大
(5) 2016年大統領選挙に向けたアメリカ式世襲制度の発展
まず経済だが、6月(早ければ3月のサプライズ)に予想される米利上げに向けて、史上最高値を更新し続け、現在は絶好調に見える市場が不安定な動きを見せるようになる。1994年の米利上げによる「メキシコ・ショック」の記憶も新しい中、米連邦準備制度理事会(FRB)は、できるだけ金融正常化の衝撃を和らげようと、手を打っている。
だが、利上げ局面では必ず誰かが損をする。市場はすでに、2014年10月あたりから過敏になっており、2015年には大規模な乱高下が見られるだろう。特に、賃上げ圧力が弱い、つまりインフレ圧力が低い中での利上げは、当局の判断の正しさが問われる。弱い経済成長を停滞させかねないからだ。
さらに、回復していない実体経済とは対照的に、イケイケの調子で上げてきた市場のミニバブルが、不安定化の中で弾ける可能性がある。悲観的な視点を持つことから「破滅博士」の異名をとるニューヨーク大学のヌリエル・ルービニ教授は、そのような過剰流動性の崩壊が2016年までないとするが、ここ数年FRBの量的緩和が作り出す超低金利環境に頼って上げてきた相場が、利上げを睨んで2015年中に一本調子で下げる局面に入るリスクはある。
金融危機後の米経済の回復を下支えした「シェール革命」も、その神話性が明らかになってくるだろう。短期的には、1バレルあたり20ドルさえ予想される原油安によってシェールオイルやシェールガスが採算割れし、採掘業者が淘汰されることにより、右肩上がりで増加してきた産出量が停滞する可能性がある。
より深刻なのは、過大な長期的産出量の予測が見直されることによる、市場への心理的な影響だ。これといった次世代型産業が見当たらない中、「シェール革命」が向う100年続くことで米国は世界一の産油国になり、経済が堅調に成長する基盤ができたとする説が広く信じられ、各種の中長期経済予想もバラ色の産出量予測に依存している。
だが、当初から産油量の予測は過大だとする指摘が、業界内部から出ていた。米国の産油量は、2020年に日産300万バレルでピークを迎え、その後は減り続けるという説だ。それに加え、『ネイチャー』誌で2014年12月3日に発表されたテキサス大学の高精度予測では、米エネルギー情報局による、「シェールガスは、2025年に年産3000億立方メートルでピークを迎え、その後緩やかに下降する」との予測を覆し、「2020年に年産2500億立方メートルでピークを迎え、その後急激に下降する」とした。
こうした現実的なシェールオイルとシェールガスの産出量予測により、中長期的な米経済の成長予想も2015年中に下方修正を迫られる。それが、シェール頼みの市場心理を悪化させるリスクは低くない。
こうしたなか、2015年、過去数年にわたって停滞していたTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の交渉が大きな進展を見せるだろう。2014年の中間選挙でのTPPを推進する共和党の圧勝を受け、「選挙で自由貿易が勝った」と言われるように、米国の財界とオバマ政権が本気を出し始めたからだ。TPPを推進する財界団体代表のキャル・コーエン氏も、「新年の抱負は、TPP交渉の妥結と議会の承認だ」と述べ、鼻息が荒い。次のような具体的な動きが、すでに出ている。
(続く。1月3日掲載予定)
※本記事中、「日産3000億立方メートル」「日産2500億立方メートル」と記載しましたが、それぞれ「年産」の誤りで、テキサス州4大ガス田の合計値でした。お詫びして訂正します。
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