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.社会,ビジネス  投稿日:2015/6/7

[遠藤功治]【トヨタがマツダにアプローチした理由】~大手自動車会社決算と今後の課題 マツダ 2~


遠藤功治(アドバンストリサーチジャパン マネージングディレクター)

「遠藤功治のオートモーティブ・フォーカス」

執筆記事プロフィール


マツダがリーマン後の最も業績が悪かった時期に、着々と開発が進んでいたのがSKYACTIV技術です。これは、エンジン・ミッション・ボディー・シャシ―などの総合技術で、ガソリン・ディーゼル双方のエンジンに於いて、高性能のリーンバーンと高圧縮比を実現、通常のレシプロエンジンでハイブリッド車並みの低燃費エンジンを実現しました。

また、“魂動”という斬新なデザインを採用、SKYACTIVと融合させることにより、CX-5、アテンザ、アクセラ、デミオ、CX-3と相次いで新車を投入、それまで国内では全く見向きもされなかったディーゼルエンジンの爆発的な拡販に成功しました。

海外でもこれら車種は相次いでヒット、それまでマツダ車と言えば値引きをしないと売れない、という状況から、販促費を最小限にした定価販売にも移行できるようになり、これが中古車価格の上昇、しいては新車価格の安定という、歯車が良い方向に回り始めました。

図
出所: マツダ・ARJ、一部数値推定

米国ミシガン州でFordと共同で生産していたフラットロック工場での乗用車生産を中止、一時的に海外生産台数が減少し、超円高も手伝って苦しい局面も続きましたが、メキシコ新工場の建設、タイ工場の拡張などを通じて、足元では為替感応度が低下、皮肉なもので円安の恩恵がフルに効いてこない状況となりました。

前述で、株価では一人負けと指摘したのはまさにこのところで、従来であれば、対ドル1円の40-60億円余りの円安効果があったのにも拘わらず、海外生産の拡大により、足元ではその円安メリットが20億円ほどにまで縮小しています。中長期的な経営戦略から見れば妥当との判断ですが、超近視眼的に見ると、円安効果を従来ほどには受け難い体質になっています。

さて、トヨタとの提携の話に戻ります。トヨタとマツダの企業規模の差は約10倍です。トヨタの売上高は今期27兆円、マツダは3兆円、トヨタの営業利益は2.7兆円、マツダは2,100億円、トヨタの設備投資額は1.2兆円、マツダは1,050億円、トヨタの研究開発費は1.2兆円、マツダは1,250億円。

通常であれば、規模が10倍の会社が、10分の1の会社に対して、PROACTIVEに提携を持ちかけるということはあり得ないことです。時価総額に至っては、トヨタは約28兆円、マツダは1.5兆円で実に19倍の開きがあります。トヨタの手元総資金料は約6兆円ですから、マツダの規模の会社であれば、4つほど買うことも出来ます。

それが今回、出資を一切伴なわず、技術・生産を中心とした、比較的緩やかな提携となりました。この提携は一部報道によるとトヨタからもちかけた、ということですが、トヨタにもマツダにも大きなメリットが期待できるのではないでしょうか。通常、小さな会社の方が、大きな会社からの有形無形な援助をもらうことになり、相対的にメリットは大きくなる、今回の場合もある程度、これが当てはまると思います。

マツダはトヨタから主に、FCVとハイブリッド周辺の技術を取得する、米国などではトヨタの販売金融子会社の支援を受ける、そして最も重要かもしれませんが、トヨタ系部品会社との結びつきがより堅固になる、ということでしょう。一方トヨタがマツダから得るものは、SKYACTIVを中心としたレシプロエンジンの発展型、その技術、及び、開発における独自性かもしれません。

提携が発表になり、インターネットなどでの反響の大半が、マツダがトヨタに飲み込まれかねない、そのことに対する懸念でした。トヨタ車を買う購買層と、マツダ車を買う購買層は、全くの正反対、車への安心感・快適感・販売面での信頼、乗っていて面白くもなんともないが、アフターケアも含め、安心して乗れる、これがトヨタ車購買層で比較的保守的なシニア層。

マツダ車は、斬新なスタイル・わくわく感、革新的な購買層で比較的若い層が中心。仮に全てのマツダ車がトヨタのような車になれば誰も買わなくなる、そうなって欲しくない、というような懸念でしょう。5月末に開かれたトヨタの労使懇談会で、豊田社長からのメッセージが紹介されたそうですが、その中でも豊田社長はこのことに触れ、「トヨタが単なる大企業であり、応援したいとおもえるような会社ではない、世間の皆様から、そう見られているのではないかと、正直危機を感じた。マツダとの提携を通じて、お客様の期待を超える魅力ある商品を世に出していくためには、マツダさんを知り、自らを見つめ直し、謙虚に学ぶことが必要」と言っています。まさにこれが、トヨタがマツダにアプローチした大きな理由でしょう。

(この記事は、【株価一人負けのマツダ、その理由は?】~大手自動車会社決算と今後の課題 マツダ 1~ の続きで、【【トヨタ系部品メーカーからの調達を得たマツダ】~大手自動車会社決算と今後の課題 マツダ 3~ に続きます。このシリーズ全3回。)

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