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.社会,ビジネス  投稿日:2015/6/7

[遠藤功治]【トヨタ系部品メーカーからの調達を得たマツダ】~大手自動車会社決算と今後の課題 マツダ 3~


遠藤功治(アドバンストリサーチジャパン マネージングディレクター)

「遠藤功治のオートモーティブ・フォーカス」

執筆記事プロフィール

トヨタとマツダの関係について、具体的に言いますと、トヨタは1兆円超というマツダの10倍の開発費を使っている訳ですが、何から何まで全方位で取り組んでいます。開発しなければならない車種も50車以上、TNGAと呼ばれる全く新しい開発・生産方式に移行し、FCVもハイブリッドもやらなければいけません。カバーする地域も全世界であり、このような環境では、財務的資源があったとしても、人的資源や時間的資源が足りなません。

開発分野にPriorityを導入すると、従来からのレシプロエンジンやその周りのトランスミッションなどの開発が手薄になってしまいます。その結果、従来からのレシプロエンジンやディーゼルエンジンの分野では、マツダの方が先を走っているというのは、多くの自動車評論家が指摘するところです。

勿論、ハイブリッド車やFCVが今後更に重要になることは論を待ちませんが、現実問題として、現在世界中で1年間に生産されている車7,000万台超のうち、ハイブリッド車は数%に過ぎず、95%以上の圧倒的大多数がレシプロエンジン、この分野ではトヨタよりマツダが上、としたら、これはトヨタにとっては由々しき問題でしょう。マツダは現在、2018年をメドに、SKYACTIV-2という、現行SKYACTIVエンジンの発展型を開発中で、これにはHCCIという夢のような技術が導入される予定です。

マツダにとっても今回の提携は大きな意味があります。いくらSKYACTIVが素晴らしいエンジンだとしても、今後は更に高水準の開発費が足かせとなります。マツダの今期営業利益予想は前述のように2,100億円、最高益ではありますが、昨年度からは殆ど利益は伸びません。営業利益率も7%台で、トヨタの10%+には及ばず、よく比較される富士重工業の15%の半分にもなりません。

主因の一つが固定費の増加です。開発費、償却費、人件費などが今後、大きく伸びることが予想される訳です。1,000万台規模の会社に比べれば、量産メリットが低く、1ユニット当たりのコストが相対的に高くなってしまう、これをトヨタのボリュームを取り入れることで、負担を軽減させられれば、マツダにとっては大きなプラス効果となります。加えて、やはり将来に向けてFCVやハイブリッド技術の品ぞろえは不可欠でしょう。この分野で先を行くトヨタとの共同戦線はマツダにとっては明らかにプラスでしょう。

ただ、これ以上にマツダにとって重要だと思われる点があります。それは、トヨタ系部品メーカーとの関係です。実は既に、マツダにとって、最大の部品調達先の一つはデンソーです。マツダの場合は大きな系列部品メーカーが少なく、またその多くが広島近郊に工場をもち、マツダ以外との取引が少ないのが現状です。
即ち、マツダの生産台数、100万台+のスケールメリットしかない部品メーカーが大半なのです。

一方、デンソーは、売上高の半分がトヨタであり、トヨタの1,000万台+のスケールメリットがある会社です。つまり、マツダがある一定の部品を、ある値段で購入できるのは、その部品が既にトヨタの1,000万台のスケールを取りこんで、コストダウンが出来た部品だからです。つまり、間接的に、マツダは既にトヨタの1,000万台のボリューム効果を、部品調達を通して得ている、と言う訳です。但し、その部品は、往々にして、トヨタに納入されて何年か経った後の部品という場合が多いのも事実です。

今一つは、先のSKYACTIV、及び次世代のSKYACTIV-2で、技術的に最も重要な部品は、デンソーから来ているという事実です。これがコモンレ―ルと言われる部品、所謂、燃料料噴射装置です。一定のそれも非常に少ない量の燃料を、高圧でシリンダー内に噴射、これを空気と混ぜ、自然発火させるのが、前述したHCCIの技術ですが、これが成功するかどうかは、デンソーの技術レベルに掛っていると言っても過言ではありません。

つまり、マツダにとって、今回のトヨタとの提携は、トヨタ系列部品メーカーとも提携していることと同じで、コスト面のみならず、最新鋭の先端技術なり部品が、トヨタ系列の部品メーカーから今後調達できる、ということに他なりません。トヨタにとっても、自分が開発する時間が無いレシプロエンジンに於いて、マツダがデンソーの技術を使って開発してくれたエンジンであれば、より使いやすいとも言えましょう。

今回の提携に出資はありませんでした。金の切れ目は縁の切れ目とも言いますが、今回は初めから出資関係はありません。当面は無いのでしょうが、未来永劫将来のことは分かりません。豊田社長は婚約期間が一番わくわくすると言っておりました。結婚すると嫌な面がより現われてくるのというのでは身に詰まる話しですが、上記のように、開発費のシェアや部品調達の拡大などは、最終的には大きな財務的なプラス効果で、出資があるかないかなど論議するよりも、よっぽど実体にプラス効果をもたらすことでしょう。これで気になるのは他のメーカー、特に、スズキと三菱自動車です。次の提携があるのか、どうか次回は、このスズキを取り上げたいと思います。

(この記事は、【株価一人負けのマツダ、その理由は?】~大手自動車会社決算と今後の課題 マツダ 1~【トヨタがマツダにアプローチした理由】~大手自動車会社決算と今後の課題 マツダ 2~ の続きです。このシリーズ全3回)

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