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.社会,IT/メディア,ビジネス  投稿日:2015/7/21

[遠藤功治]【社長会見とメディアの姿勢に苦言呈す】~トヨタ役員逮捕と麻薬“オキシコドン” 2~


 遠藤功治(アドバンストリサーチジャパン マネージングディレクター)

「遠藤功治のオートモーティブ・フォーカス」

執筆記事プロフィール

この件の次の論点は豊田章男社長の記者会見です。ジュリー・ハンプ元役員が逮捕された2日後の夕方、緊急にトヨタの東京本社に記者が呼ばれ、豊田章男社長が記者会見を開きました。この会見に対し、世間の評価は真っ二つでしょうか。良いという意見は、真っ先にトップが会見を開き、先ずは謝罪し、その上での自分達の考えを訴えた、そのことに対する高い評価です。今回の会見では、豊田社長は、ジュリー・ハンプ氏がいかにトヨタ自動車にとってかけがえのない人物なのか、犯罪を犯す意図は無かったと信じる、ということを力説していました。

企業の広報戦略として、仮に意図せざる危機的な状況が出現した場合、真っ先にトップが表に出て、現場を仕切る、というのは最高の広報戦略・危機対応能力であると、筆者は思います。日本企業の多くで、有事の際、トップは出てきません。というか、広報部署や取り巻きが、トップに変な影響を与えないように、全面には出さないようにと努力することが殆どです。記者会見するにしても、広報担当役員だったり、海外現地法人の社長だったり、それが意味不明の発言をしてお茶を濁すことが圧倒的大多数です。今回は、真っ先に豊田社長が全面に出て謝罪をしたことは、多大に評価するべきことだと。但し、その後が最悪でした。彼が強調したのは、「彼女を信じたい」と。“Who cares!”です。

ここで問題なのは、彼女が有罪か無罪か、ただそれだけです。密輸の意図があったのか無かったのかは問題外の話。オキシコドンが、米国では比較的簡単に入手出来、日本では麻薬扱いだ、などという違いも全く問題外です。日本の法律に照らして、有罪なのか無罪なのか、それだけが問題な訳です。これ以上でもこれ以下でもありません。

今回このような問題が起きて大変残念である、当社としては捜査に全面的に協力する、任命者としてその役員を信じる思いは当然だが、結果によっては、任命者責任を取ることもまた当然です、これだけで良かったと思います。そして豊田社長、真っ先に記者会見を開いた訳ですから、ことが終了した今、もう一度メディアの前に出て、お話をされる必要があります。これで何も起こらないと、不完全燃焼で言ったきり、今回の問題をまさに、“リコール”すべきだと思います。

結局、彼女は起訴猶予処分となりました。不起訴となったので、無罪放免と勘違いしている方々も多いようですが、大きな勘違いです。起訴猶予とは、犯罪が成立していて、十分起訴は出来るのだけれど、“ぶっちゃけた話、いろいろ事情があって、今回は起訴を見送りました”ということです。嫌疑不十分により不起訴処分にした、というのとは、根本的に違う話です。

勿論、裁判等を通して起訴されなければ、最終的に有罪なのか無罪なのか、決定されない訳ですが、“限りなく黒に近いグレー”という印象があり、大変残念ながら、トヨタという会社のイメージが、今回限りなく低下しました。安倍政権による女性・外人の社会進出促進、その一環としての女性外人役員の登用でしょうから、この点でも政権の顔に泥を塗ったとの批判も出てくるでしょう。

言っておきますが、筆者は永らくランドクルーザーを7台乗り継ぎ、全国で出張・観光などの際のレンタカー使用では、ほぼ必ず、トヨタレンタカーを使うトヨタ車ユーザーです。陰ではトヨタ車の性能などをけちょんけちょんに批判しながら、表では役員や広報などと親しく話している評論家とは違います。そのトヨタ車ユーザーでさえ、今回のことは大変残念だと思う訳ですから、他は推して知るべしでしょう。

一部報道によれば(その事実関係は確認とれませんが)、今回の件で駐日米国大使が動いたとか、トヨタの常勤監査役に、元検事総長がいるとか、いろいろと外からの憶測が飛び交っています。再度念を押しますが、その事実関係は藪の中です。ただ、一般的な外部からの印象としては、決して良いものではありません。ランドクルーザーを運転しながら、地方でトヨタレンタカーで、プリウスやアクアをレンタルして乗りまわしている時に、今回の件で石でも投げられないか、本当に心配しなくてもいいですよね、豊田社長?

最後にメディアの報道姿勢に対し、苦言を吐きたいと思います。今回の件につき、メディアの報道は、一部極少数の例以外は、ほぼ一貫して腰が引けておりました。筆者がこう言って、これに対し、正面向いて異を唱えることが出来るメディアは、あの社とこの社位で、例外中の例外ではないでしょうか。

作家の高杉良氏の小説で、筆者が好きな本に、“広報部沈黙す”という作品があります。世の企業、それもいろいろとしがらみがあるであろう、大自動車会社の広報部、トヨタなりホンダなり日産なり、是非読み返して頂ければいいと思います。加えて最近、同氏から“第4権力”という小説も出ましたが、こちらも合わせて読んでみると、大新聞社やその系列TV局の報道姿勢に、今一度疑問符を湧く方々が多くいると思いますが、“今回のトヨタ自動車元常務役員麻薬容疑で逮捕”という件を、徹底的に問題意識を持って、取り上げた大手メディアはあったのでしょうか?

またぞろよく出てくる話として、トヨタの4,000億円にも上る広告宣伝費の影響です。昨年度の日本の広告宣伝費ランキングでは、SONYに次いでトヨタは2位の額だそうです(SONYが1位というのも、アナリストの立場から見ると驚愕ですが)。この広告宣伝費を巡っては、昔々、トヨタが奥田社長時代に、トヨタを批判したメディアに対し、“それなら広告宣伝費を削ってやろうか”と言ったとか言わないとか話題になるほど、トヨタの広告宣伝費はメディアにとって、垂涎の的なのでしょう。

広告媒体が急速にTVや新聞から、ITネット関係に移る中、この4,000億円というトヨタの宣伝費は重要であるのは分かりますが、今回の報道の姿勢、取り上げ方、番組でのコメント、トヨタのハンドリング以上に問題だと思うのは、筆者だけでしょうか。メディアも今回の報道姿勢やその内容につき、“リコール”が必要と感じます。

【本当に依存症ではなかったのか?】~トヨタ役員逮捕と麻薬“オキシコドン” 1~ の続き。本シリーズ全2回)

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