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.JID,.社会  投稿日:2015/11/20

[Japan In-depthチャンネルニコ生公式放送リポート]【子宮頚がん問題~報道の在り方を考える~】〜医師・医療ジャーナリストの村中璃子氏に聞く〜


2015年11月18日放送

Japan In-depth 編集部(Sana)

「あの激しいけいれんは本当に子宮頸がんワクチンの副反応なのか」−。今月11月発売の月刊WEDGEで掲載された記事はネットにも掲載され、フェイスブックでも1万4千シェアと大変な反響だったという。今回のJIDチャンネルでは、筆者の医師で医療ジャーナリストの村中璃子氏をゲストに、子宮頸がんワクチンを取り扱った報道のあり方を切り口に議論した。

村中氏はWEDGEに3つの記事を連載している。

(1あの激しいけいれんは本当に子宮頸がんワクチンの副反応なのか 日本発「薬害騒動」の真相(前篇)

子宮頸がんワクチン薬害説にサイエンスはあるか 日本発「薬害騒動」の真相(中篇)

子宮頸がんワクチンのせいだと苦しむ少女たちをどう救うのか 日本発「薬害騒動」の真相(後篇))。

安倍編集長は「こういう記事はあまり見たことがない。多くの医師がワクチン接種率が大きく下がっていることを懸念しているのに、声を上げていない」と述べた。村中氏は、「この問題が海外に波及することを、国際機関や海外の学会が懸念している」と答え、ワクチンとその副反応をめぐる日本での騒ぎが日本に留まる問題ではなくなる可能性を指摘した。

記事の反響について安倍編集長が尋ねると、村中氏は「全国の医師の方が個人的に賛同のメールを送ってくれたり、学会から講演を多く依頼されたりするようになった」と反響が大きかったことを述べ、「(これまでは)一部の(ワクチンに反対する)医師の発言がまるで民意かのようにメディアに取り上げられた」ことを感じたと述べた。

安倍編集長から記事を執筆した背景を尋ねられたところ、村中氏は「最初は私自身、もしかしたらワクチン自体が悪いのかもしれないとも思ったが、調べ始めると、すぐにそうではないことがわかった。安易なメディアの報道の加熱により偏った世論が形成され、大多数の医師が当たり前だと思っていることを言えない状態になっていることに気づいた」とその動機について語った。

「声を上げたらバッシングもあるだろう」との安倍編集長の指摘に村中氏は、「非常に重たい症状を持つ患者さんがいる中で、『ワクチンのせいだ』ということが、あたかも患者さんに寄り添うことのようであるかのような状況になっている。しかし、そのことで適切な治療を受けられない患者さんが生まれ、医師や専門家が科学的に正しいことをはっきりと言えない状況が生まれた」と村中氏は付け加えた。

厚労省は中学生を主な接種対象としつつ、10代後半、20代、30代の女性と広く接種を呼びかけていたが、副反応が問題視され始めた2013年以後はワクチン接種の勧奨を取り下げている。村中氏は「以前は7割にまで伸びた接種率が、現在は0.5%以下。月に数十名ほどしか接種していない。“定期接種”と呼ばれながら、誰も接種していない」と述べ、現状国民がワクチン接種を敬遠していることを指摘した。

日本で認可されているワクチンは、子宮頸がんの原因であるヒトパピローマウイルス、通称HPVの中でも、16型・18型のHPVを含むもので、現在は2社からサーバリックスとガーダシルという2種類の別の成分でできたワクチンが発売されている。

村中氏は「『重篤な副反応』として例えば失神が挙げられるが、これは迷走神経反射と呼ばれ、子宮頸がんワクチンに限った反応ではない。またこのワクチンは相当痛いことが治験の段階からわかっており、腕がパンパンに腫れて1週間学校を休むような子もいたが、『副反応』と『有害事象』は別である」と述べた。

「今年の9月16日に行われた(厚労省の)部会での最新報告では副反応を訴えて回復していない少女たちの人数は全国で186人。これまで338万人 もの少女たちがこのワクチンを接種しているので、回復していない副反応の発症率は現在のところ0.005%」と村中氏が言うと、安倍編集長は「もっと多くいるのかと思っていた」とコメントした。

放送中、被害者の会が作成したDVDが流された。このDVDがメディアに大きく取り上げられ、その2ヶ月後、厚労省は定期接種である子宮頸がんワクチンの接種勧奨を差し控える判断を下した。村中氏は「その後、日本産婦人科学会や日本小児科学会は、ワクチンの安全性を訴える声明を繰り返し発表しているが、メディアはそれらを取り上げていない」とメディアの報道に偏りがあることを指摘。また、「2013年12月25日、専門家たちによる詳細な調査がされた結果、『重篤な副反応の多くは心身の反応である』と国は結論付けたが、世論に配慮してか接種は再開されなかった。しかし、『心身の反応』とは『心の病気』ではなく、『心がきっかけとなった体の病気』であることを理解してほしい」とも指摘した。

心がきっかけとなった「体の病気」である心身症の例として氏は、ワクチンを接種していなかったが、両親の離婚問題をきかっけに足が全く動かなくなったという少女の例を挙げた。少女は両親の離婚が取り止められると突然、足が動かせるようになったものの、長らく足を動かさなかったため未だ歩けない状態にあるという。また、別の例としては、身体を激しく震わせる患者のビデオ映像を流しながら「偽発作(ぎほっさ)」と呼ばれる症状を紹介し、「見た目には痙攣のようだが、脳波に異常があるわけではなく、脳の異常ではない」と説明した。

ワクチン接種後に重篤な症状を訴える患者の多くは部長やキャプテン、生徒会長などの活発な女の子である。「もちろん、その子たちの全員が心身症ではないだろうが、期待に応えなければと頑張っている思春期の女の子は特に心身症になりやすいというのが、小児科医の共通意見である」と村中氏は指摘した。症状の引き金になるきっかけは、恐怖、痛み、プレッシャーなど人様々だという。

子宮頸がんワクチンの副反応は、メディアにより大々的に報道された。この点に関して村中氏は、「一般の読者や視聴者は、メディアは情報を正しく伝えてくれるものと思っているが、実際には元データを科学的に検証できていないことが多い。特に映像メディアは、映像が撮れたら報道するという傾向があり、映像に撮れた患者を『ワクチンによる被害者』だとする専門家ばかりを取り上げる」と報道の問題を指摘した。

ヒトパピローマウイルス(HPV)は咽頭癌・肛門癌の原因にもなっている。そのため、オーストラリアでは男性にもワクチンの定期接種を開始した。つまり、今回問題になったワクチンは、女性だけに関わらず、男性も意識しなければいけないトピックということだ。「ウイルスは皮膚などに常在しており、 HIVとは違ってコンドームで防げるものではない」と村中氏は指摘した。

医療機関によって異なるが、ワクチン接種の値段は1本1.6万から2.5万円と高く、視聴者アンケートでも値段を理由に接種をためらう声が大きかった。しかし、村中氏は「ワクチンには個人の予防だけでなく、『集団免疫』という概念がある。約6割以上の人が打つと予防効果が劇的に上がることが知られている」と一定程度のワクチン接種率を保つことの重要性を訴えた。

また村中氏は、「20代は打ってももう意味がないのでは」という視聴者の疑問に対し、「ワクチンは複数のウイルス型に対して効果を持つ。たとえそのうちの一つに既に感染していたとしても、ワクチンを接種することによってその他のウイルス感染を防ぐことができる」と答えた。

ワクチンを接種するべきかどうかの判断をするためにはどのような情報が必要なのか。村中氏は「リスクとベネフィットに関する信頼できる情報を得てほしい。メディアで取り上げられている子宮頸がんワクチンに否定的な専門家は全体のごく一部であり、国内外の専門家の9割9分はデータに基づきワクチンを危険だとする説を否定している。それでも、たとえば偽発作のような心身の反応が起きるリスクが、自分にとってはがんになるリスクよりも深刻だと考えるのであれば、接種しないという選択肢もあっていいと思う。ただし副反応が生じた場合でも、接種者の家族が医者や医療機関への信頼のもと、慌てずにどっしりと構えていると100%回復するという医師がたくさんいる」と述べた。

 

【以下、記事訂正しました。2015年11月24日】

・1か所目
〔訂正前〕
またこのHVPワクチンは相当痛いことが治験の段階からわかっており、腕がパンパンに腫れて1週間学校を休むような子もいたが、副反応には重篤であっても有害でないものも含まれ、『副反応』と『有害事象』は別である。ワクチンで問題視されるべきは後者であるが、メディアはふたつを混同して報道している」として、重篤な副反応と有害事象の違いについて解説した。

〔訂正後〕
またこのワクチンは相当痛いことが治験の段階からわかっており、腕がパンパンに腫れて1週間学校を休むような子もいたが、『副反応』と『有害事象』は別である」と述べた。

・2か所目
〔訂正前〕
また、偽発作をはじめとする心身の反応は『有害事象』ではなく重篤な『副反応』にすぎない。それでも、もしそれが起きるリスクが自分にとってははがんになるリスクよりも深刻だと考えるのであれば、接種しないという選択肢もあっていいと思う。

〔訂正後〕
それでも、たとえば偽発作のような心身の反応が起きるリスクが自分にとってはがんになるリスクよりも深刻だと考えるのであれば、接種しないという選択肢もあっていいと思う。

(この記事は、ニコ生【Japan In-depthチャンネル】2015年11月18日放送 を要約したものです。youtube ニコ生【Japan In-depthチャンネル】


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