[Japan In-depthチャンネルニコ生公式放送リポート] 【仏同時テロ:メディアの報道ぶりを評価する】~日本報道検証機構楊井人文氏に聞く~
2015年11月25日放送
Japan in-depth 編集部(Sana)
14日未明にパリで130人以上が死亡する同時多発テロが発生してから約10日が経過した。この間にもマリ・エジプト・チュニジアでテロが相次ぎ、トルコ上空を飛行していたロシアの爆撃機をトルコが撃墜させるなど、中東〜ヨーロッパで緊張が高まっている。今回は、日本報道検証機構(GoHoo)とのコラボ企画として、同機構代表の楊井人文氏と共に、パリ同時多発テロに始まる世界のテロ事件や国際間の緊張関係を、日本のメディアがどう報道したかを検証した。14日以降、連日テロや国家間の衝突が起きている。日々アップデートされる情報を日本のメディアはキャッチアップできているのだろうか。楊井氏は「(パリ同時多発テロの)実行犯の人数が、当初報道された8人から7人へと変わり、今は9人と言われている。そして計画に関与した首謀者は実行犯の人数には含まれていない。これらのことから、事件の全体像は未だ掴めてないと言える。ただ、報道する情報が錯綜しているとはいえ、その状態は日本のメディアに限らずヨーロッパのメディアも同様だ」とし、日本のメディアが著しく報道に出遅れているわけではないことを指摘した。
14日の時点で日本メディアが特番を組まなかったことに対し、ネットで批判の声が挙がった点について、楊井氏は「NHKでは14日の早朝から午前にかけて、CNNの速報後まもなくテロ関連番組を報道した。確かに特番はどの局も編成していなかったが、通常編成のなかで放送していたようだ」と述べた。安倍編集長は「民放は取材のリソースが圧倒的に少なく、フランス語を喋れる人材も足りないため取材力が弱い。また、現地の関係当局と強いコネクションを持っている特派員もいないだろうから、東京で新聞やテレビなどから二次的な情報を獲得する方が早い場合も多い。そして日本に中継するための中継車もない。(特番を編成するためには)専門家を呼んだり、スポンサーとすり合わせをして枠を取ったりするのに時間もかかる。そもそも、民放が特番を行うのは困難だった。まず一次情報はネットから、という時代になりつつある」と指摘した。「日本人に被害がなかったことも、大大的に取り上げられなかった理由の一つなのでは」と楊井氏は付け加えた。
15日のTBS「BS週刊LIFE」、16日のフジテレビ「BSプライムニュース」、テレ東「未来世紀ジパング」などの番組では、テロ関連報道に各局取り組んでいた。「特番がなかったことを大きく責める必要はないだろう。また情報をテレビ番組だけに頼る時代ではなくなっている」と楊井氏が主張すると、「自分から情報を取りに行くことができることが今の時代の特徴だ。だがそうやって情報にアクセスする人はごく一部だ」と安倍編集長は指摘した。
新聞の報道ぶりはどうであったか。楊井氏は「読売は14日〜24日まで毎日ほぼ1面はテロ関連情報で、単純に面の数を数えると10日間で77面。朝日も63面。毎日は朝夕全て1面、合計71面で取り上げた。情報源としては有益だったのではないか」と、新聞の報道姿勢を評価した。
一方で、メディアの報道に問題はなかったのか。「過激派組織『イスラム国』(IS)が犯行を表明する前から、新聞・テレビ双方がISの犯行であることを断定していたようだ。またアバウト容疑者は首謀者であることも、明確な根拠を添えて主張できていた報道はなかった。またロシアの旅客機爆破事件とISの結びつきも不明瞭だ」と楊井氏は述べ、冷静に事実を分析できているメディアがほとんどないことを指摘した。
「日本がテロに過敏に反応しているのでは」と安倍編集長が質問すると、楊井氏は、「実行犯が8人である」という現地メディアの情報に疑問を呈した毎日新聞の記事を例に挙げ、「日本はヨーロッパ・中東から地理的に遠いことを利点に、もっと冷静に、客観的に情報を分析してもいい」と述べた。
安倍編集長の「これまでもそうだが、今回もテレビは、ISらが制作している広報映像や(犯行声明などの)テロリストの肉声を何度も繰り返し放送している。これはテロに加担する行為であり、止めるべきだ」とテレビの放送姿勢を批判した。これに対し、楊井氏は、「テロリストは自分たちの力を誇示するためにプロパガンダ活動やテロを行っている。彼らの主張を報道することは、彼らの思う壺になりかねない」と賛同した。
日本はテロにどう向き合うべきか。「情報収集体制が弱い」という楊井氏の指摘に対し、安倍編集長は「安倍首相は情報収集専門の機関を設けようとしているが、既に警察・公安・外務省・防衛省・内調という五機関がある。縦割りの機関が、情報をお互いが融通することがはたしてできるのか」と問題提起をした。加えて、テロを受けるリスクを減らすための案として「今後冬を迎える難民のためにも、力ではなく人道支援で。」と指摘した。
最後に楊井氏に、メディアに求めるものを聞いた。「ジャーナリズムには、断定(根拠のない情報を主張する)・主張(自分たちの主張に沿った情報しか流さない)・利益集団(特定の団体の代弁者)・検証の4形態がある。ジャーナリズムの9つの原則(注1)の3つ目、『Its essence is a discipline of verification ~ジャーナリズムの真髄は検証の規律である~』という言葉もある。分析をするためにも、正しい事実認識をすることが大切だ」と述べた。
- ジャーナリズムの原則
Bill Kovach, Tom Rosenstiel “ The Elements of Journalism: What Newspeople Should Know And the Public Should Expect ” (THREE RIVERS PRESS,2001)
(1)Journalism’s first obligation is to the truth.
(2)Its first loyalty is to citizens.
(3)Its essence is a discipline of verification.
(4)Its practitioners must maintain an independence from those they cover.
(5)It must serve as an independent monitor of power.
(6)It must provide a forum for public criticism and compromise.
(7)It must strive to make the significant interesting and relevant.
(8)It must keep the news comprehensive and proportional.
(9)Its practitioners must be allowed to exercise their persona
(この記事は、ニコ生【Japan In-depthチャンネル】2015年11月25日放送 を要約したものです。youtube ニコ生【Japan In-depthチャンネル】)