[西村健]【東京ブランドを問う、その3:見えてこない「目標」】〜東京都長期ビジョンを読み解く! その35〜
西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
「西村健の地方自治ウォッチング」
「東京ブランド」推進キャンペーンが始まった。ブランドコンセプトは「伝統と革新が交差しながら、常に新しいスタイルを生み出すことで、多様な楽しさを約束する街」。
このブランドコンセプトをもとに様々なキャンペーンが実施されている。非常に洗練された形での取り組みが多く、感心してしまう。先日は「Halloween and Tokyo」としてきゃりーぱみゅぱみゅさんがハロウィーンに合わせて活動していた。非常に楽しそうだ。
「伝統と革新が交差しながら、常に新しいスタイルを生み出すことで、多様な楽しさを約束する街」。このコンセプトはなかなかセンスのある言葉の使い回しだと感心してしまった。広告会社のコピーライターのプロとしての凄みをそこに感じる。東京の2重性・2面性を捉えつつ、強み・魅力(「多様な楽しさ」)を提示し、さらに今後のあり方を提示している。将来的にも発展することがすでに予測され、日本国中で未来を「約束」できる唯一の都市の底力もそこには体現されている。
しかし、このコンセプトには主語がない。東京都民なのか、都庁なのか、企業なのか。
そして、目標は何か、事業を通じて何を目指すのか、そしてその達成度はどのように測定されるのかは見えてこない。
地方自治体では、三重県庁での「行政評価システム」の導入によって、事業の成果やコストが数値化され、評価される仕組みが開始された。その後、政策評価法に結実し、事業仕分け・行政事業レビューに発展した。現在は当たり前のように「行政経営」という言葉が定着した。事業を評価する際、何をどれだけやったか(アウトプット)ではなく、何をなしとげたか(アウトカム)、つまり成果を問われる必要性は理解が広まったものの、多くの行政、特に国の政策評価をみると、まだまだ課題が多い(地方創生で石破大臣が「KPI」の重要性を掲げているが)。
その視点から見ると、このブランドキャンペーンの成果は見えてこない。予想するに、予算書には、関連イベントの開催回数、参加者数、ブランドの利用件数などが書いてあるのだろう(間違っていたらすみません)。
目標が「見える化」できていないこと、定量化できていないことを批判するためにこの文章を書いているのではない。ブランド推進キャンペーン1つにしても、誰に向けて行っているのか、そもそも目的が何なのかが明確になっていないと総括、検証、次への改善ができないと個人的に思うのだ。
筆者は以前、行政経営コンサルタントとして、首長や多くの自治体職員から「成果は何か?」「成果はどうなったのか?数値で出して」と問われて(苦しみ抜いて)きたし、自分の仕事として「アウトプットではない数値目標」の必要性を説いてきた。こうした立場からの不満で書いているわけではないが、東京都庁の委託業務の姿勢は公開されるべきだし、問われるべきだろう。
東京都庁が事業成果をどのように「約束」するのかが問われている。