[西村健]【東京ブランドを問う、その2:公共性なきブランド戦略】〜東京都長期ビジョンを読み解く! その34〜
西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
「西村健の地方自治ウォッチング」
高層ビルがそびえる都会のジャングル。電灯とネオンが24時間輝き続け、きらびやかなストリートを、着飾った男女が自信ありげに闊歩し、行き交う人たちに欲望、嫉妬、虚栄心をばら撒く。
ぶつかりながら、よろめきながら、周りを見ずには歩けない一方で、周りへの無関心さゆえの騒音、喧騒が東京の街に「盛り上がり」と期待感を夢見させる。
権力とカネを持った人たちは我が物顔で自由を謳歌し、際限のない欲望は肥大化する一方、組織の命令や立場に縛られた人たちは孤独に悩み、「身の程」という言葉に尊厳を奪われる。
嫉妬と欲望が渦巻き、カネの匂い、打算の臭い、クリエイティブの香りが奇妙な形で同居する東京。宮台真司氏がかつて言った「友達以外は皆風景」の東京は凄まじいスピードで今も進化し続ける。
そんななか、東京都は「東京ブランド」推進キャンペーンをはじめた。
東京ブランドとは何か。東京都の定義では、「東京は、古き良き伝統が受け継がれている一方で、最先端の技術が融合し、新しい価値を生み出し変化し続ける、世界でも類を見ない多様で魅力的な都市」だそうだ。なかなかよくまとまった表現である。
ブランドコンセプトは「伝統と革新が交差しながら、常に新しいスタイルを生み出すことで、多様な楽しさを約束する街」で、東京の体験価値は「東京の日常に根差した人・モノ・コト・街の魅力」ということらしい。
さらに、東京独自の価値は、「Unique(独自の伝統と先端の文化が共存し集積する東京)、Excellent(すべてが革新的で洗練されたクオリリティを持つ東京)、Exciting(常に変化し続けダイナミックで活力ある東京)、Delight(おもてなしの心や親切、誠実さに溢れている東京)、Comfort(あらゆるものが安心・正確・便利で快適に過ごせる東京)」だそうだ。頭文字を取るとUEEDCと、TOKYOになっていないのはご愛嬌か。
コンセプト、体験価値は一見、いい感じにまとまっている。非常に評価できるのかもしれない。しかし、よく考えてみると意味不明だ。そもそも東京の街が新しいスタイルを生み出すのではない、そこで働く人や生きている生活者や企業が結果として生み出す。街や地域など「箱」であり、「舞台装置」でしかない。街が主体など、奇妙な全体主義の視点のように思える。
さらにわからないのが独自の価値だ。
伝統と先端の文化が共存しているというが、どう解釈すればそのなるのか。どういった理由なのだろうか。あれほど繁栄した江戸の面影は、一部の観光施設・仏閣、江戸東京博物館と地名にしか見出せない。
また、「おもてなしの心や親切、誠実さにあふれている街」が、どうしたら自殺者数2620人(平成25年度)、10代、20代、30代の死因のトップが自殺であること、生活への満足度が44%(平成26年度、都民生活に関する世論調査)、都道府県中38位の幸福度(法政大学、幸福度都道府県ランキング)といった状態になるのだろうか。
「あらゆるものが安心・正確・便利で快適に過ごせる」面もあるが、非常に混雑していて、心理的にゆとりのない、ストレスフルな面もある。美味しくない空気、空がみえなく緑や水の憩いが少ない街並み、高度に効率性重視で感性と自由さを制限する公共空間。挨拶も会釈もない、他人に無関心な社会だ。意識レベルでは東京は快適かもしれないが、多くの我慢と諦めのもとにその快適さは成り立っている。
私が東京の独自価値(のようなもの)をまとめると以下のようになる
T:tower(東京タワー、そびえ立つタワーマンション)
O:oriented(政治経済文化、すべての中心)
K:knowledge(知識、あらゆる情報)
Y:yen(円・宴・艶:お金、イベント、華やかさ)
O:ongoing(現在進行中:都市開発も経済も全てが)
こんなところだろうか。TOKYOでまとめられた。
公共性を商業主義、資本主義が席巻し、日本の情報と価値と権力を独占する都市東京。こうした姿を覆い隠すブランドにいかほどの意味があるのか。このようなブランドを守る気概を都民が持てるのだろうか。本物のブランドは「よく見せる」ための虚飾で成り立った物ではないはずだ。