[古森義久]【米大統領選・共和党候補トランプ旋風止まず】~揺るがない人気の謎は?~
古森義久(ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授)
「古森義久の内外透視」
アメリカ大統領選で異変が起きている。共和党候補指名の争いで暴言放言で知られる大富豪のドナルド・トランプ氏がなおトップ人気を誇っていることだ。人種差別や女性蔑視の乱暴な発言の多いトランプ氏の支持率が今年7月に多数乱戦の共和党候補のなかで首位に躍り出たとき、政治専門家もメディアも一様に「真夏だけの出来事」(ワシントン・ポスト)と決めつけていた。だが秋が過ぎ、真冬となってもトランプ氏はどの世論調査でも他の13人の共和党候補を引き離す先頭走者のままなのだ。では一体なぜトランプ氏はそんな人気を集めるのか。
彼の型破りの毒舌は止まらない。オバマ大統領や共和党の他の候補を「まぬけ」というような言葉でののしるのはごく普通である。11月13日のパリでの同時多発テロの後はイスラム系への非難をエスカレートさせた。
「アメリカのイスラム系住民をみな当局の監視用データベースに登録させるべきだ」
「9・11テロの際にはニューヨーク近郊のイスラム系住民数千人がいっせいに喜びの歓声をあげた」
特定の人種や宗教の市民だけを特殊に登録するというのはいまのアメリカでは違法である。普通ならそんな提案をした側が人権の侵害として糾弾される。ニューヨーク近郊のイスラム系住民がいっせいに9・11テロに歓呼の声をあげたという話はそもそも事実ではない。いずれも人権侵犯、そして事実にも反する発言が伝えられた。トランプ氏はそのうえニューヨーク・タイムズの記者の身体障害をあざけるような言動をもみせた。
だが11月後半の一連の世論調査ではトランプ氏はなお共和党系有権者の間で支持率28%から32%を記録し、と首位に立った。元神経外科医のベン・カーソン氏の22%、上院議員のマルコ・ルビオ氏の14%という数字を依然、はっきりと引き離したのだ。そして12月に入ってもその勢いは止まらない。
アメリカの政治や選挙の専門家たちはこぞってトランプ氏の人気はほんの短期だと予測していた。だが共和党支持者の間での首位の人気は7月から5か月が過ぎても揺らがないのだ。その理由はなんなのか。いまのアメリカ関係各界ではこの謎の解明が盛んである。
いまの多様な分析のなかで最も頻繁に指摘される要因は「有権者の怒り」のようだ。「現在の政治状況に激しい不満を抱く有権者にトランプ氏がさらに激しい怒りをオバマ政権や共和党体制派(エスタブリッシュメント)にぶつけて、有権者の感情への共鳴をアピールすることが効果をあげている」(政治選挙宣伝専門家のジョン・モリス氏)というのだ。
前回の大統領選で共和党のミット・ロムニー候補の選挙参謀だったシャーマイケル・シングルトン氏も「トランプ氏は有権者の怒りを代弁し、複雑な政治課題を単純化して既存の体制を叩くことで成功している」と解説する。
ワシントン州などのラジオの保守系トークショー司会者のトム・アンダーソン氏は草の根でのトランプ人気について「誰をも恐れぬ反ワシントンの姿勢、オバマ大統領が言葉だけで終わった『希望』を彼なら実現しそうな期待がその理由だろう」と述べる。
一方、トランプ氏が得意のマーケティング技術を駆使して早い時期から全米の超保守組織に幅広く支持層づくりを進めてきたことを指摘する専門家たちもいる。さあこのトランプ旋風、一体どこまで続くのか。