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.国際,.経済  投稿日:2015/12/23

[比嘉陽子]【アフリカ市場:現地に情報を求めよ】~特集「2016年を占う!」アフリカ経済~


比嘉陽子(クリーンテックビジネス事業開発員)

比嘉陽子の世界最貧国から考える」

執筆記事プロフィール

世界市場に抜け目のないコカコーラ社は、アフリカでもいち早くその基盤を作り上げた。一日にほんのわずかな収入、または支出しか許されない貧困層が、コーラなんてものを買うだろうか?答えは、YESだ。買う。買っている。

しかも、商品が売れる機会は、本人たちが自身で購入するタイミングだけではない。アフリカの多くの国では、会議や、または住民参加型の集会やトレーニングの際、必ず休憩時間やランチ時間に飲み物が振舞われる。コーラか、ファンタである。それ以外の選択肢は、マラウイの場合はsoboというファンタの類似品である。

つまり、競合が少ない。これが日本だとして、会議中に(関係者に飲料会社が含まれていなければ)選択肢はどうなるだろうか。コンビニやスーパーの飲料コーナーに並んでいる清涼飲料水を思い浮かべると、選択肢の数はとても比較にならない。とんでもない多さだ。

よく、アフリカでのビジネスが検討される際に魅力として挙がるのは、高い経済成長率、急速な産業の多様化、人口の多さと、まだまだ伸び続ける人口増加率による更なる市場規模拡大への見通しであろうか。一方で、課題は54カ国という国の数の多さと、特に内陸国など他国を経由することが必然である国の物流インフラ、更には安定的な電力供給の不足などが挙げられる。

これに対して、アフリカ各国では近隣諸国と経済同盟を結び、サヘル・サハラ諸国国家共同体(CEN-SAD)、南部アフリカ開発共同体(SADC)、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)、南部アフリカ関税同盟(SACU)、東・南部アフリカ市場共同体(COMESA)などの経済共同体を組織し、域内における人材・物資・資金の自由な移動を促進している。近年のアフリカは、どの国もプライベートセクターの投資を最も求めており、より投資が行われやすいような環境の整備に努力がみられる。確かに課題はある。しかし、今、このタイミングでアフリカ市場に参入しないことによる機会損失も十分に検討すべきである。

アフリカの多くの国では、今ちょうどライフスタイルの変化を迎えているところか、既にもう迎えている。農村部はさておき、たとえば都市部の大学に通う若い世代では伝統的なトウモロコシの粉などを練った主食に代えてフライドポテト(フレンチフライ、チップス)を選ぶ傾向が強く、伝統的な衣装ではなく洋服を好み、海外製のカバンや靴を身につけ、ストレートの髪やスリムな体型に憧れる人口も増えている。

アフリカの特徴の1つは、その平均年齢の若さにある。しかも、人口増加に伴い、日に日に若返っている。コカ・コーラで育った若者にとって、コーラの味は、イコールしてコカ・コーラの味となる。海外に長期赴任の経験がある日本人ならば、チャイナショップで購入した中国醤油の味に違和感を覚え満足できなかった経験はないだろうか。これは飲食に限った話ではなく、全ての製品が彼らの(特に若者の)経験と共感を形作る。先行者優位の法則である。

アフリカは、日本に対してとても友好的であり、またMade in Japanに対する信頼は大変に厚い。日本は、物理的な距離も手伝って、奴隷貿易や植民地化など、アフリカに対して悪いことをした歴史がない。こういった意味では、日本企業はアフリカ市場において強みがあるようにも思える。ただし、一方で日本人が圧倒的に不利なのは、そのアフリカ経験の欠如である。

例えば、あなたが日本のタイヤのメーカーに勤めていて、アフリカのある国への進出を検討しており、現在国民の足として使われているタイヤがどの会社のどのブランドで、摩耗状況や買い替えのタイミングはどうであるのか知りたいと思っているとしよう。きっと日本国内に居ては、信憑性のあるデータは入手できないだろう。アフリカに精通した調査会社に調査を依頼するのでなければ、自社の人間をアフリカに送り込むことになる。さぁ、どのように調査をするのだろうか。

マラウイの場合、この調査に最も向いている場所は、警察の検問所だろう。内陸国であるマラウイでは、治安や密輸・密入など様々なリスクへの対策として、日本で見られるような抜き打ちの検問だけでなく、県境など大きな区域ごとに検問所が設置されており、ほとんどの車両は一時停止を求められるし、全ての車両がいつでも停止できるスピードまで減速して通過する。タイヤのブランドや状態など、生きたデータを手に入れるためにはここが最適なポイントの1つである。調査請負会社のスタッフではなく、整備に見識のある自社の社員であれば、それぞれのタイヤがどのように日常点検されどのようなメンテナンス状況であるのかまで読み取ることができるだろう。

しかし、アフリカの地を踏んだことのない社員が、実際に走行に使われているタイヤが検問所で目視できること、または会議で必ず清涼飲料水が配布されることなど、どうやって知るのだろうか?当たり前過ぎるかもしれないが、その解は現地に詳しい人物の登用にある。現地人の方が尚良い。私、個人的にはアフリカの最大の魅力は、その人材にあるのではないかと思っている程だ。彼らは、日本人と比較して大変に起業家精神にあふれ、クリエイティブ能力が高い。課題やできない理由を並べ立てるのではなく、どのようにしたら実現できるかについて思考する。

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ここアフリカの地で生活をしていると、彼らのクリエイティブ性に驚かされることが多いが、1つわかりやすい例を挙げてみよう。誰が始めたのか、金融サービスにアクセスできなかった農村部への送金に、電話の取次ぎオペレーターに料金プリペイドのカード番号を伝えて手数料を渡すという方法が取られるようになった。これは、ケニアのM-PESAに代表されるように後に携帯送金サービスへと発展した優れた解決策であった。

ビジネスパートナーとして、または自社の一員として現地人が居てくれれば、こんなに力強いことはない。留意すべきは、アフリカに居る人間だけがアフリカ人ではないことだ。海外で教育を受け、海外で働く在外組にも目を向けて人材を探すとさらにパイが広がる。

先進諸国の消費は頭打ち、アジアは既に競合がひしめき、次の市場はアフリカであるのは確実で、企業にとって問題はいつ動くか、の一点に絞られる。

ライフスタイルの転換期に居る感度の高い若者たちに対して先行優位のポジションが取れる今、「アフリカも検討しています」とアフリカビジネスセミナーの類に顔を出す企業のうち、どこがいち早く日本国内の会議室での議論をやめて、現場に生きたデータを取りに来るだろうか。

もうすぐ年が明ける。2016年の動きが楽しみである。

*トップ・文中写真©比嘉陽子


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