政治経済的に行き詰まるロシア 特集「2016年を占う!」ロシア その1
文谷数重(軍事専門誌ライター)
ロシアは日本に擦り寄るのではないか?2016年の予想はそれだ。ロシア経済の不振は長期・深刻化する見込みにある。そして欧米との対立は解決しない。つまりロシアが経済交流を期待できる地域は極東しかない。特に中国と日本に接近するだろう。
これは日本にとってチャンスである。エネルギー・水産資源の安価・安定供給が実現できるためだ。日本はロシアの勧めるままに買い叩けばよい。もちろん、ロシアと対立する米国や欧州は苦言を呈するが、結局は不満の提示するものにすぎない。それを聞いても現実的な利益もなく、従わなくとも不利益はない。
ただし、領土問題は解決しない。ロシアは領土問題についてリップサービスをするが、決して譲歩はしない。ロシア人にとっても北方四島は神聖な領土である。日本人に引き渡す選択肢はない。もしそれを持ち出せば売国行為とされ、政府は倒されてしまう。
■ ロシアは行き詰まる
2016年、ロシアは内外での行き詰まりに直面する。14年から続くウクライナ問題と15年からの原油価格暴落に加え、16年にはエルニーニョによる農業不振が加わる可能性があるためだ。
・ ウクライナ問題
2014年のウクライナ問題以降、ロシアは欧州と対立を続けなければならなくなった。経済では西側の制裁を受け、軍事的には増強されたNATO軍事力と対峙する形である。
肝腎のウクライナでもロシアは勝利していない。見た目では強引な切り取りに成功したように見える。だが、その成果はウクライナ東部とクリミア半島といった一部に限定される。そして、ロシアはそれと引き換えにウクライナ本体への影響力を失い、さらに、永遠に解決しない領土問題での対立を抱え込んでしまった。
・ 原油価格下落
そして、2015年には原油価格下落に直面している。ロシア経済は一次産品の輸出に依存しており、その中核は原油である。そして、その価格低落が止まらない状況にある。2014年には原油はバレル100ドル内外あったが、15年の年初には60ドルを割り込み、年末はついに35ドルとなった。これは欧州からの経済制裁どころではない衝撃である。
この影響は、特にモノグラード経済に大きくでるだろう。ロシアには単一工業に特化している都市が多い。植民地での単一栽培=モノカルチャー政策に掛けて単一(生産)都市=モノグラードと呼ばれる。
もともとその不振は政権にとっての課題となっている。現地ではインフラ、社会保障といった公共サービスは企業頼みである。その企業が麻痺すると生活はなりたたない。特に極寒地でのセントラル・ヒーティング供給は生死に関わる要素である。
その上での原油価格の下落と景気後退である。石油工業や、その価格下エネルギー関連産業都市では、深刻な問題が発生するだろう。そして、政府の財政援助にもおそらく限界がくる。これまでは原油価格高騰と、それによる経済成長の余力で各都市に援助ができた。だが、今後はそれもできなくなるためだ。
・ エルニーニョ
2016年にはさらにエルニーニョによる農業不振が加わる可能性がある。ロシアは高緯度にあり、その農業は天候不順の影響を受けやすい。エルニーニョそのものは14年末に発生しているが、それにもかかわらず2014年と2015年は豊作で済んだ。だが、今冬エルニーニョは昂進して最盛期となり、その強さも過去20年で一番となっている。来年度の農業生産に大きな影響を与える可能性が高い。
もちろん、餓死者は発生しない。そこまでの食料不足は考えられない上、仮にそうなっても統制や配給で切り抜けられる。ロシアの政府機構が存在し、物流が止まらないかぎりカロリー不足といった事態は発生しない。ソ連崩壊後でも餓死者は出ていない。
だが、食肉不足は生じる。これは国民の不満に直結する重要問題である。ロシアは最近では飼料用穀物に力をいれているが、輸出量がたいしたものでないように余力は小さい。そこで天候不順となれば飼料不足が発生し、食肉供給は減少し価格も上がる。
不足は輸入では補えない。エルニーニョの影響となれば農業不振は地球規模に及ぶ。各国がそれを補おうとする。特に中国が自国需要を満たすために爆買いをするだろう。結果、飼料も食肉も国際価格も上がる。原油価格低迷に呻吟するロシアには勝ち目はない。
・ 独裁体制への信頼を揺らがす
これらの問題により、プーチン体制は追いつめられることになる。独裁には国民の支持が必須である。プーチンは2000年からの約15年間、急速な経済成長を実現することで、国民の信頼を勝ち得て支持を保っていた。実際に経済成長は原油の国際価格が高止まりになった結果であるが、国民はプーチン政権の支配の結果としてそれを讃えた。だが、西側の経済制裁や原油価格下落に起因する景気低迷により、今後はそれも望めなくなる。
今、ロシアがシリア情勢にのめり込んでいる理由はそこにあるのだろう。海外での勝利の演出によって国民の目をひきつけ、国内問題での不満を逸らすものだ。しかしそれにも限界がある。シリア情勢は一気に改善するものでもなく、国民もいずれは飽きる。
この状況のなかでエルニーニョによる農業不振が現実化すればどうなるだろうか?不況の上、食肉の高騰と不足が起きればロシア国民の不満は一気に噴出する。独裁体制への疑問を抱くだろう。
(写真:”Russia edcp relief location map” by Uwe Dedering – 投稿者自身による作品. Licensed under CC 表示-継承 3.0 via Wikimedia Commons)
(【ロシア、対日資源バーゲンに動く】~特集「2016年を占う!」ロシア その2~ に続く。全2回)