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.社会  投稿日:2016/1/8

[清谷信一]【納税者も驚愕、陸自衛生学校体育館狂騒曲 その3】~浮世離れ?「衛生」総本山で疑惑のコンサート~


清谷信一(軍事ジャーナリスト)

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自衛隊の三宿駐屯地には、3自衛隊の各種病院の頂点に立つ自衛隊中央病院や陸上自衛隊の衛生学校、看護学校など衛生関連の教育と研究機関が所在している。その三宿駐屯地で新しい体育館の落成を記念したコンサートが催された。だがそれは必要性が怪しく、公私混同ととらえられかねないものだった。

このコンサートでは陸上自衛隊東部方面音楽隊が演奏を行ったが、それ以外に2人の「民間人バイオリニスト」が演奏した。東部方面音楽隊の出演は至極当然だ。問題はこの2人だ。一人はプロバイオリニストの中澤万紀子氏で、ピアノ伴奏者を伴って演奏した。彼女は自衛隊中央病院長、瓜生田曜造氏(防衛省技官 元海将)の実娘である。

全国に所在する自衛隊病院は陸自、海自、空自の共同機関であるが、自衛隊中央病院はそれら自衛隊病院の頂点に立つため、その病院長には、陸自、海自、空自のいずれにも中立な立場になるよう、退職した自衛官が防衛省技官として就任している。

中央病院長は自衛官としての現役を退いているとはいえ、その影響力は大変大きいものであり、実の娘を演奏者として招いたことは、公私混同を疑われても仕方ないだろう。常識で考えれば「李下に冠を正さず」で候補から外すだろう。

しかもコンサート後に彼女の握手会、サイン会が行われてCDの販売まで行われた。翌日の防衛大臣の記者会見で筆者は、中谷防衛大臣にこの販売は許可を得てのものだったのか質問をした。陸幕広報室から「CD販売の許可は取っていなかった」と回答が来たのは4週間以上が経過した11月12日であった。販売の事実の有無、販売の申請の有無は即座に確認できるはずだ。単純な事実確認が何故できないのか不思議である。

そしてコンサートでは更に、もう一人の「バイオリニスト」の登場が聴衆を驚かせた。8月に退職した石川卓志元陸上自衛隊衛生学校長(現在は五反田リハビリテーション病院院長)がサプライズ演奏者として、中澤氏とセッションを行ったのだ。石川元校長はバイオリンが趣味で知られていた。石川元校長は演奏会終了時、中澤氏、東部方面音楽隊と共に感謝の記念盾まで受け取っていた。

筆者は先述の記者会見において、出演謝礼についても大臣に質問した。質問から約3週間後の10月20日に寄せられた防衛省の回答は以下の通りだ。

「バイオリニストの中澤様を本来落成式に招へいしたことは、実行員会(委員長:衛生学校総務部長)において、本式典の目的の一つである体育館建設に携わった隊員等への慰労のために限られた予算の中で盛大に行いうる方法ということで、演奏会の開催案があがり、無償で参加して頂くプロバイオリニストとして中澤様に依頼したものと聞いています。また前衛生校長の招へいは、在任時の体育館建設への尽力に敬意を表して計画されたものです」

そして、11月12日には追加の内容として陸幕から以下の回答もあった。

「バイオリニスト及びピアノ伴奏者を選定した過程は、中央病院長の御息女知人 (民間人) により招へいの話が持ち上がり、無償で参加して頂けるとのことで、実行委員会(委員長:衛生学校総務部長)において、本式典の目的の一つである 体育館建設に携わった隊員等への慰労のために、限られた予算内で盛況に行いうる方法として決定したものです」

「バイオリニスト及びピアノ伴奏者を無償で体育館落成式に招へいしたことは事実であります。ただし、隊員の自発的な参加によって組織されている互助会等から、両者に対し隊員の謝意として礼を支出したと聞いています。謝礼に関しては、互助会等が支出していることから、 金額、名目及び領収書について我々としては回答できません。謝礼に対する源泉徴収は、国費を使用していないため、我々としては回答できません。また、前衛生学校長にお車代は支出していないと聞いています。なお、記念の盾は、16,200 円(税込)です」

この回答は不自然で、多くの疑惑が残る。まずこの回答の以前の回答、すなわち内局からの回答ではこの「出演料は無償」という話は出てこず、4週間後の11月12日になってこのような回答が出てきたことは不思議だ。

それでも「身内」である中澤氏だけなら理解できるが、「身内」ではない伴奏のピアニストも無償でお願いしたことになる。今日、日音大の学生にお願いしてもバイト料を払うのが常識だ。国家機関がプロをタダで働かせようというのはどういう了見だろうか。少なくとも出演料が無償ならば、交通費ぐらい支給するのが社会的な常識だろう。

それほど予算が無かったならば、そもそもコンサートなど開かずに、式典だけを行えばよかっただろう。東部方面音楽隊を動かすだけでも相応の費用がかかる。これに比べたら両名の謝礼、車代などたかが知れている金額のはずだ。

しかもこれがコンサートホールの落成式ならともかく、体育館の落成式である。バイオリニストをわざわざ招聘する理由はない。しかも音楽的な常識からすれば、ブラスバンドとバイオリンの共演というのはかなり珍奇である。

筆者がコンサート直後にこの問題を中谷大臣に質問したことで、衛生学校から謝礼の支出ができなくなり、「善意の第三者」による「自発的な支出」としたのではないだろうか。そのように疑われても仕方あるまい。

取材によると件の「互助会」は今年の春に三宿駐屯地でいつの間にか立ち上がった「衛朋会(えいほうかい)」である。この会は、衛生学校に関わった隊員、職員であれば職種に関わらず誰でも入会できる。ある隊員などは、現在、中央病院に勤務しているにも関わらず、異動前に衛生学校に勤務していたことから、入会と1,000円程度の会費を支払うことを求められたという。「衛朋会」は都合の良い資金源をつくるために衛生学校OBが「思いついた」ものだ、とこの人物は述べた。これは一種の裏金作りではないだろうか。しかも件の石川前校長もこの「衛朋会」に深く関わっているという。

陸自で部隊が、その所属する隊員の自発的な意思によりお金を集め、部隊として必要な物品を購入する、厚生旅行の積み立てをする等の運用することはよくあることである。しかし、会費を払った隊員の多くがこのような「政治的な支出」に使われることを是としたのだろうか。まるで労働組合が組合費から政治犯の弁護料やプロの活動家に活動費をカンパするのと同じように見える。

(この記事は、【納税者も驚愕、陸自衛生学校体育館狂騒曲 その2】~最前線で隊員の命を救えるか?~ の続き。
【納税者も驚愕、陸自衛生学校体育館狂騒曲 その4】~「謝礼は互助会等から支出】の不思議~に続く。
本シリーズ全5回)

トップ画像:バイオリニスト中澤万紀子さんと石川卓志元衛生学校長によるセッション ©清谷信一

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