[西田亮介]【改めて寛容な社会と経済成長を肯定する革新的提案型野党待望】~特集「2016年を占う!」国内政治~
西田亮介(東京工業大学准教授)
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2016年の仕事始めは1月4日だから、年があけて、随分時間が経ってしまった。安倍編集長から昨年末にもらったお題が「2016年を占う!」であった。昨年10月末に、とくに2000年代以後の時々の政権と自民党の広報戦略、ネット選挙のアプローチなどを論じた『メディアと自民党』(角川新書)を出版した。この本の内容は自民党の肩を持つものというものではなかったが、同書のなかでは野党の取り組みをほとんど評価していないことからか野党や野党支持の人たちにはあまり評価されなかったような印象がある。
それでもいま、判官贔屓で政治についてなにか物を言うとしたら野党に向けてということになるだろう。より野党が混迷を増している気はするが、さりとて状況は去年も今年もさほど大きくは変わらない。だとすれば、昨年は何を書いたのかということが気になって、検索をかけてみた。そうすると、2015年1月9日に以下の記事を寄稿していたことがわかった。
【民主党は革新的提案型政党になれ】~寛容な社会を擁護し、経済成長を肯定せよ~
今年改めて、野党に向けて言いたいメッセージも上記の内容に尽きると思う。安倍内閣の金融緩和と円安誘導はもちろんカンフル剤であって、確かに最近の各社の世論調査では、アベノミクスに対する否定的な感想が増えているが、それらは遅々として進まない規制緩和や成長戦略に対するいら立ちではないか。いずれにせよ、経済政策を対立軸にするのは戦術として合理的とはいえない。
それに対して、民主党は、もともと結党の理念として、市民社会との協力を掲げていた。事実、民主党政権時代に、寄付制度や認定NPO法人制度の弾力化と実質化などで着実な成果を挙げたのはこの分野だった。それ以前にも、辻元清美氏らが、NPO法人制度を超党派でまとめあげ、現在も現職議員であり続けているという強みがある。
野田内閣以後、民主党の当該分野でのリーダーシップはすっかり鳴りを潜めてしまった。党内で大きく意見が別れる憲法問題や経済政策に過剰に注力し、また安保法案と維新の党の分裂後、共産党の「国民連合政府」の提案も有り、目先のオプションの多さに右往左往し、本来の自らの強みを忘れてしまったかのようである。
なぜそうなったのだろうか。2012年に再び野に下って以後、筆者も含め、民主党に対するネガティブな言説は無数に存在し、それらを直視することを拒んでいるようだ。こうした冷たい世論と向き合うことを避け、おもに民主党番、野党番の記者や古くからのブレーンなど、民主党にとって耳触りの良いことをいう層の意見を主に聴取対象にしているからではないか。
民主党の現在の執行部は、自身を批判する世論に背を向け、そのアイデンティティを右肩上がりだった2000年代前半に置いているようだが、それは現実的ではない。すでに若手政治家比率や中長期の基軸となる政策の有無などを見ても、民主党のポジションは大きく変わっている。組織能力を向上させ続けている自民党とは対象的に、議員と職員の関係もあまり良好ではない上に、こちらは縦割りに留まっている。
その意味では、民主党からは、少なくとも政策、(政治、選挙)戦術の蓄積、有権者からの信頼(支持)の3点が致命的に失われている。それぞれが独立した問題では無いうえに、今年が選挙イヤー、しかもかなり珍しい衆参同日選挙さえ取り沙汰されていることがさらに状況を厳しいものにしている。
したがって、昨年と異なり、このメッセージの宛先はもはや民主党に限る理由もなくなっているのが、昨年のエントリと異なる点だろうか。民主党と維新の党の合流による野党再編が3月末を目処にという報道もなされている。7月前半の参院選、そして少なくない確率での衆参同日選挙を視野に入れるなら、おそらくそれでは遅すぎるが、寛容な社会と経済成長路線を包含する革新的な政策を基軸とする野党像を改めて期待したい。