[上野きより]【アフリカが熱い!人類に残された最後の成長大陸】~特集「2016年を占う!」アフリカ経済~
上野きより (ジャーナリスト/フォトグラファー)
日本を含め先進国に住む多くの人々にとり、アフリカのイメージはいまだに「伝染病」、「紛争」、「飢餓」、だ。確かに、西アフリカでエボラ出血熱が発生したのは一昨年のことであるし、南スーダンは昨年まで紛争状態にあった。エチオピアも昨年、過去30年間で最も深刻な大旱魃に見舞われ、今年は1000万人もの人々が食糧支援を必要とする状況になっている。
こうした負の側面はいまだに存在する一方で、現在、世界の中で確実に大きな成長を遂げているのもまたアフリカである。サブサハラ(サハラ以南)のアフリカ諸国(エジプトやモロッコなど北アフリカ諸国を除く約50カ国)は毎年4—5%の率で着実に成長を続けており(エチオピアはほぼ10%の成長を10年近く続けている)、中国やロシア、ブラジルなどこれまで新興国と言われていた国々の成長が減速、あるいはマイナスになる中、その輝きは一層増している。そしてアフリカ人自身も「大きな成長のポテンシャルを秘めた人類最後の大陸」と言われる自分たちの可能性に自信をつけ始めている。
この大陸へ各国がこぞって進出するなか、日本はアフリカへの投資、進出で他国に比べ出遅れていると言われている。(アフリカに住む日本人の数は約8,000人、中国人は100万人を超えたと言われている)。実際に暮らしてみてそう感じることも多いが、今年、日本政府主催のアフリカ会議(Tokyo International Conference on African Development: TICAD)の6回目が会議の1993年の初開催以来、初めてアフリカ(ケニア)で開催されることもあり、日本でもアフリカが注目され、アフリカ進出の機運が高まる年となるだろう。
実際、アフリカの成長ぶりには目を見張るものがある。昨年末、3年間国連で働いていたエチオピアに4カ月ぶりに訪れ、その変貌ぶりに驚いた。首都アディス・アババではほんの半年前までは建設を経て試行運転中だったライト・レール(Light Rail: 1両ないし数両編成の列車が電気運転によって走行される。日本では江ノ島電鉄がそれに当たる)が走り出していて、町の風景ががらっと変わった。
サブサハラでは南アフリカを除いて初めてとなる、全長32キロメートルのライト・レールである。線路を敷いたのも中国、走る電車ももちろん中国製。運転もネクタイ姿の中国人が主運転手となり、その傍らにエチオピア人ドライバーが立ち、真剣な顔つきで運転を習っている。電車を見たことも運転したこともないエチオピア人にとり、運転技術の習得は重要である。現在はアディス・アババ内で運行するこの電車だが、国の計画では2025年には国内を5000キロの鉄道で結び、そしていずれはジブチやスーダンと結ぶという壮大な構想である。
この成長現象はエチオピアだけにとどまらない。ケニアでもモザンビークでもアフリカ中で道路、橋、ダム、送電線、風力発電などのインフラが次々と整備され、町の風貌、人々の生活が一変している。
この成長・発展に特徴的なのは、そのスピードが非常に速いことだ。そして、この経済成長に伴う社会の変化のペースが、日本が“奇跡の成長”と呼ばれるものを体験した1950-1970年代よりもはるかに速くなっているだろう。あっという間に砂利道がアスファルトのハイウェイに変化し、スラムのような家屋が次々に高層ビルに変貌。インフラだけではない。スマートフォンのSIMカードもマイクロからナノへ、スムーズに移行しているし、ノキアの携帯電話を使ったモバイル・バンキングやスマートフォンやパソコンを使ってのインターネット・バンキングも今では日常のこと。特に都市部ではスマートフォンを持つのは当たり前で、多くの人々がソーシャルメディアを日常的に使用している。これによりそれぞれが自由に世界中とつながれるようになっている。
こうした状況を目の当たりにするたびに、今は古びたトヨタ中古車(エチオピア人は日本車が大好きで高い信頼を置いている)を運転している人たちが圧倒的だが、人が運転するハイブリッド車の時代をスキップして、そのうち無人運転の電気自動車が走り出しているかもしれない、などとも思えてくるのである。
「電車が通り、とても嬉しいし、とても誇り高い」と言うのは、アディス・アババのライト・レールの駅で電車を待っていたエチオピア最大の商業銀行、エチオピア商業銀行で働く20代の男性ビルク・メンギストさん。「この国も、この町も、これが必要だった。これからもエチオピアはどんどん成長していくだろう」と誇らしげに語る。
2016年―。“アフリカ=遅れた大陸、困った大陸、問題だらけの大陸”、という見方から脱し、この人口10億人のアフリカにおける、新たな可能性を見出す必要があるだろう。
*トップ写真:昨年9月に開業したエチオピア発のライトレール。全長32キロでアディス・アババを走る。©Kiyori Ueno
*文中写真:ライトレールの駅で電車を待つ子どもたち。©Kiyori Ueno