[古森義久]【「ネトウヨ」はヘイトスピーチである】~全国初、大阪市ヘイトスピーチ抑止条例~
古森義久(ジャーナリスト・国際教養大学 客員教授)
「古森義久の内外透視」
ヘイトスピーチはアメリカでは長年、言論の自由との兼ね合いでの激しい論争が展開されてきた課題でもある。全体として最高裁判所の判決などをみても、言論の自由の尊重に比重がかかった判断に当面は落ち着いたようにみえる。だが特定の言論や言葉をヘイトスピーチの名の下に規制しようという傾向はリベラル派に強いようだ。
日本でよく問題になるのは特定の民族や人種への誹謗であり、その場合は右や左、あるいは保守やリベラルの区分なく、排されるべきだろう。だがなお全体として日本でヘイトスピーチを取り上げる人たちもいわゆる左翼とされる側が多いようだ。
たとえば「ネトウヨ」という言葉がある。その意味は簡単には「インターネット上の右翼」ということだろう。だがその響きには侮蔑が満ちている。ネトネトとねばりつく。ウヨウヨとかたまっている。語感はきわめて不快、その対象のいやらしさが強調される。しかもその根底にはネトウヨと呼ばれる人たちの思想を右翼だと断じる基本がある。
ネトウヨなどという言葉を使えば、使った側の軽蔑や憎悪や憤慨がにじむ。使われた側は屈辱、反発、憎悪を覚えるだろう。要するにののしり言葉なのである。そしてその出発点はそのののしり言葉を使う側からみての「右翼思想」である。
さて以上の前提を基にヘイトスピーチとは何かをみてみよう。種々の定義づけがあるが、おおまかな総括は以下のようになる。
「人種や宗教、思想、性別などを理由に特定の個人や集団をおとしめ、憎悪や怒りを生ませる言葉」
この基準を適用すれば、「ネトウヨ」も確実にヘイトスピーチとなる。「ウヨ」はまちがいなく右翼の略であり、右翼はまちがいなく特定の思想を指すからだ。しかもその表現には憎悪や怒りが明らかである。ネトウヨという見下した言葉の響きは「おとしめ」という要件を満たす感じがある。
だから「ネトウヨ」という言葉はヘイトスピーチだ!
さてこの主張に「ネトウヨ」という用語を普通の言葉のように使っている方々はどう答えるだろうか。
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。