アフリカを席巻する中国 その1 深刻な人材問題
比嘉陽子(クリーンテックビジネス事業開発員)
「比嘉陽子の世界最貧国から考える」
マラウイの現地語で、こんな歌がある。
Chili chonse chalowa China (今や全てがチャイナだ)
Dziko lalowa China (私達の国もそう、既にチャイナ)
Palibenso cha original (オリジナルなものは何もない)
Anthu alowa China (今や人でさえもチャイナ)
Zonse zalowa China aaaah (全てがチャイナなのさ、あぁ)
Kuwona President wa China (見て、大統領もチャイナ)
Kuwona nduna ya China (見て、省庁もチャイナ)
Kuwona azimai wa China (見て、女もチャイナ)
Kuwona azibabombo a China (見て、男もチャイナ)
実際に大統領が中国人なわけではないのだが、中国に全てを搾取されるという危機感を表現した歌である。当然、マラウイに住み着いている中国人は、この歌を聞くと顔をしかめる。中国の援助という名目の投資は、多くの場合において資源獲得狙いなどの魂胆があからさま過ぎて国際的に批判を浴びているが、国レベルの行為に置いてだけではなく、中国から流出してくる各個人も実は大問題を引き起こしている。彼らが持ち込む、安かろう悪かろうのMade in China製品が地場産業と地元事業家を潰してしまうのだ。
中国が国レベルでアフリカ大陸から資源を搾取し、個人事業家が持ち込む安価な大量生産製品がアフリカの市場を占拠する様は、帝国主義の時代に先進諸国が武力を以て不当にアフリカ大陸から富を奪ったのと同様に、形を変え合法的に富を搾取する新植民地主義だとして国際的に批判されている。
わざわざアフリカの地にやって来て住もうなんていう中国人事業家は、コンテナ単位で何でも運んでくる。衣料品、カバン、カーテン、食器、調理器具、靴、TV、ラジオ、携帯、パソコン、ドライヤー、時計、筆記用具、工具、ちり取り、鏡、コスメ、ボディーソープ、香水、偽ブランド、等々など、挙げればきりがない。
これらMade in China製品は粗悪品で非常に質が悪く、すぐに壊れる。ある程度の収入を得られるマラウイ人は中国製品を避けるが、世界最貧国のマラウイでは、みな質が悪いことを知っていながらもその場しのぎで安い中国製品を購入してしまう。そして、これが地場産業と地元弱小事業家に大打撃を与えるのだ。小売業者は当然のことながら、中国製品との価格争いになると地場産業は到底太刀打ちできない。
マラウイの市場経済は、中国人と加えて実際にはインド人が牛耳っている。(インドの場合はまたストーリーが違うので、今回は中国に焦点を当てて話す。)これらアジア人は少なからず雇用を提供しているのにも関わらず、現地においてすこぶる評判が悪い。中国人が嫌われる理由は主に、2つある。
1つ目は、現地語を覚える気がさらさらなく、中国人コミュニティを形成して生活し現地に溶け込もうとする努力が皆無である上に、英語もろくに喋れなくコミュニケーションに難があることである。
2つ目は、雇用する現地従業員に対する高圧的な扱いである。この点に関しては特に不満が大きい。同僚や近隣オフィスの従業員らとの雑談中に、ある日こんな質問をしてみた。「よくアジア人の下で働くマラウイ人を見るけれど、その逆は見たことがない。もし、アジア人の経営するショップが潰れたとして、彼らはマラウイ人の下で働くかしら?」
「そんな事はあり得ない。先ず、彼らは非常にプライドが高い。マラウイ人の下で働くなんて彼らのプライドが許さないだろうよ。これまで、自分の雇った現地従業員に対して奴隷のような扱いをしてきた奴らだ。加えて、彼らのショップは潰れない。奴らは同郷民同士のネットワークを持っているんだ。どこかが潰れそうになると、ネットワーク内で資金の調達が行われて事業が存続する。彼らが店を畳むのは、この国を去ると決断する時だ。潰れるのは、マラウイ人のショップの方だよ。」
(アフリカを席巻する中国 その2 新植民地主義の台頭 に続く。全3回)
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この記事を書いた人
比嘉陽子クリーンテックビジネス事業開発員
University of Essex MSc in International Relataions(エセックス大学 国際関係論理学修士)IT企業、太陽光発電事業会社、クリーンテックコンサル会社を経て、クリーンテクノロジー分野でのベンチャー企業サポートを受託。範囲はリサーチ、戦略立案、顧客・販路開拓、資金調達など。2013年3月、経済産業省の新事業創出のための目利き・支援者育成等事業の支援者チームメンバーに選出。