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.国際  投稿日:2016/2/21

アフリカを席巻する中国 その3 搾取の連鎖


比嘉陽子(クリーンテックビジネス事業開発員)

比嘉陽子の世界最貧国から考える」

アフリカという大陸は、「頑張っても報われない」という空気が蔓延している地域が多い。奴隷貿易時代の過去の話をしているのではない。洪水や干ばつなどの自然災害により自給用の作物が全滅、なんてことは頻繁に起こる。

学校に行って教育を受けても就職先など無く、学校に通っている時間が無駄でありその時間にモノを売り歩いていた方がよっぽど良かったと思えたりする。中国人のショップで一生懸命働いたところで安い給与が上がることはない。

公務員の職を掴めた者でも給与は十分と言えない上に度々遅延するので真面目に働くのも馬鹿らしく、うんと早く帰宅して自家消費用の畑を耕そうと思う。国家予算という大金を扱える政府は自分のポケットにお金を入れたがる。横領に手を染めるキッカケは、生活費の足しにしたかったのか、みんながやっているから罪悪感が湧かないのかは分からないが、次第に生活が必要以上に派手になっていく。

救急車が足りないと訴える国民の中をベンツで走り抜ける。政府指導者の腐敗が激しく国家が破綻している国々では、国民を搾取する大統領たちが何故か選挙で再選できる。公平でない選挙が行われているのである。

マラウイは今年、エルニーニョ現象の被害が世界で一番ひどい場所だと報道されている。主食であるトウモロコシが枯渇しており、政府がザンビアなど近隣諸国からある程度調達して各村の販売網へ回しているものの、村人の手に行き渡っているとは言えない。

私が雇っている警備員の1人は、明日は150袋が村の市場に届くと聞いて仕事を早退し朝7時に市場の行列に並んだが、売り切れて買うことができなかった。自分が150番目以降に並んでいたとはとても思えない。噂によると、前日深夜に乗り付けて来たバイヤーが、村人にMK5,500(約825円:マラウィ・クワチャ1MK=0.15円 2月20日現在)/bag (50kg)で売るはずのトウモロコシをMK9,000で80袋買い上げて行ったらしい。それが、街ではMK13,000で売られているという。

警察やMP(Members of Parliament)がお目付け役に入っているのだが、彼らは見て見ぬふりらしい。バイヤーからの賄賂が発生しているのだろう。村人たちは街までの交通費を工面できないし、そもそもMK5,500のトウモロコシにMK13,000は払えない。

何を食べているのか尋ねたところ、家族一家サツマイモを少々で凌いでいるのだと言う。私の警備員はまだましな方だろう。町から(車を走らせた場合ではあるが)1時間弱程度の、しかも舗装された道路からほど遠くない場所に住み、夜警という定期的な現金収入のある職に就いている。

私が巡回する村の中には、大雨が降ると通れなくなる道や、バイクや車など重い車両が渡っても果たして崩れないのだろうかと不安になる住民手作りの橋などを渡ってしか辿り着けない(迂回路が無い)場所もある。

こういった僻地には、World Food Programme (WFP)などの国際組織が食料の配給に来ており、こんな辺鄙な場所にまでわざわざバイヤーが買い付けに来るとは思えないが、ここでは別の問題が発生している。

Traditional Authority(T/A)と呼ばれる、村長や幾つかの村を束ねた村グループのヘッドの更にその上に立つT/Aが、国際組織との折衝に立ち、食料配給を受けることのできる村人のリストを作成し、配給を受けた村人からトウモロコシの一部をT/Aへ納めさせ、それを転売して利益を得ているとのこと。聞いた話では半分持っていかれるとのことだが、少々誇張している可能性もあるし、実際にその通りであるのかは、判断のしようがない。

私が白人(アフリカでは黄色人種もまとめて白人と呼ばれることが多い)であるし、また政府機関に勤める人間でもあるので大げさに伝えられている可能性はある。いずれにせよ、こういった事実があることに変わりはない。T/Aの腐敗は、度々ローカル紙の紙面にも上がる。腐敗しているのは政府だけではないという事だ。

こうして生まれる閉塞感が頑張っても報われないという空気を作り、国民の能動的な活動を阻み、「マラウイ人は熱心に働かない」と言わしめ、ただ政府への文句を口にするばかりで自ら何か行動を起こそうとはせず、国際組織の援助を待つばかりのような受け身の援助依存の姿勢へとも繋がっていき、個人としての貧困からの脱却もまた国としての発展も更に困難にする。

マラウイで給与を貰える仕事に就いているのは、(病気や障害などの理由で経済活動から外れている人口を除いた内の)わずか14%である。産業を誘致することでこのパイを広げるのか、もしくは11%居る自営業を営む者がビジネスに成功するような支援体制作りに取り組むのかという選択肢が考えられるが、現在マラウイ政府は他のアフリカ諸国と同様に主に前者に力を入れているものの、実現は容易ではない。いずれにしても、「頑張れば報われる」というシステムが必要である。働ける者の内の70%を占める大半は自給のための農作業のみに従事している。*(注1)

故郷を捨てアフリカで事業を起こすも恵まれない中国人、中国人に市場を占拠されて地場産業が潰れるアフリカ諸国、国内に産業が無いために人材が国外へと流出するマラウイ、一方で主な流入先の一つである南アでは、就労機会を奪われた労働者層で外国人労働者排除運動が起こり、近隣諸国から入ってくる労働者らが殺害される事件が問題になった。

今や、世界は国と国、国民と国民との相互の利害関係依存関係は密接に繋がっており、日本も決して例外ではない。六本木や歌舞伎町の一部でアフリカ系黒人をよく見かける。故郷での生活苦から逃げ出してきたナイジェリア人やガーナ人が多いと言う。*(注2)

中国がアフリカ市場を占拠することや、世界各国で生活苦にさいなまれる人たちを対岸の火事だと思えるだろうか?バタフライ・エフェクト…地球の裏側で蝶が羽ばたくと、こちら側で災害が起きたりするものだ。

 

(この記事は、アフリカを席巻する中国 その1 深刻な人材問題アフリカを席巻する中国 その2 新植民地主義の台頭  の続きです。全3回)

*(注1)Welfare Monitoring Survey 2014, National Statistical Office 2015 p.62.

*(注2)『アフリカ・レポート -壊れる国、生きる人々』松本仁一 岩波新書,2008

 


この記事を書いた人
比嘉陽子クリーンテックビジネス事業開発員

University of Essex MSc in International Relataions(エセックス大学 国際関係論理学修士)IT企業、太陽光発電事業会社、クリーンテックコンサル会社を経て、クリーンテクノロジー分野でのベンチャー企業サポートを受託。範囲はリサーチ、戦略立案、顧客・販路開拓、資金調達など。2013年3月、経済産業省の新事業創出のための目利き・支援者育成等事業の支援者チームメンバーに選出。

比嘉陽子

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