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.経済  投稿日:2016/3/4

トヨタ・ダイハツ・スズキ新三角関係 その1


遠藤功治(アドバンストリサーチジャパン マネージングディレクター)

「遠藤功治のオートモーティブ・フォーカス」

 

1、トヨタによるダイハツ100%子会社化の背景

トヨタ自動車が51.2%を出資、既に連結子会社となっているダイハツ工業、両社社長が都内のホテルで緊急のプレスコンフェレンスを開いたのが1月29日夜、そこからちょうど1か月が経過しました。

会見の内容は、トヨタがダイハツへの出資比率を100%に引き上げること、ダイハツは今年7月27日をもって上場廃止となること、今後、ダイハツはトヨタの小型車開発や新興国市場での拡大面で主導的役割を果たすこと、ダイハツブランドは今後も継続されること、などです。

この正式な会見がなされる数日前に、日経新聞にことの詳細が1面トップで報じられ、かつそこには、トヨタとスズキが資本提携するとの報道も具体的に報道されていました。この3社の関係、何がどうなっているのか、今や“トヨタグループ対その他”のようにも映る日本の自動車業界の構図、ここにスズキまでもが組み込まれるのか、既にダイハツはトヨタの連結子会社であるにも関わらず、何故この段階で100%出資まで引き上げ、上場廃止にしなければならないのか、各種メディアで数多く取り上げられましたが、改めてここで、その真相などを深堀りしたいと思います。

ダイハツが誕生したのは1907年、大阪でエンジンの国産化を目的に“発動機製造”として設立されました。大阪の発動機なので、後々、“大発(ダイハツ)”と呼ばれるようになりました。一方のトヨタは、豊田自動織機で自動車部が発足したのが1933年、歴史だけみれば、ダイハツの方がトヨタの先輩とも言える立場。その後、両社は1967年に業務提携、そしてトヨタがダイハツを連結子会社化したのが1998年でした。子会社化以降は、ダイハツ経営陣の多くがトヨタから派遣され、技術開発や管理部門も、トヨタからの出向・転籍者が多くを占めるようになりました。

一方で、ダイハツのいい意味での“やんちゃさ”も噂になり、なかなかトヨタの意向がダイハツに浸透しない、連結子会社にもかかわらず、ダイハツがトヨタの言うことを聞かない、トヨタからダイハツに移った人たちも、言うなれば子会社に追い出された人たちで、却って“トヨタ何するものぞ”的な反骨精神が強く、両社の経営が実は一体化されていない、そんな声が筆者にも多く届きました。

これがどこまで真実なのか定かではありませんが、51%出資の状況で(つまりトヨタ以外のいわゆる少数株主が多く存在する現状で)、完全にダイハツをコントロールすることが難しい状況にあったというのは、ある程度想像がつくことではありました。そこにダイハツの厳しい経営環境が影を落とした訳です。

2016年3月期決算もあとひと月ほどで終わりますが、トヨタ・日産・富士重・マツダなどが軒並み過去最高益を更新する見込みであるのはさておき、国内軽自動車市場で壮絶な戦いを繰り広げ、お互いに深い傷を受けたはずのライバルであるスズキも、それでも過去最高益更新がほぼ見えています。

その中にあって、中間決算で大幅な下方修正、今期営業利益は前期比約28%減の800億円と、2期連続の二けた減益となる可能性が高いのがダイハツです。これは、国内軽自動車市場の低迷に加えて、主力のインドネシアやマレーシア市場の悪化、対新興国通貨での円高影響が響いているからです。今後の経営環境を見た場合、環境対策での新技術や新興国開拓への投資、将来更に縮小していくであろう国内軽市場への対応など、ダイハツを取り巻く環境は大変厳しいと言わざるをえません。

このような環境下、親会社であるトヨタの支援を受けながら、国内軽自動車や他の新興国での販売を伸ばす方向であろう、というのが市場全体の認識ではあったと思います。そこに今回、突然とも言えるこのニュース、トヨタがダイハツへの出資を100%に引き上げ、上場廃止にさせると、ダイハツの社員も多くが驚いたことだと思います。出資比率が51%とはいえ、既に連結子会社であり、経営陣の大半がトヨタ出身者で占められている会社を、ここで更に100%子会社化するといのは、トヨタにとってもそうせざるを得ない状況が多く発生しているということでしょう。

ちなみに、親会社と子会社、双方が上場している“親子上場”というのは、あまり好まれたものではありません。親会社の利益を優先して子会社の他の株主の利益が犠牲となる場合があります。また、この少数株主のために、子会社でありながら、迅速な意思決定ができない、また少数株主損益に伴う利益・配当のグループ外への流出という事態も起こります。

そのため、今回の措置が、トヨタの子会社でありながらダイハツも上場しているという親子上場の状況を是正するための措置、と考えている向きもあるようです。筆者はこれを完全には否定しませんが、それは目的ではなく単なる結果でしょう。仮に子会社上場を問題視したことが今回100%引き上げへの理由ならば、やはり子会社である日野自動車への出資も、現状の50.1%から100%に引き上げて、上場廃止とするハズですが、日野に関しては今のところ一切この手の話は出ていません。トヨタの意図は、全く他のところにあったと言えるでしょう。


(4日連続、2016年3月5日12:00配信のその2に続く。)

 


この記事を書いた人
遠藤功治株式会社SBI証券  投資調査部 専任部長兼シニアリサーチフェロー

1984年に野村證券入社、以来、SGウォーバーグ、リーマンブラザーズ、シュローダー、クレディスイスと、欧米系の外資系投資銀行にて活躍、証券アナリスト歴は通算32年に上る。うち、約27年間が、自動車・自動車部品業界、3年間が電機・電子部品業界の業界・企業分析に携わる。 その間、日経アナリストランキングやInstitutional Investors ランキングでは、常に上位に位置2000年日経アナリストランキング自動車部門第1位)。その豊富な業界知識と語学力を生かし、金融業界のみならず、テレビや新聞・雑誌を中心に、数々のマスコミ・報道番組にも登場、主に自動車業界の現状分析につき、解説を披露している。また、“トップアナリストの業界分析”(日本経済新聞社、共著)など、出版本も多数。日系の主要な自動車会社・部品会社に招かれてのセミナーや勉強会等、講義の機会も多数に上る。最近では、日本経団連や外国特派員協会での講演(東京他)、国連・ILOでの講演(ジュネーブ)や、ダボス夏季会議での基調講演などがあり、海外の自動車・自動車部品メーカー、また、大学・研究機関・国連関係の知己も多い。2016年7月より、株式会社SBI証券に移籍、引き続き自動車・自動車部品関係を担当すると供に、新素材、自動運転(ADAS)、人口知能(AI)、ロボット分野のリサーチにも注力している。

東京出身、58歳

遠藤功治

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