仏、ムスリムのスカーフ着用論争再燃
Ulala(ライター・ブロガー)
先日フランスでは、テロに関与した二重国籍者から仏国籍を剥奪すると言う改憲案が断念されたところだが、しかしその後、新たな議論の火蓋が切られた。ドルチェ&ガッバーナ、マークス&スペンサー、H&M、ZARA、ユニクロなどの複数のブランドからイスラムファッションが売り出されていることを受けて、イスラム教の女性が頭にかぶる「ヒジャブ」と呼ばれるスカーフに関する論争が再燃したのだ。
ローランス・ロシニョール家族担当相は3月30日に、イスラム教のスカーフを着用する女性たちを「奴隷制支持のネグロ(黒人)」に例え、イスラムファッション販売を非難し、ソーシャルメディア上で大きな批判を浴びた。
フェミニストのエリザベス・バンテール氏は、「ネグロ発言は残念だが、家族担当相の言うことはもっともだ。女性の身体を“閉じ込める”思想に賛同する行為は、今まで戦ってきたことを全て無駄にすることだ。イスラムファッションを売るブランドをボイコットすべきだ。」と擁護した。
バンテール氏は1989年の「スカーフ事件」で、スカーフを身に着けて学校に来ることはフランス共和国の基本的な理念に触れるものとし、「教師たちよ、降伏するな!」と説いた人物の一人だ。「スカーフ事件」は、スカーフを学校に身に着けてきた生徒が退学させられたことが発端となり論争が巻き起こった事件で、スカーフに対する論争が始まる最初の大きな出来事とも言える。
また、マニュエル・ヴァルス首相も「女性がスカーフをつけることで意味することは、ファッションという現象ではない。身に着けている色でもない。それは、女性の奴隷化だ。」と4月4日の会議中発言し、更に燃料を投下したのだ。
これに対してイスラム教徒側は、「女性が着たいものを着ることについて、閣僚が口を挟む権利があるのか」と反論。ソーシャルメディアでも、twitterで#TousVoiles(すべてのベール)と言うハッシュタグができ、男性もスカーフを被った写真をアップするなど、次々とイスラム女性擁護の活動が立ち上がっている。
しかし「スカーフ事件」の時代とは違うのは、現在ではイスラム教徒の女性自身が情報を発信する機会も増えたと言うことだ。フランスから1歩離れれば、イスラム教徒の女性がロリータファッションのテイストをしっかり残しながらイスラム教の教義も守れるように工夫した「ムスリムロリータ」を公開したり、スカーフを使って「ディズニーコスプレ」をする写真が紹介され、その様子は日本のサイトでも紹介されている。
そこからは、イスラムの規律に従いながらも楽しんでいる女性の姿が映し出され、自分のアイデンティティを保つためにヒジャブをはじめとする伝統的な服装を自ら選んだり、子供の頃から伝統的な服装を好み、その姿のほうが自分にとって自然で安心すると語るイスラム女性の姿が見て取れる。そういう世界の流れ的には、各ブランドがイスラムファッションを展開するのは自然なことでもあるだろう。
そもそも、スカーフに女性差別的要素が根強く残る地域や意識をもっている人がいるのは事実としても、フェニミズムを絶対的に押し付ける態度は、押し付けられた側から見れば自分への蔑視を含む尊大な姿勢であると感じられることは間違いない。
しかしながら、現時点のフランスでは、元ミスフランスの主催者ジュヌビエーブ・ド・フォントネーのようにイスラムファッションを支持する女性もいるが、メディアに出る人の大多数は反対の意見が多いようだ。女性差別にとどまることなくスカーフには複数の問題が存在しており、その問題が共和国の理念に反し、問題が解決しない以上、フランスではイスラム教女性のスカーフについて錯綜しながらも今後も論争は続いていくのである。
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Ulalaライター・ブロガー
日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。