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.国際  投稿日:2016/7/19

大学世界ランキング、日本の大学低迷のなぜ?


渡辺敦子(研究者)

「渡辺敦子のGeopolitical」

先月末、英国のTimes Higher Educationのアジアランキングが発表され、東京大学が首位から7位まで大転落した。既に発表されていた世界ランキングでは23位から43位。日本の大学全体では、同ランキングに登場するのは、総合では88位(アジアでは11位)の京都大学のみ。そのほかはいずれも200位以下で、私大は慶応でさえ500−600位となっている。

アジアの大学の全体的な躍進に比べての低落は、方法論の変化によるところなどもあるようだが、本稿では、日本ではほとんど報じられない分野別ランキング、特に社会科学の驚くべき低迷に焦点を当て、日本の大学の国際的な評価の低さを考えてみたい。

東京大学を例に見ると、工学32位、医学42位、生命科学45位、物理科学34位、人文学45位に対し、社会科学は83位。ちなみに欧米のカテゴリーでは、社会科学は文学や歴史学、哲学などの人文系と自然科学の中間として位置づけられる。当然のことながらトップの大学はどこも、各教科で万遍なく強く、例えば理系のイメージが強いマサチューセッツ工科大学(総合ランク5位)は社会科学でトップ、逆に工学では3位である。社会科学だけのランキングでは2位以下スタンフォード、プリンストン、オックスフォード、エールと続き、大半が英語圏の大学である。

社会科学については、アジアの大学は概して弱い。50位以内では28位がシンガポール国立大学、香港大学が39位(アジアランク4位)。だが東大は、その他の科目ランキングは、例えば香港大学に引けを取っておらず、社会科学がもう少し良ければ、ここまで悪くなかったであろうことは想像できる。ちなみに100位まである社会科学のランキングに入っているのは、そもそも東大だけである。

データから伺える理由は、引用の圧倒的な低さにある。基準は英文学術誌だが、表現力が必要な社会学の英語論文は、自然科学系に比べ、ノンネイティブには敷居が高い。これに加え、日本の社会科学は、明治時代から大量の翻訳書に頼る形で独自の発展を遂げ、「ガラパゴス化」している。実際、学者にとって翻訳書の出版は今も大事な業績の一部だ。つまり、理論の輸入&国内消費というのが日本の社会学の基本形態だ。

だがだから日本の社会科学の水準が低いのかというと、比較そのものが困難と言わざるを得ない。なぜなら日本語でも優れた論考は多々あるし、日本社会の実情に即したきめ細かい分析は、国内的には間違いなく有意義だ。双方を達成するのは簡単ではなく、世界ランキングとの兼ね合いでは痛し痒しであろう。

また別の理由もあるようだ。先日参加した国際政治学会では、ある外国人教師が日本の英語教育について発表した際、会場にいた日本人も加わり日本の大学教育をめぐり議論が戦わされた。最終的な話題は、日本の大学がいかに雑務と教務が多く、研究どころではないかに落ち着いた。

安倍政権の進める例の大学改革では、社会科学を含めた効率の悪い「文系」は切り捨てられることになっている。確かに効率という意味では、思い当たる節がないわけではない。2008年に書かれたあるブックレットによると、国際関係論に携わる研究者の数では、日本は世界で3位という。文字通り目を疑ったのは、英語圏で研究をしていると、日本人が書いた論文に出会うことはむしろ稀だからだ。

それほどの数の学者が外交を研究してもなお、日本が外交オンチと言われるのはなぜだろう。だがだからといって文系を切り捨てれば、総合評価である大学ランキングはどうなるか。残念ながら外交への評価同様、今後も改善は困難であろう。


この記事を書いた人
渡辺敦子

研究者

東京都出身。上智大学ロシア語学科卒業後、産経新聞社記者、フリーライターを経て米国ヴァージニア工科大学で修士号を取得。現在、英国ウォリック大学政治国際研究科博士課程在学中。専門は政治地理思想史。

渡辺敦子

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