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社会  投稿日:2016/2/8

大学入試改革、中身の議論を~東京大学医科学研究所上昌広特任教授~

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Japan In-depth 編集部(Aya)


今回のテーマは「大学入試改革」。医師であり、東京大学医科学研究所特任教授の上昌広氏とAERA記者の古田真梨子氏を迎え、今後の大学入試について聞いた。AERA最新号では「大学入試改革とアクティブラーニング」という特集を組んでいる。

大学入試改革とは、具体的にどういった内容なのか。「センター試験の在り方を変える。一年間に何回か受けられるようになる。一発勝負の筆記試験だけのものから、総合的に判断するものに変わる。」と上氏は説明した。2020年から変更が予定されている。「今までは点数で判断されていたのが、思考力や発想力など数字化しにくいものを評価にいれるので、評価の軸をどうしていくか議論が必要。」と古田氏は述べた。

国立大学では、人文科学系学部は廃止していく方針だという。こうした動きに対し、上氏は否定的な見方を示した。その理由は、文系、特に教員養成課程が切りやすいから切られてしまう、つまり財政のつじつま合わせに繋がるからだという。「本当は逆。知的な人材を育てなければいけないので、投資は増やすべき。教師の育成にお金をきっちり出してやっていくべき。」と上氏は述べ、教員養成課程の重要性を強調した。

教育の話は、どうしても受験という入り口の議論になってしまいがちだ、と上氏は指摘する。氏は、ノーベル賞受賞者の二人の日本人を例に出し「大村先生や山中先生は受験のヒーローではない。ああいう人が個人の実力、ネットワークで世界を動かしていく。」と述べ、「入口の議論より(大学教育の)中身の議論が必要」と述べた。

上氏は、自身の大学生活を振り返り、「大学内外のいろんな活動に付加価値があった。講義がすべてではない。」と述べた。最近の大学生は、アルバイトや授業なので多忙な学生が多い。「判断して、間違うのが経験。学生には失敗させないといけない。余裕を持った教育が本当の教育。」と上氏は話し、余裕を持ってしっかりと考える力が必要だと説明した。

では学生が能動的に学ぶにはどうすればよいのか。上氏は、学生と一緒に福島に行き、診療や健康診断で地元のお手伝いをしている。卒業生の中には福島の病院に就職した者もいる。

また、福島の活動を通じ、長塚智広(元競輪選手、自転車競技アテネ五輪銀メダリスト)たちが東大剣道部の学生たちと知り合い、交流が始まった。長塚氏たちがトレーニング方法を指導し、学生たちは急成長した。幾つかの強豪大学にも勝利した。

上氏は、「教員の目的の一つは、少人数教育の場合、アジェンダのセットだ。」と語り、そのために、人や教材を学生に紹介することが重要だと述べた。また、「インターネット社会では、Facebookやメールで、世界中どこにいても繋がる。コミュニケーション能力を持つ人は生産性が高くなる。」と述べ、これからの教育にはコミュニケーションツールを活用することも重要だという考えを示した。

大学入試改革は、中学や高校の教育にも影響が出るのだろうか。上氏は、「大きく出ると思う。ただし、どんなルールにしても中学、高校の先生はうまく対応すると思う。」と話した。

話題は変わり、日本の地域ごとの大学の在り方について。県ごとの公立大学の運営交付金の一覧を見ると、京都・宮城・徳島などが突出している。一番低いのは埼玉だ。理系が弱いところは低くなっている。医学部がない総合大学と医学部一つの予算額はほぼ同じであるため、医学部があるかないかで大きく違う。

予算額が大きいところ上位20の国立大学のうち、19の国立大学は戦前からある。上氏は、「日本の名門大学はほぼ戦前に出来上がっている。明治の勝ち組の地元に多い。それが生き続けている。」と分析した。明治維新から150年経っても未だにノーベル賞は西日本から多く出ている。「明治の姿を見ないと、今の大学は読めない。」と上氏は話した。

一方、文系でも面白いデータがある。芥川賞、直木賞の受賞者を見てみると、東北、近畿に多い。これは、江戸から明治の貿易ルートと密接に関係している。人の流通イコール情報流通であるため、貿易の要である場所で文化が発展する傾向にあるという。

東京大学が、アジアナンバーワンから転落したという報道があった。これについて、上氏は「東京大学自身、本当に日本で何をするか議論しなければいけない。」と話す。東大が落ちてきているとしたら、今、東大に何が足りないのかを考えなければならない。たとえば、東大を分割し、千葉、埼玉、神奈川に200億円規模のライバルとなる大学を作ることを上氏は提案した。

「私は一つだけ拠点を作るのはあまり効率的ではないと思う。試行錯誤しないとわからない世界になってきているときは、ライバルを多々作った方がいいと思う。」と上氏は自身の考えを述べた。上氏は、実際は東京一極集中になっていないが、東京一極集中と言われていることにより、高等教育で税金が非常に不均衡に分配されていることを問題視し、「どのように税金を分けるかは納税者が考えるべき。」と述べた。

上氏の話を聞くと、江戸時代の幕藩体制の影響がとても大きいことがわかる。「情報化社会が進んでいるような気がするが、実はあまり変わっていないかなと思う。」と古田氏は述べた。

統計や歴史を見てみると、今まで見えなかったことが見えてくる。その事実を認識したうえで、今後の教育を考えていくべきだろう。

(この記事は ニコ生 Japan In-depthチャンネル 2016年1月27日放送の内容を要約したものです)

トップ画像:©Japan In-depth 編集部

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この記事を書いた人
上昌広医療ガバナンス研究所 理事長

1968年生まれ。兵庫県出身。灘中学校・高等学校を経て、1993年(平成5年)東京大学医学部医学科卒業。東京大学医学部附属病院で内科研修の後、1995年(平成7年)から東京都立駒込病院血液内科医員。1999年(平成11年)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。専門は血液・腫瘍内科学、真菌感染症学、メディカルネットワーク論、医療ガバナンス論。東京大学医科学研究所特任教授、帝京大学医療情報システム研究センター客員教授。2016年3月東京大学医科学研究所退任、医療ガバナンス研究所設立、理事長就任。

上昌広

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