改正児童福祉法の示すところを実現するために
2016年5月27日に児童福祉法が改正され、家庭養育の推進が期待される今日、東京・港区の日本財団にて「子どもの家庭養育官民協議会の研修会」が開催された。官民協議会の参加団体が家庭養護の推進に取り組む上で、有意義な情報を共有するとともに、参加団体間のネットワークを活性化することが目的だ。
まず講演を行ったのは、厚生労働省家庭福祉課課長の川鍋慎一氏。改正児童福祉法についての理念や、児童虐待防止策の検討に関する経緯について説明があった。川鍋氏は最も大切なキーワードとして「家庭養護の推進」を挙げ、それを進めていく上で日本人としての在りようを見ていかなければならないと強調した。又、この法改正施行日に向けて、行政や民間が何をどこまで進めるのか、整備していくことが重要だとも述べた。
続いて、長野大学准教授の上鹿渡和宏が登壇し、「改正児童福祉法の示すところを実現するために」というテーマで講演を行った。上鹿渡氏は、今年2月に日本財団とルーモス(注1)の共催で実施された、英国での家庭養護推進の視察研修の結果を元に、今後日本で必要とされる社会的養護についての説明と、日本が抱えている里親養育に関する問題提起をすると同時に、施設から家庭を中心とした養育システムの移行が進んでいる英国の事例を紹介した。
里親養育については、対応の難しい子どもをどのように引き受けるかという問題に対し、ニーズにあった様々なタイプの里親養育の準備やそれにおけるケアの質向上と維持が必要と上鹿渡氏は述べ、今後、里親支援機関、専門的なソ−シャルワーカーの人材の確保について、施設養護関係者にとって新たな活躍の場になるのでは、と述べた。
また日本で参考にすべきこととして、英国でかつて施設ケアサービス提供者が、現在は里親、養子縁組など、新たな社会的養護システムの役割を担っているという興味深い事例の紹介もあった。
最後に、改正児童福祉法の示すところを実現するためには「家庭支援」「養子縁組」「里親養育」「施設養護」に関係するそれぞれが、子どもや家庭のニーズを把握し、システム全体として全ての子どもの最善の利益を保証できるよう変化することが必要だと述べた。
そして、この考えに賛同する全国の人々が情報交換し、取り組みにおける課題を相談できる連携の場を作れないか、また家庭を中心とするシステムへの移行について、様々なチャレンジとその成果を蓄積し共有することで、この動きを早めることができるのではないか、と述べ、包括的で戦略的なシステムの再構築が重要だと強調した。
次に官民協議会の加盟団体の5名が登壇し、パネルディスカッションを行った。これからの家庭養育のあり方ということで、当事者たちの実際の声を聞くことができた。キーアセット(注2)の渡邊氏は、家庭養護による質を高め、より機能していくために同じようなNPOが増えるべきだと話した。民間団体が増えることで、ポジティブな部分で切磋琢磨し子供達の利益に繋げていきたいと決意を述べた。
CVV(注3)の中村氏は、自身が施設経験者であり、子供たちの視点から声をあげていこうという思いでこの団体を立ち上げている。今施設で生活している子どもの声をどう聴いていこうか、実践の部分が求められると話す。若者の抱えている問題は深刻で、施設での生活は元より、退所後のケアが重要だと語った。同じくCVVの相馬氏も施設経験者として、幼少期の頃に里親や養子縁組など、選択肢があることを知らなかった、と当事者ならではの意見を訴えた。
それを受けて上鹿渡氏は、子どもの声を何より中心に、多様な選択肢がある、ということを子どもに提示することの重要性を再認識したと話し、この官民協議会の参加団体に当事者が加盟されていて良かったと最後に感想を述べた。
家族と暮らせなくなった多くの子供たちが、安心して暮らすことができる「家庭」という環境を提供することが、子どもの正しい成長につながる。しかし、その家庭養育が進んでいないのが実態だ。改正児童福祉法の精神に則り、あらゆる関係者が連携して家庭擁護を推進することが、日本の社会の未来につながると確信する。
(注1)ハリーポッターの作者JKローリング氏が設立に関わった英国の国際NGO団体。CEOのジョルジェット・ムルヘア氏は元施設スタッフ。
(注2) 子ども中心の里親養育を推進することを目的に活動する特定非営利活動法人。
(注3) CVV(Children’s Views & Voice)施設で生活する子どもや、退所した人たちの居場所づくりを支援する団体。
トップ画像:©Japan In-depth 編集部