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IT/メディア  投稿日:2014/2/5

[渡辺真由子]70年代の女性雑誌から見る〜メディアを通してセックスに演技を取り入れてきた女性たち


渡辺真由子(メディアジャーナリスト)

執筆記事WebsiteTwitterFacebook

 

「いまだに謎というか、知ってはいけない領域という気がするんですけど」

大学生の性行動とメディアの関係を取材中、ある男子がふと声をひそめて切り出した。

「女の子の反応が、実際には演技だったらと思うと怖いんです。あれって本当はどうなんですか?」

実は、私が行なったアンケート調査によれば、8割以上の女子は性交の際に何らかの演技をしている。男性陣にはショックな結果かもしれないが、性交における女性の演技は、いまに始まったことではない。最近の女子大生はアダルトサイトやAVから演技の方法を学ぶが、AVが登場する以前の1970年代には、女性誌が「演技指導」の役割を担っていた。当時は婚前交渉が一般的ではなかったので、主に「妻」向けの内容である。

女性が演技をする目的は大きく2つ。「相手を喜ばせるため」「早くイカせるため」だ。前者を指南するのは、女性週刊誌『微笑』の1973年12月1日号。「寝室の事前=事後学 ムード作りから後始末まで~夫が望む妻の役割は」と題して、10ページもの特集を組んでいる。ここに「夫に『良かった?』と聞かれたらどうするか」という項目を発見。現役男子大学生を対象にした私の調査でも、「『良かった』と言って欲しい」と願う者は7割近くに上る。この思いは、いつの時代の男性にも共通するのである。

さて、同誌は女性読者に、夫のタイプに合わせた対応をアドバイスする。経験豊富なプレイボーイタイプには、照れくさそうに口ごもりながら「よ、かっ、た」と言いましょう。自信がなさそうな夫には、「指のテクニックがいい」「私にぴったり」など、具体的にほめます。「前の彼と比べてどう?」と気にする夫に対しては、「あなたが1番よ」と匂わせましょう……。

さらに男性医師が、「良かった?」と尋ねたがる男性心理を誌上で解説。

「男性は女性の満足が大きいほど、その女性を征服したと思い込むものです。つまり、優越感を持つために尋ねるのです」

夫のこんな身勝手な欲求を知りながら、昔から妻たちは「良かった」の返事の仕方1つにも、神経を張り巡らせてきたのである。献身的という他ない。

一方、「早くイカせるため」の演技は、女性が気乗りしない時に行なわれる。他誌に先駆けて1963年に初の性交特集を組んだ『主婦の友』は、以来度々、「夫婦の性生活」を取り上げてきた。1978年5月号の「妻の本音特集」が着目したテーマはズバリ「演技もしています~夫とのおつきあいセックス」。妻としては、家事や仕事で疲れていたり、特に性欲がわかなかったりする時もある。それでも迫ってくる夫にどう対処するか、赤裸々な体験談を紹介している。

「ちっともその気がないのに、夫に脱がされて始めてしまった。私の心とは関係なく、夫は最後の瞬間に向かってまっしぐら。そんな時私は、慈悲観音のような優しく広い心で、『私も感じそう、もうすぐよ』とあえいであげる。数秒後、どっちみち夫は1人でいってしまうのだから」(28歳の妻)

「私にその気があっても、夫がとても疲れているように感じる時は、満足したという演技をして早く終わらせて、眠らせてあげることもあります。いつもと同じ声や表情をするので、たぶん夫は気が付いていないのではないでしょうか」(39歳の妻)

自分のためだけでなく、夫の体調を気遣って演技してやる妻もいるとは、泣かせるではないか。

さらに『微笑』は、「夫に分からない手抜きセックス」を特集(1977年10月15日号)。「声・言葉・表情・動きで巧みに騙せば、夫は満足して眠る!」と見出しが躍る。あなたが性交を拒否して夫婦間に溝が出来るのを避けるため、「自分は楽をしながら、夫をさっさとイカせる演技」を体得しましょう、と提案する。

アドバイザーとして登場するのはポルノ男優。「妻はポルノ女優以上の役者であるべし」が持論だ。

「男を最も興奮させるジェスチャーは『恥じらい』。服を脱がされる時は、恥ずかしそうに身をよじって」

「彼の耳元で『アッ』と、小さなため息にも似た声を漏らして。これだけで、どんな男だってインサートを急ぐはず」

などと、具体的なテクニック指南が満載である。

女性たちは30年以上前から、メディアを通して性交に演技を取り入れてきたのだ。知らぬはオトコばかりかな……?

 

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【プロフィール】

渡辺_写真

渡辺真由子(わたなべ・まゆこ)

メディアジャーナリスト 慶応大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程を経て現在、慶応大学SFC研究所上席所員(訪問)。若者の「性」とメディアの関係を取材し、性教育へのメディア・リテラシー導入を提言。テレビ局報道記者時代、いじめ自殺と少年法改正に迫ったドキュメンタリー『少年調書』で日本民間放送連盟賞最優秀賞などを受賞。平成23年度文科省「ケータイモラルキャラバン隊」講師。平成25年度法務省「インターネットと人権シンポジウム」パネリスト。主な著書に『オトナのメディア・リテラシー』、『性情報リテラシー』、『大人が知らない ネットいじめの真実』など。

 

【参考文献】

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メディアと性行動・性意識の関係については、拙著『性情報リテラシー』で詳しく御紹介しています。

性情報リテラシー

 

 


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