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.国際  投稿日:2017/1/2

【大予測:米メディア】トランプ氏へのおもねり続く


井上麻衣子(ジャーナリスト/ビデオグラファー/ストリート・フォトグラファー)

「井上麻衣子のNYエクスプレス」

■視聴率王トランプ氏 嫌われたくないメディアのジレンマ

大統領選ではヒラリー・クリントン氏支持を表明し、大きく予想を外したニューヨークタイムズ紙。「トランプ政権予測」と題した今月の特集で、記者たちにこんな質問を投げかけている。

Q. メディアがトランプ氏の責任を追及しつつも、敵にならないようにすることはできるか?

今年1年ですっかりトランプ氏から嫌われ、あからさまに攻撃されてきたとはいえ、メディア自らが取材相手の敵になりたくないと明言しているのには驚いたが、ベテラン記者のジム・ルーテンバーグ氏の回答は、「難しい」であった。

「トランプ氏は事実に反することを言うので、それを指摘するのが記者の仕事だが、それだけでケンカを売っていると受け止められてしまう」。さらには、「(気に入らない報道をした)記者を会見場に入れないようにしたり、個人攻撃した挙句に記者がネット上で晒し者になることもあり、その傾向は現在も変わっていない」として、報道関係者が大統領を正しく報道することが非常に困難になる可能性があると指摘している。

その背景にあるのは、トランプ氏の高視聴率である。テレビ離れが激しいアメリカにおいて、連日トランプ氏を放送し続けたFOXニュースやCNNなどケーブルニュースチャンネルは今年、過去最高の視聴率を記録した。型破りな発言と行動で国民の目を釘付けにするトランプ氏は、メディアにとって、大事な商品でもあるのだ。そんな自らの影響力を理解しているトランプ氏は、自分にとって不都合な報道をするメディアには冷たく接する傾向がある。

■2017年 問われるメディアのトランプ氏報道

オバマ大統領が発表したロシアのサイバー攻撃に対する報復措置に対しプーチン大統領が対抗措置を取らないと発言。これに対しトランプ氏は今週金曜日「素晴らしい対応、賢いと知っていた」と評価、ツイートしている。

メディアの取材でこう答えれば、「裏切り行為」ではないかと記者団に追及されるのは目に見えているがツイートなら、トップダウンでメッセージがストレートに伝達できる。もちろん、早速これを批判する報道をしたCNNとNBCニュースだが、トランプ氏も負けじと再びツイート。「CNNとNBCニュースは何もわかっていない。FOXニュースはわかっている」と名指し攻撃である。こんな メディア攻撃が大統領就任後も変わらないとしたら、まるで報道の自由のない独裁政権国家のようである。

先日、次期大統領報道官のショーン・スパイサー氏は、トランプ氏は大統領の定例記者会見は行わない可能性があるとし、代わりにツイッターやフェイスブックを使用すると発言。「主要メディアで発信するのには限りがあり、ツイッター上の何百万人ものフォロアーと会話することに意味がある」としている。慣習にとらわれない時代の流れなのか、報道の自由を脅かす危険な流れなのか。

CNNでは、トランプ氏がツイートする度に、そのツイートを報道してきたことを反省。アメリカ国民が大事な外交政策を大統領のツイートで知るような4年間になってはいけないとして、幹部たちの間でトランプ氏のツイートを安易に報道しないよう取り決めたという。

選挙中、トランプ氏の術中に見事にはまり、冷静なトランプ批判ができないまま宣伝媒体として利用されてしまった米主要メディア。来たる2017年は、トランプ氏のパフォーマンスに惑わされることなく、報道することが期待されている。


この記事を書いた人
井上麻衣子ジャーナリスト/ビデオグラファー/ストリート・フォトグラファー

在米ジャーナリスト/ディレクター

コロンビア大学大学院修士課程 Master of Public Administration修了

井上麻衣子

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