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.社会  投稿日:2018/3/21

性被害撲滅、詩織さん国連で訴え


井上麻衣子(ジャーナリスト)

 

【まとめ】

・ジャーナリスト伊藤詩織さん国連で会見「#We too]運動提唱。

・アメリカではこれはおかしいと思ったら被害者側が声を上げることができる。

・日本でも性犯罪、被害者に対する意識を変えることが必要。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイト  http://japan-indepth.jp/?p=39061 でお読み下さい。】

 

今月16日、国連本部で記者会見を開いたのは、自身が受けた性暴力被害を告発、現在は相手の男性と民事係争中のジャーナリスト伊藤詩織さん(28)。

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写真)国連パラレルイベントで発言する伊藤詩織さん 

撮影)井上麻衣子

 

昨年アメリカでは、ハリウッドの有名プロデューサーを皮切りに、大物ニュースキャスターなど著名人が次々とセクシャルハラスメントで告発され、 セクハラ撲滅運動、「#Me Too(私も) 」旋風が巻き起こったが、伊藤さんはそれに先がけ、日本で、被害者が泣き寝入りしない社会を作ろうと声を上げていた。警察に被害届を出したものの、検察が相手の男性を不起訴処分にしたため、仕方なく実名顔出しで告発に踏み切ったのだ。

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写真)国連パラレルイベントには約100人が詰め掛けた

撮影)井上麻衣子

 

しかし、そんな伊藤さんを待っていたのは、支援の声ではなく、インターネット上などでの激しい中傷や脅迫被害は家族にまで及び、追い詰められた伊藤さんは、日本を去らざるを得なかった。 女性がいくら被害を訴えても、今の日本では、法律も、メディアも、守ってはくれない・・・そんな経験から、被害者に対する反発が大きい日本では「#Me Too運動はなかなか根付かないとし「#We Too(私たち)」を提唱し、支え合って、性被害者が被害を訴えやすい社会を作っていきたいと語った。

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写真)国連本部で会見する伊藤詩織(中央)さんと伊藤和子弁護士(右)

撮影)井上麻衣子

 

会場からは、彼女の勇気を讃える声があがった。特に、アメリカ人の関心を集めていたのが、伊藤さんが被害届を出した際の日本の捜査官の対応だった。伊藤さんによると、3、4人の捜査官の前で、実物大の人形を使い、自ら床に寝て、どんなふうに被害を受けたのか、事細かく実演させられたという。これに対し、アメリカの公共ラジオ放送NPRの記者リンダ・ファスーロさんは、「先進国日本でこんなことが行われているなんて、信じられない」と驚きを隠せない様子だった。

 

筆者は、念のため、ニューヨークの性犯罪特捜班チーフで、検事のジョセフ・ムーロフ氏に、性犯罪の被害者にこのような再演を要求することがアメリカでもあるのか確認したが、「被害者が実演した方が状況を説明しやすいからと自ら同意しない限り、再演などあり得ない。しかも人形を使うなど、聞いたこともない」そうだ。

 

と、書いていると、まるで、日本は被害者の声を封じ込めようとする、ひどい男尊女卑社会のようだが、実際はアメリカも同じか、それ以上にひどい闇は存在している。大学生の5人に1人は 性暴力の被害にあっていると言われる「カレッジ・レイプ」問題だ。

 

未だに大きな社会問題として応酬が続いているのが、 2015年に起きたスタンフォード大暴行事件。パーティー会場で出会った、泥酔し意識のない女性に性的暴行を加えたとして男子大学生が有罪になった事件だ。男子大学生側は同意があったとし、無罪を主張したが、犯行を目撃した別の大学生が止めに入ったところ、男子大学生は走って逃げて捕まっており、量刑16年は確実と思われていた。

 

しかしこの男子大学生は名門スタンフォード大学の学生で、オリンピックレベルの水泳選手として、将来が有望視されている、金持ちの息子だった。 結果、男子学生に下された量刑はわずか6ヶ月、理由は、それ以上の長い量刑では、被告の人生に大きな影響を与えすぎる、という、内容だった。

 

被害女性は、名前も顔もメディアには公開はしなかったが、法廷で手紙を朗読運ばれた病院で意識を取り戻し、暴行を受けたことを知らされた恐怖の瞬間から、家族に伝えた時の苦しみ、そして法廷では被告の弁護団から、酔っ払い女に仕立て上げられ、侮辱された悔しさを綴った。

 

この手紙が公開されるや、白人エリート主義、男尊女卑として、裁判長の判断に抗議する声が全米に広がった。裁判長の罷免を求める運動が起こる中、裁判長擁護派から脅迫状が送られるなど、争いは未だに続いている。

 

https://www.change.org/p/california-state-house-impeach-judge-aaron-persky

△判事のリコールを求める署名活動(現在は終了しています)

 

この事件で、メディアは連日、被害女性の手紙を、女性キャスターが涙ながらに朗読するなど、社会のサポートは厚いように思われたが、パーティー、泥酔、大学生、と言う言葉を聞くと、男性側に同情する声があったのも事実だ。

 

#Me Too運動で、昨日までアンカーとしてニュースを読んでいた大御所が翌日には画面から次々と消えるのを見ると、さすがアメリカ、女性の言い分をきちんと聞いているな、と言う印象はあったが、実際にはトランプ大統領の国である。これだけ、運動が盛り上がるまでには、これら著名キャスター陣の悪行は見て見ぬ振りだったわけで、決して、日本より先を行っているかと言うと、そうは思えない。ただ違うのは、これはおかしいと思ったら、被害者側が声を上げることができるかできないかであろう。

 

日本で育った伊藤さんは小さいとき、ビキニを着ていて、痴漢にあったそうだ。近くにいた母と叔母に報告したら、そう言う格好をしていたからだと言われたそうだ。日本人なら、ありがちな話である。なぜこんな目にあったか?まずは自分を省みるという、よく言えば「謙虚さ」、日本人ならではの「恥」の思想である。

 

以前、ニューヨーク、コロンビア大で、元ボーイフレンドだった男子大学生から、性暴力を受けたと主張する女子学生が、相手の大学生を退学にすべきだと大学に訴えたが、聞き入れられなかった。すると女子学生は、被害にあったときのベッドのマットレスを背負って、キャンパス中を練り歩きメディアが大きく取り上げ、コロンビア大学が大慌てで、大学の性被害調査を拡大すると言う例があった。

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写真)エマ・サルコウィッツ(Emma Sulkowicz:写真左端)が、性的暴行への抗議としてマットレスを持ってコロンビア大学のキャンパスを歩き回いた。活動のタイトル:「マットレスパフォーマンス:Mattress Performance (Carry That Weight)」2014年9月

出典)Carring The Weight Together

 

声を上げても聞き入れなければ、誰かが聞いてくれるまで声を上げ続けるのだ日本女性として育った伊藤さんだが、高校でアメリカに留学、ニューヨークでジャーナリズムを学んだ経験が、同じ被害者を出さないために声を上げようと決意する土台になったのかもしれない。

 

国連の会見後、続いて行われたイベントにはおよそ100人の観客が集まった。被害について話すたびに、裸になるような気持ちだが、こうして集まってくれた人を見ると、毛布をかけてもらったような暖かい気持ちになると語った伊藤さん。

 

ここまで流暢な英語で受け答えし、スピーチができる日本人には、あまり会ったことがない。聡明さが際立ち、活動家としての才能が感じられる。日本でバッシングを受け、居場所がなくなった時に声をかけてくれたイギリスの人権団体の招きで、ロンドンに移住したという彼女だが、日本を捨てたわけではない。ドキュメンタリストとして、日本の性犯罪被害者たちの取材を開始しているという。

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写真)国連パラレルイベントで伊藤さんの話に耳を傾ける観客たち

撮影)井上麻衣子

 

誰もが伊藤さんのように、実名、顔出しで被害を告発できるわけではない。家族や職場、人間関係などを考え、泣き寝入りし、自分が我慢すれば良いと考えてしまう人はまだまだ多いだろし、男性が被害者になる場合もあるだろう。日本ではタブー視されがちな性被害だが、周囲が見て見ぬ振り、聞かぬ振りでは加害者と同じである。法整備、支援制度を整えることは欠かせないが、まずは性犯罪、被害者に対する意識を変えることから始める必要があるだろう。

写真)会見をする伊藤詩織さん(中央)

撮影)井上麻衣子


この記事を書いた人
井上麻衣子ジャーナリスト/ビデオグラファー/ストリート・フォトグラファー

在米ジャーナリスト/ディレクター

コロンビア大学大学院修士課程 Master of Public Administration修了

井上麻衣子

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