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.国際  投稿日:2017/2/4

外務省、「慰安婦像」に呼称統一へ 


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・メディアは韓国の慰安婦像を少女像と呼んできた。

・自民党から呼称変更要請相次ぐ。

・外務省は呼称を慰安婦像に統一する方針決めた。                

日韓関係を悪化させる慰安婦問題で日本の主要メディアが奇妙にも慰安婦像を「少女像」と呼んできたことの不適切さを何度か当サイトで指摘してきたが、日本外務省もついにその不適切さを認める形で今後は「少女像」という言葉は使わず、「慰安婦像」に統一することを決めたという。事実だとすれば、この呼称のおかしさと欠陥を批判してきた側として、この新決定への歓迎を述べたい。

毎日新聞が2月2日、以下のような報道を流した。

≪(日本)外務省は2日、ソウルの日本大使館前や釜山の日本総領事館前に設置された慰安婦を象徴する少女像の呼称について、「慰安婦像」に統一する方針を決めた。自民党で「『少女像』では慰安婦が少女ばかりだったような印象を与える」などと変更を求める意見が相次いだことを踏まえた。

日本政府はこれまで、国会答弁や記者会見などの中で「少女像」「慰安婦の少女像」「慰安婦像」など複数の呼称を使っていたが、像が少女を表現しているため、主に「少女像」と呼ぶ例が多かった。2015年12月の日韓合意時は韓国の尹炳世(ユン・ビョンセ)外相が共同記者会見で「日本大使館前の少女像」と表現した。

昨年末に釜山の総領事館前の少女像が設置された後、自民党で呼称の変更要請が相次いだため、検討していた。【小田中大】≫

以上のように日本の外務省も慰安婦像を慰安婦像と呼ばないできた経緯があったのだ。

その点に主要メディアの親韓傾向がつけこんだということか。この種のテーマでは日本側には韓国や中国の主張に最大限の同情や同調を示すことが「良識的」であるかのような、奇妙な日本版の「ポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)」志向が年来、存在してきた。アメリカでは「ポリティカル・コレクトネス」は建前だけ、ときには偽善っぽい態度として批判されることがある。

今回の外務省の呼称統一には自民党側からの圧力がかなりあったようだ。自民党は1月27日に外交部会などの合同会議を開き、慰安婦問題などを協議した。そのなかで一部議員が慰安婦像の呼称の問題を取り上げ、「少女像」などと呼ぶのはまったくおかしいと外務省をも非難したというのだ。その会議の模様を報じた産経新聞の記事から以下を抜粋しよう。

≪慰安婦像「少女」呼称に批判 自民合同会議 外務省、見直し検討

2017年01月28日 産経新聞 東京朝刊 総合・内政面

自民党は27日、韓国・釜山(プサン)の日本総領事館前に設置された慰安婦像などの問題を協議するため、外交部会などの合同会議を開いた。会議では、政府が像について「慰安婦の少女像」との呼称を用いていることに批判が集まったほか、さらなる対抗措置を講じるよう求める声も上がった。出席した外務省幹部は呼称見直しを検討する考えを示した。

外務省は慰安婦像の呼称に関して「慰安婦の少女像」と「慰安婦像」の両方を使用しており、この日会議に提出した資料には「慰安婦の少女像」と記載されていた。外務省関係者によると、「慰安婦像」だけでは大使館や総領事館前の像であることが分かりにくいためだという。

これに対し、出席議員からは「少女像と呼べば、実際に少女が慰安婦をやっていたと思われる」(青山繁晴参院議員)、「政府が『少女像』と呼ぶからNHKなどマスコミもその表記を使う」(佐藤正久参院議員)などと批判が噴出。政府が使う呼称を「慰安婦像」など誤解を招かないものに統一するよう求めた。

ただ、岸田文雄外相は20日に衆参両院で行った外交演説で「慰安婦像」と言及。菅義偉官房長官は11日の記者会見で「『慰安婦の少女像』あるいは『少女像』ということに尽きる」と答えたが、政府関係者は27日、菅氏が「慰安婦像」を「少女像」と言い間違えていたことを明らかにした。これ以降、菅氏は「慰安婦像」と呼んでいる。≫

やはりこの不適切な呼称の問題は外務省の態度にも原因があったということなのだ。その外務省が今後はすべて「慰安婦像」という用語にするという。その変化に朝日新聞やNHKがどう応じるかが注視されるところである。

 


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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