朴大統領罷免 歓喜の北朝鮮
朴斗鎮(コリア国際研究所所長)
【まとめ】
・憲法裁判所の決定文は根拠薄弱
・韓国政治は今後混乱状態に
・北朝鮮は大喜び、試される日本外交
■弾劾されるべきは憲法裁判所
韓国の憲法裁判所は10日午前11時過ぎ、裁判官全員一致で、朴槿恵(パク・クネ)大統領の罷免を決定した。
朴大統領は、2013年2月25日に就任してからおよそ4年で、任期をおよそ1年残したまま大統領府(青瓦台)を出ることになった。昨年10月、親友の崔ソウォン(スンシルを改名)被告の国政介入疑惑により大統領退陣要求のデモが始まってから5カ月、国会で弾劾訴追案が議決されてから3カ月での退陣だ。
今回の憲法裁判所決定について、ある高名な元韓国憲法裁判所裁判官は次のように吐き捨てた。
「論評する価値もない低水準の決定文だ。事実認定部分も信じられない。決断するまでの悩みや痛みの跡もない。でたらめ国会の訴追状と同じ水準の決定文だ。主文を決めておいてそれに合わせただけの感じがする。憲法裁判所を弾劾しなければならない」
確かに素人の私が決定文を読んでも重大な憲法違反があったかはあいまいだ。
■根拠薄弱な決定文
憲法違反の主な内容としては
①朴前大統領が、親友の崔ソウォン(スンシルを改名)被告の国政介入を認め、大統領としての権限を乱用したこと
②朴前大統領が崔被告の国政介入の事実を徹底的に隠し、疑惑が提起されるたびに否認してむしろ疑惑提起を非難したこと
③法の違反行為が繰り返され、憲法を守る意志がみられないこと
などを列挙し、結論として大統領の違憲、違法行為は国民の信任を裏切ったもので、憲法守護の観点から容認できない重大な行為とみなさなければならないと罷免決定を下した。
この程度の根拠で大統領が罷免されるのであれば、今後も大統領弾劾はたびたび起こりうる。
また裁判官8人が全員同意見だったことも驚きだ。まさに「赤信号みんなで渡れば怖くない」の小心者集団の姿だった。正常な国家であれば一人ぐらいの異論があってしかるべきだが、世論政治、情治政治が行き渡る韓国では無理だったのだろう。しかしそれが韓国民主主義の水準であり、民意の水準であり、政治と司法の水準であるから韓国民はその現実に合わせて生きるしかない。だが今後韓国は解放直後のような深刻な混乱を迎えるに違いない。
■大喜びの北朝鮮、試練の日本外交
この決定に大喜びの北朝鮮は10日、憲法裁判所が朴槿恵大統領罷免を宣告したわずか2時間20分後に、朝鮮中央通信や朝鮮中央放送で迅速報道した。北朝鮮メディアが韓国の国内問題についてこのように迅速に報じるのは異例中の異例だ。2004年5月、当時の盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領の弾劾訴追案が棄却された際は2日後に報道した。
北朝鮮の核ミサイル進化、韓国の左傾化、トランプ大統領と金正恩の激突、中国の覇権主義、どれをとっても日本にとっては難題だらけだ。この複雑な東アジア情勢の中で、日本の外交安全保障はかつてない試練を迎えることになる。
あわせて読みたい
この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長
1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統