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.国際  投稿日:2017/4/16

タイ激震 首相暗殺計画発覚


大塚智彦(Pan Asia News 記者)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

・軍政タイで首相暗殺計画発覚。

・背後に国王と近い、元首相らの関与疑惑浮上。

・元首相派vs現軍政との対立は続く。

 

■首相暗殺計画発覚

タイのワチラロンコン新国王の下、政権基盤の安定と長期化をもくろむ軍政のトップであるプラユット首相の「暗殺計画」がこのほどタイで発覚、軍政への反発が一部国民の間では「暗殺まで計画していた」として軍政はこれを問題視し、捜査当局に徹底解明を指示した。

さらにその後の捜査の結果、暗殺計画に関わった人物がタクシン・チナワット元首相支持派であることから、タクシン元首相あるいはその妹のインラック・チナワット元首相など軍政と対立する勢力が関与した疑いも払しょくできないとして、捜査当局に慎重に政治的背景の調査を命じた。

タイ国家警察と国軍は3月18日、反軍政の運動家自宅から大量の武器弾薬を発見、これを押収した。警察が捜索したのはタイ中部パトゥンタニ県にあるウッティポン・コチャタマクン(コティー)氏の2階建ての自宅。事前の情報提供に基づき自宅を家宅捜索した結果、スコープ付きのライフル銃、手榴弾、数千発の弾薬などが発見されこれを押収するとともに同氏の自宅にいた留守番役と称し「武器の存在を知らなかった」とする男性ら9人を武器の不法所持容疑で逮捕した。

警察はコティー氏がタクシン元首相を支持する赤シャツ組織の主要メンバーで「反軍政民主化組織」の指導者として活動、反軍政のラジオ局を運営するなどの活動歴を把握、これまでのインターネットへの書き込みなどから軍政に対する蜂起とプラユット首相の暗殺を準備していた疑いがあると指摘した。

その上で今回の暗殺計画の背後には軍政への批判を強めるタクシン元首相、さらにその妹のインラック元首相らの関与の可能性についてマスコミを通じて指摘した。タクシン元首相は在職中(2001年~2006年)の不正問題で有罪判決を受けて現在海外逃亡中。インラック元首相(2011年~2014年首相在職)も人事問題への不当介入などで首相を解任され、係争中の裁判を抱えた上に公民権が停止されタイ国内に滞在している。

■タクシン元首相反論、複雑な権力構造

こうした軍政の動きに対しタクシン元首相は海外からネットへの書き込みで「プラユット首相ら軍政は自らの延命工作のために(暗殺事件を)でっちあげ、事件の背後に私がいると決めつけているだけだ」と軍政を厳しく批判した。

現在のタイの政治権力構造は、ワチラロンコン新国王と軍政の間で民政復帰のプロセスや国王の権限問題で「静かな対立状態」(地元紙記者)にあるとされ、早期の民政復帰実現を求めるタクシン派と時間をかけて民政復帰を進めたいとする軍政が対立関係にあるという。

問題はワチラロンコン国王とタクシン元首相が親しい関係にあり「反軍政で密かに連携を取っているのではないか」との情報があることで、軍政としても「絶対的存在」である国王の支持を取り付けながらも民政復帰に時間をかけることで軍政を「延命」させる道を模索している。

プラユット首相の軍政は民政復帰のプロセスの中で「軍部による政治介入を防ぐ法的な整備が必要でそれに時間がかかっている」と説明している。しかし、「軍部による政治介入」つまりクーデターは現軍政が政権を掌握する際に用いた手段であり、タイではたびたび繰り返されてきたいわば軍による「伝家の宝刀」。それを軍政自身が封じ込める法整備をしたところで「ほとんど意味がなく、軍はいつかまたクーデターで政治介入するだろう」というのが国民の共通理解となっており、軍政の思惑への理解はほとんど得られていないのが実態という

 ■真相解明どこまで進む?

 今回の「軍政トップの暗殺計画」については活動家の自宅から発見、押収された武器類が新品同様だったことから軍政による「でっちあげ」の可能性がタイの一部メディアからは指摘されていた。しかし警察は「単に武器などの保管状態が良好だったのが(新品同様の)理由である。マスコミ注視の中で行った捜索であり、でっちあげは不可能」と疑惑を完全に否定している。

その一方で地元紙「ネーション」は4月10日、インラック元首相が中央行政裁判所に請求していた「在職当時の米質入制度に関する不正でインラック元首相に出されていた357億バーツの損害賠償命令の差し止め」が却下されたことを伝えた。インラック元首相の法廷闘争は厳しい局面を迎えつつある。

軍政が依然として北東部ウドンタニ県などの農村地帯での影響力が強いタクシン、インラック両元首相とその支持勢力を窮地に追い込みたいのは事実で、コティー氏自身は2014年5月に自宅から逃走しており、身柄拘束には至っていないこともあり、「暗殺計画」の真相解明はタイ国王を巻き込んで複雑化するタイの権力闘争の中でどこまで進むかタイ国民も注目している。


この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト

1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。


 

大塚智彦

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