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.社会  投稿日:2017/5/13

もっと話そう、知ろう「女性のカラダ」


Japan In-depth 編集部大川聖

【まとめ】

・メディアに求められる正しい情報発信。

・婦人科系疾患による社会の損失大。正しい知識と早期検診が必要。

・企業が女性のヘルスケアを考える体制、重要。

 

4月9日の子宮の日の前の6日、東京都内で婦人科系疾患の予防啓発活動に取り組む一般社団法人シンクパール主催、朝日新聞社、ザ・ハフィントン・ポスト・ジャパン株式会社が共催のイベント「もっと話そう女性のカラダ!仕事とカラダのいい関係」〜女性からだ会議®×ハフィントンポスト『Ladies Be Open』トークイベント〜 が開催された。

朝日新聞社は昨年末がんとの社会づくりを目指すネクストリボンプロジェクトを、またシンクパールはA-portで全国に無料で検診車を走らせる活動を4月9日にそれぞれ立ち上げた。

また、ハフィントンポストは女性のカラダについて取り上げる、Ladies be openという特集企画を始めた。イベントには約100人が参加し、がん検診を受けること、定期的に体のメンテナンスをすることの大切さを再認識し、また意外に知られていない女性のカラダについての知識をつけながらもキャリアについて考える機会となった。

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■正しい情報発信が必要

イベント最初に登壇したのはハフィントンポスト日本版編集長竹下隆一郎氏。ある日、部下の女性に、『私、生理痛がひどいんです・・・』 と告白されて困ったという体験があった。「これを言うとセクハラになるのではないか、理想の上司として何を言ったらいいのか悩んだと同時に、何故これを私に言ったのだろうと疑問に思った。」という。痛みや精神的に不安定になる等、月経によって引き起こされる体調不良は仕事に影響するもの、仕事の生産性を下げている、と指摘した。

相談されたことをきっかけに竹下氏は、以前は月経を女性特有の「毎月起こるカラダの不調だと思っていたものを、世の中の女性が程度の差はあれ、毎月最低一回はくるもので、女性活躍社会だといわれているのにもかかわらず、何故自分はよく知らなかったのだろうか、社会でもっと議論されないのだろうか」という問題意識を持つようになり、Ladies Be Openを立ち上げた。

今までのメディアでも、月経等女性のカラダに関する記事はあったが、生活面または女性特有の医療情報といった形で報道されてきた。しかし、単なる医療情報ではなく、「経済に影響を大きく与えている事象、という観点からも取り上げるべきなのではないか」と竹下氏は述べた。

また、「ある統計では、婦人科系の疾患(月経含めた)によって、生産性の損失、医療費支出など、年間どのくらい損失があるのかという数字がある。問題に向き合わないと企業にとっては経営リスクで、投資して育てた女性が悩みを言い出せないことによりビジネス上の損失が生まれる」と述べ、月経がほぼ毎月起こるカラダの不調だけではなく、仕事の能率や経済にも影響する問題であり、企業側も取り上げるべきであるとの考えを示した。(注1)

また、「医者と患者の関係はもう少し工夫ができるのではないか」と述べた。いざ自分の身体に不調を感じた時は、不安に思い、不調が月経ならば毎月起こることに対して薬で治すことに抵抗を覚えたり、最初は病院に行かず我慢したりすることが起きる。メディアが「患者と医者のつなぎ役」として、病気のリスク等の正しい情報を発信する必要性を強調した。

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■低い日本の検診受診率

次に登壇した、一般社団法人シンクパール代表理事の難波美智代氏は子宮頸がん検診の課題と、クラウドファンディング4月9日からのA-portのプロジェクトリリースについて講演した。A-portは全国に子宮頸がん無料検診車を走らせることを目標にしている。シンクパールは検診率が低いという問題意識のもと、「検診という行為をきっかけに自分のカラダと向き合うこと、メンテナンスを習慣化するというメッセージを伝え、行動の後押しをすること」をミッションとしている。

難波氏は7年間活動してきてワークライフスタイルの多様化を実感し、「社会が環境としくみを整え支えていくためのダイナミックな変革が必要である」との考えを述べた。また、「日本の女性は世界トップレベルの長寿にもかかわらず、健康寿命は低い」と指摘し、「子宮頸がんは30代の女性に増えている」と述べ、世界の受診率と比較して日本の受診率の低さに警鐘を鳴らした。そして、子宮頸がんを身近な問題として捉え、検診を受けることの重要性を強調した。

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■子宮にやさしい生活のススメ

次に、産婦人科医の宋美玄(そんみひょん)氏が登壇しキーノートスピーチを行った。宋氏は、女性が月経が起こるたび、毎月ホルモンに振り回されているという事や、正常な月経の状態、月経の仕組みを詳しく述べた。また、月経を快適に過ごすアイテムや、女性のカラダに関するよくある誤解を紹介した。低用量ピルを使用するなど、「月経に振り回される時代ではなくコントロールする時代である。」と述べ、排卵は赤ちゃんをスタンバイするときだけでよく、色々な不安から解放し、「建設と破壊」から子宮と卵巣を休ませる「優しい生活」を提案した。

■正しい知識とかかりつけ医

続いて行われたパネルディスカッションのテーマは「カラダと向き合って働くということ」で、モデレーターに竹下隆一郎氏、パネラーとして、株式会社ジョヤンテ代表取締役の川崎貴子氏、宋美玄氏、そして難波美智代氏が登壇した。川崎氏は女性に特化した人材派遣会社を約20年経営しているが、昨年末乳がんを経験し、ブログで経験を赤裸々に綴っている。

竹下氏は、「女性のキャリアにとって何故ヘルスケアを見直すことが大事だと考えているか」と質問した。難波氏は、自身も36歳の時にがんを経験したが、がんになって初めてヘルスケアについての教育は不十分で、正しい情報入手の仕方もわからないということに気付いた、という。「自覚症状はなく、たまたま行った検診で分かった。私は子宮を全摘出した。もう、こどもは産めない。今そういう20代、30代の女性が増えている。これから結婚したい、子どもを産みたい、バリバリ働きたいと思う女性が自分と同じ目にあっている。それは人生の選択肢を失っていることになる。そういったリスクをできるだけ早い段階に知ってもらいたい。知識を身につけることが、女性の人生を自由にチョイスするために必要だと考えている」と述べた。

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川崎氏は、これまでがんは不治の病だったが、自身も乳がんを経験して、「早期発見・治療する、保険に入れば仕事を辞める必要もない。自分でコントロールできると気づいた」と述べた。早期発見は治療の選択肢も広がる。川崎氏は、1月にブログでがんを発表した際、がん経験者から沢山反応があったという。「がんを不治の病にしないためにも自分のカラダと向き合うことが必要なのではないか」と述べた。

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女性と婦人科のつながりに関して、宋氏は「皆、検診が大事なのはわかっている。ネックになっているのは、婦人科に行く手間や、妊娠を考えていないのに妊婦が沢山いるところに行きたくない等の検診へのイメージがあるようなので、そういう人には婦人科しかないところに行くように勧めている」という。また、以前検診を受けた際、医師にデリカシーのないことを言われたり、痛かったりしたマイナスの経験が理由になっている、と分析した。

また、ピンクリボンのキャンペーンが行われ、認知度の高い乳がんに比べて子宮頸がんは言い出しにくい側面もある、と指摘した。「かかりつけの病院をもつこと、そのためには意識啓発だけでなく、企業をはじめとした制度改革も必要なのではないか」との考えを示した。また医師とは相性もあるので、まずは病院に行ってみるように、と宋氏は呼び掛けた。

アメリカ等と比較して何故日本の検診受診率が低いのか、という問いに対して、難波氏は「日本は国民皆保険があり、病気になったら病院に行けば安く治してもらえるが、アメリカでは歯医者でも高くつくこともあり、予防に対する意識が高い。」と答えた。また、「どうしたら意識が高まるか」との質問を受け、「第一は教育で、同時に社会が啓発し、行動の後押しが必要である」と述べた。

また、「男性に話して一番ピンときていたのは、HPV(ヒトパピローマウイルス)は子宮頸がんの原因で、所詮女性の病気だと捉える男性も多いが、咽頭がんや肛門がんのリスクもあると伝えると急にぎょっとなる。」と述べ、がんに関する知識の少なさや予防意識の低さに警鐘を鳴らした。

 

■企業に求められる取り組み

一方、川崎氏はこれから企業内でヘルスケアについて相談できる環境づくりが必要になってくる、と述べた。例えば、治療の一環である摘出はメンタルに影響することも多く、専門家による精神的なケアが必要だとの考えを示した。宋氏も、企業が女性の婦人科検診受診率やかかりつけ医師保有率を「ブランド化」し、ヘルスケアから女性の活躍を応援するようになればいいのではないか、と提案した。

難波氏は、ネクストリボン活動、がんとの共生について「まだまだこれから議論を尽くさねばならない。」と述べた。宋氏は検診を受けたことをポジティヴにSNS等で発信してほしい、と呼びかけた。川崎氏は、勤務先や家族へのマイナスな影響を気にして隠しているがん患者が沢山いることに気付き、経験者だから伝えられること(cancer gift)もあると述べ、自身のブログ発信の重要性を改めて強調した。難波氏は、今回のイベントをきっかけに、職場の制度が充実しているか見直してほしい、と呼びかけた。

(注1)婦人科系疾患を抱える働く女性の年間の医療費支出と生産性損失年間合計6.37兆円(20~60歳の正規雇用の女性に対する調査 平成28年1月日本医療政策機構 働く女性の人数:2,474万人、婦人科疾患有病率:17.1% 前提による算出)

 

トップ画像:「もっと話そう女性のカラダ!仕事とカラダのいい関係」〜女性からだ会議®×ハフィントンポスト『Ladies Be Open』トークイベント〜登壇者とイベント参加者 ©Japan In-depth編集部

文中画像①:イベント最初に登壇した、ハフィントンポスト日本版編集長竹下隆一郎氏

文中画像②:一般社団法人シンクパール代表理事の難波美智代氏

文中画像③:産婦人科医の宋美玄(そんみひょん)氏

文中画像④:株式会社ジョヤンテ代表取締役の川崎貴子氏

文中画像⑤:パネルディスカッションの様子

すべて ©Japan In-depth編集部


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