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.政治  投稿日:2017/7/25

蓮舫氏と朝日新聞の勘違い


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・「二重国籍問題」で民進党蓮舫代表、戸籍開示は「プライバシーに属する」と発言。

・しかし戸籍は私文書ではなく、国や地方自治体など公的機関が管理する公的文書。

・従って戸籍は個々人が独占的に所有する私的な情報であり開示はプライバシー侵害と断じるのは「勘違い」である。

 

民進党代表の蓮舫氏の二重国籍問題での発言にはまだまだ不可解な点がある。自分自身の戸籍を一部でも開示することが「プライバシーに属する」から本来は「あってはならない」と述べたこともその一つだ。この点は朝日新聞の社説もまったく同じことを主張していた。

だが戸籍は私文書ではない。国や地方自治体など公的機関が管理する公的文書なのだ。一般にいうプライバシーの対象となる文書類とは基本が異なるのだ。個々人が所有し、保管する文書とは基本が別なのである。しかも蓮舫氏は私人ではなく公人なのである。

蓮舫氏はこの点を無視し、現実をあえてねじ曲げて、自分が架空の「差別」や「排外」の被害者であるかのようなイメージを作り出そうとしているかにもみえる。

蓮舫氏は長年の自分自身の二重国籍を認めた。その点について事実と異なる主張を長年、続けてきたことも認めた。長年の虚偽であり、違法の行為の自認だった。だがその虚偽は故意ではなく過失だったと言い張る。

しかし十代でも二十代でも、どの国の人でも、そもそも自分の国籍がなんなのかを知らないままでいる人間がいるだろうか。まして蓮舫氏のように十代でも明らかに日本からの出国、日本への入国を繰り返していたような人物が自分の国籍がどうなっているか、知らなかったと考えるのは、あまりに無理がある。二重国籍であることを知っていて、そうではないと主張していたのならば、これは明白なウソとなる。

しかし蓮舫氏の言い逃れには他にもおかしな点がある。それは戸籍謄本の開示を求められることが、なにか差別や排外の悪しき動きだと批判することである。この批判はそもそも戸籍とはなにかを理解していない、あるいは理解していないふりをしている結果だとしか思えない。

蓮舫氏は7月13日の記者会見で以下のように述べていた。

戸籍謄本はすぐれてプライバシーに属するものです。差別主義者、排外主義者に言われてこれを公開することが絶対にあってはならないと思っています」

蓮舫氏は続いて7月18日の会見でも次のような発言をした。

本来、戸籍は開示すべきではないと思っています。また誰かに強要されて戸籍をお示しをするということはあってはならないことは、まずもって申し上げさせていただきたいと思っています」

朝日新聞も7月13日付社説で同じ主張をしていた。民進党 勘違いしていませんか」という見出しの社説だった。問題なのは長い社説の以下の一部だった。

「(前略)もう一つ懸念されるのは、蓮舫氏が戸籍謄本を公開することが社会に及ぼす影響だ。本人の政治判断とはいえ、プライバシーである戸籍を迫られて公開すれば、例えば外国籍の親を持つ人々らにとって、あしき前例にならないか。民進党と蓮舫氏はいま一度、慎重に考えるべきだ」

ここでもごく簡単に「プライバシーである戸籍」などと記されている。「外国籍の親を持つ人々」というのはその事実をまず隠さねばならないかのように言及されているのだ。

では戸籍とはなにか。最も簡単な定義は以下である。

「戸籍とは、戸と呼ばれる家族集団単位で国民を登録する目的で作成される公文書である」

戸籍簿については以下の説明がある。

「戸籍簿には、日本国籍を有する者のほとんどについて、氏名生年月日などの基本情報と、結婚などの事跡が記載されており、行政事務においてきわめて重要な役割を持っている。戸籍は日本国籍を有する者の身分関係を証明する唯一無二の公的証書である」

これだけでも明白なように、戸籍簿は個人の所有ではなく、公文書なのである。公的証書とも定義づけられる。国家やその他の行政当局が保有する国民の公的記録なのだ。個人が当局に登録をした記録だともいえる。だから本来、公的な場所に管理されている公文書なのである。

個々の戸籍の内容を一般にすべて公開することは普通は起きない。だが戸籍とはその個人だけが知っている秘密やプライベートの情報では決してなく、公的機関が把握している情報なのだ。

日本国民は誰でも日本国旅券を取得する場合、個人の戸籍謄本を提出せねばならない。戸籍の内容はその時点で個人の手を離れ、公的機関に届けられる。戸籍の開示である。結婚や離婚の手続きも同様に、戸籍謄本あるいは戸籍抄本を管轄の地方自治体に出すことになる。戸籍とはその人物の身元を証明する公的資料なのだ。その内容をすべて隠すことが正常な状態では決してないのである。

戸籍は当局に提出した段階で、開示に等しい状態になるともいえる。この公的証明の開示が人権の侵害になる、という理屈にはかなりの飛躍や倒錯がある。日本国民が戸籍に依拠した旅券で外国に行けば、日本国民としての適切な処遇は受ける。その根拠は戸籍に基づく旅券なのだ。だから戸籍に記録された情報はそこですでに本人の手を離れ、他者に向けて開示されたことになるともいえる。

蓮舫氏も、朝日新聞社説も、以上のような戸籍の公的文書としての本質を無視して、あたかも個々の人間が独占的に所有する私的な情報とみなし、その開示はプライバシーの侵害と断じて、批判しているのだ。

「蓮舫さん 勘違いしていませんか」「朝日新聞 勘違いしていませんか」と、つい告げたくなる。


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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