トランプ外交に「一定の前進」
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2017#46 (2017年11月13-19日)
(本記事は2017年11月13日に出稿されたものです)
【まとめ】
・トランプ米大統領のアジア歴訪、日韓中訪問は安全運転に徹した。
・ジョン・F・ケリー首席補佐官は「大統領のツイートに関心は払っていない」と発言。
・トランプ大統領は、NSCなど事務方が基本的政策を作成し実施することを了解しているようだ。
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ようやくトランプ氏のアジア歴訪が終わるが、事前の懸念は杞憂だった。先週1週間、トランプ氏は日本だけでなく、韓国、中国でも安全運転に徹した。政策スピーチはもちろん、共同記者会見でも用意されたテキストから逸脱することはなかった。これが本当のトランプ氏かって?そんなはずはないだろう。
▲写真 トランプ大統領と文在寅大統領の共同記者会見 出典:U.S.Embassy&Consulate in Korea
案の定、先週末あたりから以前の「トランプ節」が戻ってきた。日曜日にはハノイで、ロシアゲートの捜査を求める人々を「haters and fools」と罵り、「crooked Hillary」の対ロシア関係発言をあざ笑い、トランプ氏を「lunatic old man」と呼んだ金正恩を「私はshort and fatとは呼ばなかった」と嘯いた。
Does the Fake News Media remember when Crooked Hillary Clinton, as Secretary of State, was begging Russia to be our friend with the misspelled reset button? Obama tried also, but he had zero chemistry with Putin.
— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) November 12, 2017
Why would Kim Jong-un insult me by calling me "old," when I would NEVER call him "short and fat?" Oh well, I try so hard to be his friend – and maybe someday that will happen!
— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) November 12, 2017
要するに、統治モードのトランプ氏は1週間しか続かなかったのだが、むしろ、よくぞ1週間も続いたと賞賛すべきなのかもしれない。歴訪開始前の11月2日、マクマスターNSC担当補佐官は「大統領は自ら望む言葉を使うだろうが、そのレトリックは同盟国・友好国に大いに安心を与えるものだ」と述べた。
▲写真 ハーバート・マクマスターNSC担当補佐官 出典:U.S. Navy photo by Chief Mass Communication Specialist James E. Foehl
それだけではない。日曜日にホワイトハウスのジョン・F・ケリー首席補佐官は、「大統領のツイートに関心は払っていないし、ホワイトハウスのスタッフにも、そうしたツイートに影響されることは認めない」と述べたそうだ。えっ、それって本当なのか。これが米国大統領府スタッフの責任者の発言なのか。(当該記事参照)
▲写真 ジョン・F・ケリー首席補佐官 出典:the WHITE HOUSE Youtube
更に、同補佐官はこう言った。「ツイートはツイートだ。しかし、歴訪の準備でスタッフの仕事をやり、大統領を準備完了とし、各地で大統領をブリーフし、次の日程の説明を行うのは我々である。(大統領の)ツイートが自分の生活を左右するのではない、左右するのは良いスタッフの仕事(の出来)である。」
これほど米国の大統領を軽んじた発言はないと思うのだが、トランプ氏はこれについて文句を言っていない。だとすれば、今回のアジア歴訪の機会にトランプ政権内部の外交政策立案・実施について、漸く「一定のルール」が出来つつある、ということなのかもしれない。
もしこれが事実であれば、トランプ政権では、大統領が国内政治上の配慮から、良く言えば自由に、悪く言えば勝手に、ツイートすることは仕方がないが、基本的政策はNSCなど事務方が作成し、それを粛々と実施していくことを、大統領自身が了解している、ということか。そうであれば、一定の前進である。
〇欧州・ロシア
▲写真 リュイス・コンパニス通りで独立宣言が行われるのを待つ人々 2017年10月10日 Photo by Amadalvarez
13日からカタロニアの各政党は12月21日の地域議会選挙の候補者名簿を作成するが、17日には事実上ベルギーに「亡命」しているカタロニア前大統領に対するスペイン政府の逮捕状失効についてベルギーで公聴会が開かれる。14日には英下院がEU離脱法案の議論を開始する。
16日には仏の労組団体がマクロン大統領の労働関係改革に反対する抗議運動を行う。こう見るだけでも、欧州には問題が山積している。ロシアがこの間隙を突いて、対露経済制裁を解除させようとする気持ちも分からないではない。ロシアの力は明らかに低下しているが、それでも欧州各国にチョッカイを出すことはできるのだ。
〇東アジア・大洋州
13日から第31回目のASEAN首脳会議が開かれるが、同日から22日までASEAN諸国はタイ湾で合同海軍演習を行う。13-14日にはフィリピンで開催される東アジア首脳会議の機会に、日米豪4カ国が首脳会議を開催する。また、14日には11日に始まった米空母三隻による演習が終了する。
▲写真 ASEAN(東南アジア諸国連合)関連首脳会議に集まった各国首脳 平成29年11月12日(現地時間) 出典:首相官邸
▲写真 マレーシアのナジブ・ラザク首相と握手を交わす安倍首相 出典:首相官邸
〇南北アメリカ
▲写真 エンリケ・ペーニャ・ニエト墨大統領とトランプ米大統領 2017年7月G20 ハンブルグサミット flickr : Presidencia de la República Mexicana
17日から21日までメキシコでNAFTA関連交渉が再開される。トランプ氏は再交渉を主張するが、そんなこと、カナダとメキシコには認め難いだろう。トランプ氏はどんな「落とし方」を考えているのか。両国が簡単に再交渉で大幅譲歩などするだろうか。筆者ならトランプ氏のやり方を絶対に認めないだろう。
〇中東・アフリカ
▲写真 イラン ハッサン・ローハニ大統領と国連グテーレス事務総長 2017年9月18日 出典:UN Photo
11日にEU代表団がイランを訪問する。米トランプ政権が対イラン経済制裁を強めているだけに、EUとの話し合いはイランにとって重要だ。13日からはトルコ大統領がロシア、クウェートとカタルを訪問する。これはシリアがらみの動きといって良い。エルドアン大統領が考えるシリア問題の出口は一体何だろう。
▲写真 日本・トルコ首脳会談 エルドアントルコ大統領 2016年9月21日 出典:外務省HP
〇インド亜大陸
13日から4週間、インドとバングラデシュがインドで対テロ合同訓練を行う。14日からはインドとEUが長年の懸案となっているFTA締結について議論するという。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ画像:横田基地を訪問したトランプ大統領とメラニア夫人(2017年11月5日) 出典/YOKOTA AIR BASE
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。