[宮家邦彦]米国にはウクライナへ軍事介入する意図も能力もない[連載19]外交・安保カレンダー(2014年3月3日-3月9日)
宮家邦彦(立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表)
筆者は3月3日からワシントン出張、この原稿は成田空港で書いている。ワシントンは大雪で出発が2時間遅れるそうだ。先週は「今後数週間以内にオバマ政権の対欧州政策が再びテストされる可能性がある」と書いたが、テストはもう始まっている。プーチンの動きは予想以上に早かった。今週ワシントンは大雪とウクライナに忙殺されるだろう。
米国では、プーチンは新帝国主義者、ヒトラーと同じ独裁者・侵略者だ、米国はロシアの軍事介入に対し断固たる決定的なメッセージを送るべし、といった声が主流らしい。さもないとアジアでも中国が米国の意図を誤解し、更なる現状変更を試みる恐れすらある、というのだが、相変わらず米国の識者は出来もしないことを言っている。
ワシントンでは旧ソ連専門家など「大西洋」学派が久しぶりで脚光を浴びているが、それではオバマの「アジア回帰」政策は一体どうなったのだろう。先週は「万一、ロシアが軍事介入すれば、・・・最悪の場合、ウクライナで内戦が始まり、国土が二分される可能性すらある。その際米国は介入するのか」とも書いた。実に気になるところだ。
米連邦議会議員の一部は「プーチンに代償を払わせる」などと息巻いているが、そもそも今の米国にはウクライナで軍事介入する意図も能力もないと思う。断固たる措置を取りたくても取れないことを、米以外の関係国はとっくに「お見通し」ではないのか。少なくとも、昨年9月のシリア化学兵器問題での失態だけは繰り返してほしくない。
もう一つの大きなニュースは、中国雲南省昆明で起きた「ウイグル分離独立派」による「無差別テロ」事件だ。公式発表だけで推測するのは危険だが、もし事実であれば、昨年10月末の天安門での事件とは異なり、本当の「テロ」である可能性がある。
ウイグル自治区の外でのかくも凄惨な事件の発生は、ウイグル人の漢族に対する不満と憎悪が新たな段階に入ったことを示すものかもしれない。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
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