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.国際  投稿日:2018/1/22

日本にもフェイクニュース大賞を


 古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視 」

 

【まとめ】

・米トランプ大統領、フェイクニュース大賞を発表。

・日本の主要新聞はフェイクニュース自体認めず、トランプ氏によるメディアの抑圧であるかのように扱っている。

・メディアの正誤のチェックは重要。日本でもフェイクニュース大賞を設けたらどうか。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=38145でお読み下さい。】

 

 アメリカのトランプ大統領のフェイクニュース大賞が日本でも大きな波紋を広げた。

 

△ドナルド・トランプ大統領 ツイッター 2018年1月18日

 

主要メディアの報道や論評のなかで、最もひどい虚偽や誤断、さらには捏造とみなせる実例を指摘して、順位をつけ、「賞」の対象にするというこの行為は一見、ふざけた冗談のようにみえても、ちょっと考えると、実はきわめて重要な意味があることがわかる。

 

日ごろアメリカでも日本でも、新聞やテレビ、雑誌などニュースメディアが強大な影響力を発揮するなかで、虚報や誤報は明らかに多数、存在する。だがその誤りを制度的に認定し、訂正するメカニズムがないからだ。つまり報道される側の一般国民や組織、団体にとってメディアのミスにきちんと反撃する方法が訴訟という極端な方法以外にはないのである。メディア側のたれ流しともいえるのだ。

 

こんな背景のなかでは、報道され、論評される側がメディアのミスを定期的、制度的に正そうとすることは民主主義の基本ルールにも合致するだろう。それでなくてもメディアのおごりが目につく今日このごろである。

 

主要メディアの側はこのフェイクニュース大賞に対して、「トランプ大統領が自分を批判するメディアに対してただ攻撃しているだけだ」と、なお傲慢な反応をみせる。だが現実には同大統領側が指摘した報道や評論類はみなまちがっていたことが証明されているのだ。その点に触れず、ただ批判すること自体がけしからんと開き直るメディア側の態度はまさに傲慢と評するほかない。

 

トランプ大統領があげたフェイク(偽)の第一位が日本でも信者の多いニューヨーク・タイムズのコラムニスト、ポール・クルーグマン氏の誤報だったことはとくに含蓄が深い。

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写真)ポール・グルーグマン氏
出典)パブリックドメイン photo by Prolineserver

 

クルーグマン氏はトランプ氏が大統領に当選してすぐ、「トランプ大統領になると株価は下がったままで、決して回復しない」と断言するコラム記事を書いた。現実はまさに正反対だった。トランプ政権の発足以来、ニューヨークの株価は上昇に上昇を続け、いまもなお記録破りの高値を更新するにいたった。完全な誤報だった。

 

クルーグマン氏はノーベル経済学賞の受賞者である。だから日本でも信奉者は多い。だが政治的には一貫した民主党系リベラル派であり、共和党のトランプ氏には徹底した非難を浴びせてきた。アメリカの経済専門家の間でも最も先鋭的なトランプ叩きの活動家だともいえる。

 

そのクルーグマン氏が自分自身の政治心情をもこめて、トランプ政権の危険性や欠陥を説くのは政治面だけみれば、ごく自然である。だが公器である主要新聞がコラム記事として、いくらかの客観性を標榜しながら掲載する一文としては、批判されてもやむをえない。その内容が完全にまちがっていたからだ。クルーグマン氏本人もこの記事での予測は誤っていたと認め、撤回したと語っている。

 

だからトランプ氏のフェイクニュース大賞は少なくとも主要メディアの報道や論評のいくつもが完全にまちがっていたことを内外に宣言したわけである。しかもそのまちがいはすでに証明されていた。

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写真)ニューヨークタイムズ本社 
Photo by Jleon

 

だが日本側でも朝日新聞など主要新聞はこのフェイクニュースという概念自体を認めようとしない。むしろトランプ大統領によるメディアの抑圧であるかのように扱っている。これでは「新聞よ、おごるなかれ」と言いたくなる。古参の新聞記者としての自己反省ともいえるだろう。

 

そんな新聞側のおごりを感じさせられた一例は日本新聞協会が2017年の新聞週間に一般から募集した代表標語だった。新聞を褒める言葉と呼んでよいだろう。その標語は「新聞で 見分けるフェイク 知るファクト」だった。この標語の前提は新聞にはファクトだけが書かれており、フェイクはない、という趣旨である。新聞を読んでいれば「事実」が書かれているから「偽」はわかる、という意味である。ところがその新聞にも事実として記されている偽情報があることが今回のフェイクニュース大賞で、改めて証明されたのだ。

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写真)イメージ画像
出典)Pixabay

 

 日本の新聞側のこんな態度をみると、日本でもフェイクニュース大賞の開始を提言したくなる。メディアのためにも、受け手のために、切磋琢磨となるだろう。そのためのメディアの正誤のチェックは官よりは、民が適切だろう。たとえば本ニュース・評論サイトの

Japan In-depthがその任にあたってもよいではないか。日本でもフェイクニュース大賞を、と繰り返し、提案したい。

 

【訂正】2018年1月23日 8時45分

冒頭の【まとめ】、以下を訂正致しました。

訂正前:日本でもフェイクニュース大賞を儲けたらどうか。

訂正後:日本でもフェイクニュース大賞を設けたらどうか。

 

トップ写真)ドナルド・トランプ大統領
出典)flickr : Gage Skidmore


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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