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.国際  投稿日:2020/10/20

米大統領選とメディア その3 トランプは「国民の敵」なのか


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・「中立」「親トランプ」は一部。大多数メディアは反トランプ。

・「ロシア疑惑」「ウクライナ疑惑」でトランプ降ろしに失敗。

・トランプ氏は「フェイク」と非難。失言などの極大報道は続く。

もっとも主要メディアのすべてが民主党支持ではない。中立も、トランプ寄りもあるのだ。

主要新聞ではウォールストリート・ジャーナルが反トランプでも民主党支持でもない。共和党寄りの中立に近い。トランプ大統領への批判的な記事も載せるが、功績や成功も報道する。同紙はアメリカの新聞では最大の部数を発行しているから、影響力も大きい。

テレビではFOXが共和党寄り、トランプ大統領を支持するのが基調だといえる。ニューステレビでは全米最高の視聴率を誇っており、民主党支持のCNNの報道を偏向だとして非難することも多い。FOXはトランプ大統領が最も好むテレビ局だとされる。

とはいえ、メディアの数や規模でみれば、主流派、多数派はやはり反トランプである。

とくに影響力の強いニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストはトランプ政権の誕生当初から強烈なネガティブ報道を展開した。

典型は「ロシア疑惑」だった。

この「疑惑」はいまでは民主党と反トランプ系メディアが連帯して報じ続けた虚構だったことが判明している。

疑惑の核心の「2016年の大統領選ではロシア政府機関がトランプ陣営と共謀してアメリカ有権者の票を不当に動かした」という糾弾にはなんの証拠もなかったことが特別検察官の2年近くの捜査で明確となったのだ。

反トランプのメディアの側は民主党リベラル派と結びつき、選挙で選ばれてしまったトランプ大統領を選挙ではない方法を使ってでも、なんとかして打倒しようという目標を隠さなかった。

その背景には年来の政敵の共和党候補のなかでも、ドナルド・トランプという人物だけはどうにも許容できないという強い思いが明らかにみえていた。

トランプ大統領の側もこの種のメディアを公然と非難して、「アメリカ国民の敵」とまで呼んだ。CNNやニューヨーク・タイムズの具体的な記事を名指ししてフェイクニュースと断じた。正面衝突となったのである。これまでの共和党のどの大統領も連邦議員もできなかった民主党系メディアとの全面対決でもあった。

反トランプ・メディアの側は「ロシア疑惑」の後は「ウクライナ疑惑」を大々的にプレイアップした。連邦議会の民主党議員たちをあおり、大統領弾劾をなんとか成立させようとした。だがこの試みも成功しなかった。

▲画像 米上院でのトランプ大統領弾劾審理を伝えるCNN(2020年1月22日)
出典:Steam Pipe Trunk Distribution Venue

反トランプ・メディアはトランプ大統領の統治全般でも成功例はほとんど報道しない。

トランプ政権下ではコロナウイルス大感染の前まではアメリカ経済は記録破りの好況だった。失業率は何十年ぶりの低下だった。経済成長率も勢いがよかった。ニューヨークの株式市場も市場最高の高値を記録していた。規制緩和と減税とを組み合わせた政策の明らかな成功だった。

だが反トランプの新聞やテレビはそれを決して大きくは報じない。ほとんど無視に近いのだ。そのかわりに大統領のちょっとした言葉のミスや政権内の主張の食いちがいを極端に拡大して、報道する。

そのネガティブ報道だけを読むと、トランプ大統領もトランプ政権も失敗、失態、錯誤を重ね、アメリカ国民一般からも忌避されているような印象を受けるわけだった。

コロナウイルスの報道でも同様だった。

ニューヨーク・タイムズなどは大統領の放言、失言、政策の小さなミスなどを拡大してネガティブな報道を続けてきた。トランプ政権の初期の対応が国民多数の賛同を得たことなど、無視なのである。

ちなみに日本でも主要な新聞やテレビはアメリカ側のこの反トランプ・メディアからの発信に依存しての報道が多い。

日本側のアメリカ通とされる人たちの間にも同様な傾向が目立つ。

その日本側のメディアや識者から発信される「トランプ報告」からは大統領が肝心のアメリカ国民の大多数からも嫌われ、拒まれているというイメージが生まれてくるといえよう。少なくともトランプ大統領がこの3月と5月には就任以来の最高支持率を記録したなどという現実は伝わってこないだろう。

なにしろ反トランプのメディアからは「アメリカ国民がいま多数、コロナウイルスで死ぬのはトランプの誤算のため」というような評論が堂々と発信されるのだ。

私も4月前後のトランプ大統領の記者会見は連日、細かく視聴した。その場での反トランプのメディアの記者たちによる大統領攻撃には呆れはてた。

質疑応答でも記者の発言は質問ではなく「あなたのウイルス対策はいま失敗しているが」というような自分の意見を大声で述べることから始まるのだ。

大統領が答えようとすると、途中でさえぎって「それはまちがっている!」と自説をぶつける。しかも何人もがタッグチームのように組んで、いやがらせとしか思えない粗雑な言辞を吐くのである。

その結果、ワシントン・ポストやCNNは「大統領はコロナ対策本部顧問のファウチ医師を解任する」などという誤報を発信した。会見の場で大統領と同医師の両方からすぐに否定される明白な誤報だった。

ただしトランプ大統領も「それはフェイクニュースだ」とか「そんな荒々しい声を出す必要があるのか」と反発する。だがトランプ叩きのみというおなじみの記者にもきちんと発言の機会を与えており、マナーという点では大統領が確実に上だった。

そのかわりに日本ではトランプ大統領が「政権内部の専門家に抗議された」「一般人は消毒液を飲めばよいと暴言した」「統治能力がない」というような「失敗」「無能」のイメージを拡大する報道がほとんどだった。

その4につづく。その1その2。全5回)

*この記事は一般財団法人「交詢社」発行の「交詢雑誌」令和二年九月特集号に「アメリカ大統領選とメディア」という題で掲載された古森義久氏の寄稿論文の転載です。

トップ写真:ペンス副大統領を連れてメディアの前に姿を見せるトランプ大統領(2020年8月12日 ホワイトハウス) 出典:The White House




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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