.国際  投稿日:2018/8/18

アメリカ新聞界の重大危機

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古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視 」

【まとめ】

ボストン・グローブ「ジャーナリストは敵ではない」との社説掲載、多くの新聞が同調。

・トランプ氏の「メディアは国民の敵」との非難に対抗したもの。

・保守系新聞の中にはメディア側の政治偏向にも原因があるとの主張も。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て見ることができません。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=41601でお読み下さい。】

 

アメリカのリベラル系の最古参新聞が8月15日の社説で全米の新聞が連帯して、いまのニュースメディア全体への危機に対応しようと訴えた。トランプ大統領の「メディアはアメリカ国民の敵」とか「フェイクニュースだらけ」という非難が全米に広まり、メディアへの不信が深刻なまでに広まったという懸念から、各新聞が一体になって同じような社説で反撃しようという呼びかけだった。

▲写真 メディア報道を批判するトランプ氏のtweet、2017年8月16日 出典:Twitter @realDonaldTrump

翌16日、全米で大小300以上の新聞がこの呼びかけに応じて、トランプ批判や報道の自由擁護の社説を載せた。しかし大手新聞数紙はこの団体行動には応じず、少数の保守系の新聞からは即座に「新聞の側の反省も欠かせない」という反論が出て、アメリカのメディアの分裂や危機を改めて印象づけた。

アメリカ北東部ボストンを拠点とする日刊新聞のボストン・グローブは同15日、「ジャーナリストは敵ではない」と題する長文の社説を掲載した。同紙はアメリカの新聞界でも最も古い伝統のある日刊紙で発行部数は約24万部、政治的には民主党傾斜のリベラルとされる。

同紙の論説副主幹マージョリー・プリチャード氏は同社説でトランプ大統領のメディア非難によりいまのアメリカには新聞のあり方や報道の自由に深刻な危機が起きたとして、全米のすべての新聞が「保守も、リベラルも、大新聞も、小新聞も」連帯して、社説で一致して、この「基本的な脅威」に対応することを提案していた。

▲写真 ボストン・グローブ論説副主幹マージョリー・プリチャード(Marjorie Pritchard)氏 出典:facebook

同社説の内容で注目される点のひとつはトランプ大統領の主要メディア敵視により一般アメリカ国民のメディア不信が異様なほど高くなったという指摘だった。同社説はその説明として、国際市場調査会社のイプソスがこの8月に入ってアメリカ国内で実施した一連の世論調査結果を紹介していた。その要点は以下のようだった。

・「ニュースメディアはアメリカ国民の敵だと思うか」という質問に対して、「はい」という答えが全米では29%、共和党支持層では48%、民主党支持層は12%、無党派層が26%だった。「いいえ」は全米で48、共和党層28、民主党層74、無党派層50だった。

・「大統領は有害な活動をしているメディアを閉鎖する権限を有すべきか」という問いには、「はい」が全米一般で26%、共和党層で43%、民主党層12%、「いいえ」が全米で53、共和党層36、民主党層74だった。

・「トランプ大統領は(反トランプの)主要メディアのCNNワシントン・ポストニューヨーク・タイムズを閉鎖すべきか」という問いには「はい」が全米一般で13%、共和党層で23%、民主党層で9%、無党派層で10%という結果だった。「いいえ」は全米66、共和党層49、民主党層86、無党派層71だった。

▲写真 世論調査で支持率が50%になったことをTweetするトランプ大統領 出典:twitter@realDonaldTrump

ボストン・グローブの社説はアメリカ国民のこうした意見はトランプ大統領のリベラル・メディア攻撃への同調と、とくに同紙自体を含めて主要新聞への不信の高まりを意味するとして、メディアの危険、さらには報道の自由の危機を訴えていた。そのうえで同社説は全米の各新聞が政治的な傾向をこの際、無視して、メディア全体の危機への対処として、報道の自由や言論の自由を改めて主張する社説を連帯して掲載していくことを呼びかけていた。

8月16日、この呼びかけに応じて全米の多数の新聞がそういう趣旨の社説を掲載した。CNNの報道によると、その数は350紙ほどになるという。しかし大手のワシントン・ポストウォールストリート・ジャーナルロサンゼルス・タイムズなどは同調せず、そういう趣旨の社説は同日は載せなかった。ワシントン・ポストのフレッド・ハイアット論説主幹は「この種の団体行動には加わらない」と述べた。

▲写真 ワシントン・ポスト フレッド・ハイアット Fred Hiatt 論説主幹 出典:Washington Post

一方、首都ワシントンで発行部数7万部ほどの保守系日刊新聞のワシントン・タイムズは8月16日の社説でこのボストン・グローブの主張への反論を述べた。「塹壕のなかの連帯」という見出しの同社説には「新聞はアメリカ国民の敵ではないが、自分自身の罪をも認めるべきだ」という脇見出しがついていた。

ワシントン・タイムズの社説の骨子は以下のようだった。

・トランプ大統領はメディアを誇張した表現で「アメリカ国民の敵」と呼び、新聞報道を「フェイクニュース」と断じる。確かに一部の報道にはフェイクもあるが、大多数はそうではない。だたしこの非難は新聞人の感情をひどく傷つける。

・大統領はいつも批判や非難の対象となる。だがメディア側もときには批判や非難を受け入れるべきだ。メディアは政治的動機により報道や評論によって、選挙で選ばれた大統領を失墜させることは本来の任務ではない。

・最近のギャッロップ社の世論調査では一般アメリカ人の62%が主要メディアから得る政治情報は偏向していると思うと答えたように、いまのメディア不信、新聞不信は顕著である。その原因はメディア側にあることも明白だといえる。

つまり最近のアメリカ国民のメディア不信はトランプ大統領の非難だけが原因ではなく、そもそものメディア側の政治偏向にも大いに原因があるのだとする主張だった。

トップ画像:イメージ 出典 Pexels

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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「危うし!日本の命運」「中・韓『反日ロビー』の実像」「トランプは中国の膨張を許さない!」など多数。

古森義久

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