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.国際  投稿日:2018/3/19

トランプ大統領の韓国への本音


森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視 」

 

【まとめ】

・トランプ氏の「対米赤字解消なければ在韓米軍撤退」示唆は警告。

・衝撃受けた韓国。日本など同盟国にも影響の可能性。

・過去にも不満表明。貿易と防衛を連結させた批判は韓国不信の表れ。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=39017でお読み下さい。】

 

 トランプ大統領の一言が米韓関係を揺さぶった。アメリカの韓国に対する貿易赤字が解消されないならば、在韓米軍の撤退をも考える、という意味のコメントが韓国側に衝撃波を投げたのだ。

 

とくに北朝鮮の核とミサイルの脅威が影を広げるこの時期、歴史的な米朝首脳会談も実現しそうな状況下では、韓国にとっては同盟国のアメリカとのきずな堅持は不可欠となっている。そんな時期にまで韓国への批判めいた発言をするトランプ大統領の胸には文在寅(ムン・ジェイン)大統領への不信という本音がちらついているようだ。

 

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写真)ミズーリ州 ボーイング社で行われたラウンドテーブル(2018年3月14日)
出典)トランプ大統領 公式Twitter

 

問題のトランプ大統領発言は3月14日、ミズーリ州での政治資金集めの支持者たちとの集会で起きた。本来はトランプ氏を応援する人たちだけの内輪の集会での発言だった。だがその録音がワシントン・ポストなどメディアに流れて、その内容が広まった。以下のような発言だったという。

 

「私たちは韓国に対して非常に多額な貿易赤字を抱えている。だが私たちは韓国を防衛している。アメリカは韓国との貿易で資金を失い。同時に軍事でも資金を失っているのだ。私たちはいま南北朝鮮の境界線の近くに3万2千人の米軍将兵を配備している。これからどうなるか、様子をみよう」

 

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写真)米軍ガリソン・ヨンサン、韓国軍USAGヨンサン、米軍のチョン・ギョンド総理補佐官を歓迎する式典
出典)United States Force KoreaUnited States Forces KoreaWe Go Together

 

問題のトランプ発言は上記がすべてだった。この文言を普通に解釈すれば、アメリカとしては対韓関係で貿易と軍事を連結させるぞ、という意味にもとれる。あるいはアメリカは韓国を守っているのだから、韓国は貿易面で譲歩せよ、という要求の示唆ともとれる。

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写真)文在寅大統領とトランプ大統領 (2017年10月2日)
出典)The White House

 

 この発言の翌日にはワシントンで米韓両国政府代表の米韓貿易自由協定の見直し協議が開かれる予定だった。だからそのタイミングに合わせてトランプ大統領もこんな発言をした、ということだろう。

 

 しかしこの発言にはきわめて深い警告も含まれていた。しかも日本にも影響を及ぼしかねないトランプ大統領は選挙期間中、韓国や日本、さらには欧州のNATO(北大西洋条約機構)加盟の同盟国に対して、いずれも防衛負担が十分ではないとして、その非難を貿易面での同盟国側の対米貿易黒字にからめて、不公正だと不満を述べていたのだ。日韓両国など同盟国側が貿易面でアメリカからの収奪を止めなければ、防衛の誓約も反故にしかねないという過激な主張を示唆していたのだ。

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写真)横田基地で演説するトランプ氏(2017年11月5日)
出典)The White House

 

 とくにいまの米韓両国の関係は重要である。北朝鮮の核とミサイルの脅威を抑止するために米韓両国が最も緊密に団結しなければならない時期なのだ。だからこのトランプ発言に対してはワシントンの韓国大使館から即刻、抗議の意をこめた問い合わせが国務省や国防総省にぶつけられた。(参考by編集部:ワシントンポスト)ワシントン駐在の韓国メディアの記者たちも一斉に「アメリカの真意」を問いただした。

 

 アメリカ側の国務、国防両省の報道官はトランプ大統領は決して在韓米軍の撤退をほのめかしたわけではなく、アメリカ側の韓国防衛の誓約は揺らいでいないという言明をおおあわてでする羽目となった。

 

 だがトランプ大統領の韓国批判はこれが初めてではない。2017年9月にも文在寅大統領の北朝鮮へのソフトな姿勢を指して「宥和の危険」と評したのだ。その背景には文氏のこれまでの政治軌跡が北朝鮮に対し過度の接近や譲歩をする危険を示しているという不信があったといえる。

 

Twitter

 

公式には米韓両国の団結が円滑に進むとされるこの時期でもなおトランプ大統領が貿易と防衛を連結させる韓国批判をするのは、その種の不信の表れだと断じるアメリカ側の識者も少なくない。

 

写真)韓国での首脳会談(2017年11月7日)
出典)Republic of Korea


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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