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.国際  投稿日:2019/12/26

中韓、北非核化で安倍首相引き寄せ


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・中韓両国首脳は北朝鮮問題解決に「対話」強調。安倍首相反論せず。

・中国は、北朝鮮への経済制裁を継続する米を批判。

・中韓の強い姿勢に、安倍首相も「対話路線」へ同意した印象残した。

 

今回の日中韓首脳会談では北朝鮮の非核化に関して北への融和的な姿勢をとる中韓両国が安倍晋三首相をアメリカの主張から引き離すことに成功したといえる。中韓両国首脳は北朝鮮との「対話」だけを強調し、アメリカのトランプ政権の北への「最大圧力」を否定する結果となったのに対して、安倍首相はあえて反論しなかったからである。

中国四川州の成都で12月24日に開かれた中国、日本、韓国の3国首脳会談では北朝鮮の核兵器開発を防ぐ「非核化問題」も主要議題となった。会談後の共同発表では中国の李克強首相は「対話と交渉が朝鮮半島の問題を解決する唯一の方法だという点で(中日韓3首脳の意見が)一致した」と述べた。

韓国の文在寅大統領も「朝鮮半島非核化へ3国が緊密な協力を図る」と語った。一方、安倍首相は「完全な非核化への米朝プロセスを後押しする立場を確認した」と述べたが、あえて李首相の「対話だけ」の強調への不同意は表明しなかった

ところが李首相の言明は北朝鮮の非核化に関して、最近、軍事力誇示への復帰を示唆する北朝鮮への警告のように響きながらも、その主体はアメリカに向けられていることが明白だった。トランプ政権は北朝鮮への経済制裁の継続という「最大圧力」をかけ続け、さらにその背後に軍事手段のオプションを保っている。対話や交渉だけという方法には明確に反対しているわけだ。

▲画像 文在寅大統領・李克強国務院総理・安倍首相 出典: 首相官邸HP

中国はこのトランプ政権の政策に反対を表明し、もっぱら「対話だけ」の解決法を主張してきた。同時に中国はアメリカや国連の対北朝鮮の経済制裁の解除や緩和を一貫して求めてきた。だから李首相の言明も実態としてはトランプ政権の「圧力」の手法への反対の繰り返しだったのだ。

安倍首相が国連決議に言及したことは北朝鮮の核開発や長距離ミサイル実験への国連の反対や制裁を意味し、さらに「米朝プロセス」への言及とともに、遠回しのアメリカの政策への賛意とも受け取れた。

だが李首相の「対話と交渉だけ」という強調の後では安倍首相自身も「対話路線」への同意を示した印象となってしまった。安倍首相は北朝鮮への「圧力」とか「制裁」という言葉は今回は使っていなかったから、なおさらその印象を強くなる。

まして韓国の文大統領は一貫して北朝鮮への融和路線をとってきた。今回の首脳会談でも従来の政策を曖昧な表現で繰り返しただけだった。その表現からはトランプ政権の「最大圧力」路線への賛同はツユほどもうかがわれなかった。

▲画像 スピーチをする安倍首相 出典: 首相官邸HP

こうなると今回の日中韓3国首脳会談は北朝鮮の非核化に関してアメリカ政府の政策への反対を打ち出した、と総括しても不正確ではないことになる。現に中国の官営メディアはこうした総括の報道を流している。その結果、実態としてはトランプ政権の北朝鮮に対する経済制裁の完全継続による最大圧力政策を支持している安倍首相までが中韓両首脳の対北融和路線に同意してしまい、アメリカからはその点で離反した、という印象がぬぐえない結果となった。

中国や韓国としてはまさにその点にこそ、今回の3国首脳会談の狙いがあったともいえよう。この首脳会談は安倍首相にとってはどうやらマイナスの結果が多いようともみえるのである。

 

トップ写真:文在寅大統領・李克強国務院総理・安倍首相 出典: 首相官邸HP


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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