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.国際  投稿日:2018/4/25

蔓延するトランプ誤認症候群


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視 」

【まとめ】

トランプ氏について日本で報じられる内容がアメリカの現実とあまりに異なる。

トランプ氏の支持率は50%、オバマ前大統領の同時期を上回る

・トランプ大統領の政策は中間選挙のためという報道は不正確かつ皮相。

 

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トランプ誤認の症候群とでも呼ぼうか。日本でのトランプ論の錯誤である。アメリカ大統領のドナルド・トランプ氏について日本で論じられ、報じられる内容がアメリカの現実とあまりに異なるのだ。

アメリカの第45代大統領にドナルド・トランプ氏が就任して15ヵ月が過ぎた。この間、私はワシントンと東京を往来しながら、トランプ・ウォッチを続けてきた。その結果はトランプ大統領のあり方についてアメリカでの現実と日本での認識との巨大なギャップに対する当惑だった。

日本のいわゆる識者や主要メディアの予測に従えば、トランプ氏はもうホワイトハウスにはいないはずだ。

「最低の支持率だから辞任する」

「ロシア疑惑で弾劾される」

「側近人事の混乱で崩壊する」などなど――

日本側ではトランプ大統領が「倒れる」とか「終わる」という予測が何度、断言されたことか。「トランプ大統領の終わりの始まり」というしゃれた表現も一部の専門家と称される人たちの間、頻繁に使われた。

だがトランプ大統領は健在である。内外の批判にもめげず、活力いっぱいに動いている。つい最近の日米首脳会談でもトランプ大統領の言動は元気に満ちていた。安倍晋三首相に対して、きたるべき米朝首脳会談では日本人拉致事件の解決を求める方針を明言してみせたこともそのほんの一例だった。

反トランプのニューヨーク・タイムズなどが解任されたジェームズ・コミーFBI(連邦捜査局)長官の暴露本をプレイアップしても、トランプ大統領は動じない。元愛人らしき女性の恨みを詳しく報道しても、大統領はびくともしない。ロシア疑惑は「でっちあげ」だと一蹴する。

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▲写真 ジェームズ・コミー氏 出典 Federal Bureau of Investigation

大統領選挙戦中に最も正確な世論調査結果を出していたラスムセン社はこの4月下旬にはトランプ支持率50%という数字を発表した。オバマ前大統領の同時期を上回る支持率だった。だが日本ではそんな高い数字はまず報じられない。

ワシントン・ポストのホワイトハウス担当マイケル・シェアラー記者は最近、「トランプ大統領はいまこそ最も自信を深め、本来、自分の当選を招いた公約の実施に一段と集中してきた」と報じた。一方、日本側の主要メディアでは「トランプ大統領は苦境に陥った」という基調である。アメリカの現実とは明らかに異なるのだ。

日本側での誤認はトランプ氏の支持層の動きに注意を向けず、もっぱら反トランプのメディアや識者の主張だけをみることから起きるようだ。トランプ大統領の人格や政策を非難するのは自由である。だがその大統領が明日にでも倒れるとしてきた断定はあまりに無責任だといえよう。辞任とか弾劾、崩壊という日本側での予測はことごとく外れてきたのだ。この傾向はトランプ誤認症候群とでも呼べるだろう。

そんな日本のトランプ誤認症候群の最近の顕著な症例は大統領の政策をすべて「中間選挙のため」と断じる傾向である。中国製品への高関税日本への貿易不均衡是正も、今年11月の連邦議会選挙で共和党議員を勝たせるための人気取り策にすぎないというのだ。

この「解説」にはトランプ大統領の政策はしょせん場当たりで確固たる基盤がない、という示唆がある。トランプ大統領が本来、考えていなかった政策や主張を中間選挙のために突然、持ち出してきたとする暗示さえある。

ところが現実には中国の貿易不公正慣行や日本の対米貿易黒字への非難はトランプ氏の3年前の選挙戦冒頭からの主要公約なのである。しかも保護貿易主義的な措置は議会の共和党主流派からは批判される。対中高関税は中国の報復で被害を受けるアメリカ農業界からも非難される。いずれも中間選挙の票集めに直結するという因果関係はないのである。

そもそもアメリカ大統領にとって議会の中間選挙は致命的な重要性を持たない。議会の選挙結果で政権が変わる日本とは構造が違う。大統領に致命的なのはあくまで自分自身の大統領選挙である。

もちろんどの大統領にとっても中間選挙が無意味なはずはない。だが中間選挙の結果がたとえ現職大統領を支える与党の大敗であっても、大統領の地位が崩れるわけではない。せいぜい議会運営が難しくなるだけだ。

しかも歴代大統領の多くが与党の大敗という結果を受け入れてきた。その大敗が大統領自身の選挙での敗北を意味するわけでもないのである。近年ではビル・クリントン、バラク・オバマ両大統領とも任期最初の中間選挙で与党の大敗に直面しながら大統領再選をみごとに果たした。

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▲写真 ビル・クリントン前大統領 出典 The White House

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▲写真 バラク・オバマ前大統領 出典 Official White House Photo by Pete Souza

だからトランプ大統領の政策はみな中間選挙のためだという日本側の診断は不正確かつ皮相なのである。

トップ画像:トランプ大統領就とペンス副大統領 2017年8月22日 出典 The White HouseOfficial White House Photo by Andrea Hanks)


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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