北朝鮮、核兵器開発の重要性再認識
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー2018#16
2018年4月16-23日
【まとめ】
・トランプ氏は対シリア攻撃を命令した。
・イランを攻撃しなければ、内戦終結に向けた進展はない。
・北朝鮮にはソウルを狙う報復能力があるので核施設の「限定攻撃」は難しい。
【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=39512でお読みください。】
4月13日夜、トランプ氏は対シリア攻撃を命令した。9日には「今後24~48時間以内に決断」と述べていたので、意地悪くいえば2日遅れだ。そもそも、米国には攻撃以外の選択肢はなかった。最も簡単な方法は昨年4月と同じ限定攻撃だろうが、どうやらトランプ氏自身はより大規模な攻撃を考えていたらしい。
.@POTUS: The purpose of of our actions tonight is to establish a strong deterrent against the production, spread, and use of chemical weapons. Establishing this deterrent is a vital national security interest of the United States. #Syria pic.twitter.com/elPKOvCPSr
— Department of State (@StateDept) April 14, 2018
△トランプ大統領がシリアに精密攻撃を発表するよう指示している様子(米国国務省)
だが、ロシア軍攻撃などは問題外。米露両国ともシリアのために全面戦争を戦う気などないだろう。最大の問題はアサド政権を支援するもう一つの大国、イランである。イランを攻撃しなければ、内戦終結に向けた進展はない。しかし、シリア国内でイラン軍とロシア軍は事実上同居中だから、イラン軍事拠点だけを攻撃することは難しい。
しかも、大規模攻撃は法的に説明困難だ。トランプ政権内でも様々な議論があったようだが、限定攻撃だけで内戦が解決するはずはない。「イスラム国」が掃討されても、ロシアとイランが支援するシリア、米国と一部アラブ諸国が支援する反政府勢力、最も戦闘能力の高いシリア系クルド勢力を攻撃するトルコなどが蠢いているからだ。
もう1点。対シリア化学兵器施設限定軍事攻撃でシリアの報復攻撃はなかったが、北朝鮮では核施設に対する「限定攻撃」の実施自体が難しい。北朝鮮にはソウルを狙う数千基の長距離自走砲・多連装ロケット砲による報復能力があるからだ。今回の米国の対シリア攻撃で北朝鮮は核兵器開発の重要性を再確認しただろう。
これでは、6月までに開かれる米朝首脳会談が朝鮮半島問題の解決に繋がる可能性は一層低下するのではないか。日本にとっては、下手な合意で会談が成功しては困るし、逆に会談が決裂して戦争になっても困る。今回のシリアを巡る動きを見ていると、トランプ政権が北朝鮮についてあまり考えていないのではないかと懸念する。
詳しくは水曜日の産経新聞「正論」欄をお読み頂きたい。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真)シリア攻撃を発表する米トランプ大統領
出典)The White House photo by Joyce N. Boghosian
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。