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.政治  投稿日:2018/5/3

新イージス艦名「よしの」なら中国への配慮必要


文谷数重(軍事専門誌ライター)

【まとめ】

新イージス艦は夏頃に進水・命名される予定。

新イージス艦名に「よしの」採用なら中国への配慮が必要。

最新主力艦名「いずも」「かが」が共に中国侵略主力と目された軍艦名の踏襲だから。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapanIn-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=39767でお読み下さい。】

 

新しいイージス艦の艦名はどうなるのだろうか?新型艦の進水・命名は近い。2隻建造中のうち、建造が進んだ27DDG(平成27年度予算によるミサイル駆逐艦)はおそらく夏頃に進水・命名される。

その名前は山の名前から付けられる。イージス艦建造にあわせて改正された基準ではそうなっている。命名は順番に「こんごう」「きりしま」「みょうこう」「ちょうかい」「あたご」「あしがら」となっている。

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▲写真 護衛艦「ちょうかい」型 出典 Denver Applehans, U.S. Navy

艦名の推測は容易ではない。旧日本海軍および海自で採用された艦名が採用される可能性が高いが、候補が多すぎるため絞り切れないからだ。誰がどうみても「かが」一択であった「いずも」2番艦とは異なる。(*1)

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▲写真 護衛艦「かが」型 出典 海上自衛隊ホームページ

しかし、強いて2隻分を選ぶと次のとおりとなる。本命は「よしの」「あかぎ」。対抗はひえい」「はるな」。穴は「ふるたか」「きぬがさ」だ。

ただし「よしの」採用では中国への配慮が必要となる。最新の主力艦名「いずも」「かが」はともに中国侵略の主力と目された軍艦名の踏襲である。それに日清戦争での殊勲艦名が続くからだ。ちなみに日清戦争は日本帝国主義の萌芽と目されている。

27DDGを「よしの」と名付けるのは難しい。中国は「いずも」「かが」に加えて「よしの」の3連荘に日本の悪意あるいは敵意を疑うからだ。その意味では間に「あかぎ」を挟むべきかもしれない。

 

■ 候補は11隻分

日本の艦艇名はどう付けられるのだろうか?簡単に言えば殊勲艦名の踏襲である。旧日本海軍で戦果を挙げた。あるいは勇敢に戦った有名な艦艇名が使われる。

一応の命名基準はある。空母は旧国名イージス艦は山護衛艦は気象現象潜水艦はファンタジー動物とされる。ただし、これは殊勲艦名の踏襲を前提としている。基準に合致していても無実績の名前はほぼ入らない。新しい艦名はないとみてよい。つまり、新型艦名の候補は極端に多くはない。

イージス艦向けでは前例艦名は35隻分しかない。軍艦で使われた山岳艦名は34隻、それに護衛艦としての新艦名「しらね」を足すとそうなる。

実績がある山岳艦名は次の35隻分である。

磐城 富士 (三笠) 浅間 吾妻

高千穂 畝傍 吉野 新高 春日

筑波 生駒 鞍馬 (金剛) 比叡

榛名 (霧島) 赤城 天城 葛城

笠置 阿蘇 古鷹 青葉 衣笠 (妙高)

那智 (足柄) 羽黒 高雄 (愛宕)

(鳥海) 摩耶 伊吹 しらね

( )内は海自現役艦船のため使えない

その上で使える艦名は20隻分だ。ここでは現用イージス艦で使われている艦名6隻分と不運から忌避される「畝傍」、日本領域外の地名となった「新高」、未成、戦績なしで沈没、処分された「天城」ほかを抜くとそうなる。

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▲写真 1886年10月ル・アーヴル港を出港する日本巡洋艦「畝傍(うねび)」 出典 パブリックドメイン

そのうち特に活躍した有名艦は11隻分である。「吉野」「赤城」「比叡」「榛名」と条約型巡洋艦中の7隻分を足したものだ。これが候補となるだろう。

防護巡洋艦:吉野

旧巡洋戦艦:赤城   比叡   榛名

条約型巡洋艦:古鷹 青葉   衣笠   那智   羽黒   高雄   摩耶

「赤城」は建造中に空母改装、「比叡」「榛名」は戦艦に種目替え

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▲写真 1942年4月 インド洋作戦中の「赤城」の飛行甲板 出典 パブリックドメイン

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▲写真 1945年7月28日 江田島小用海岸で爆撃を受ける「榛名」 出典 Denver Applehans, U.S. Navy

 

■ 「あかぎ」に釣り合うのは「よしの」しかない

そのうち新イージス艦名での本命は「あかぎ」「よしの」となる。まずは11隻中では最大の功績を持つためだ。「赤城」は真珠湾攻撃での旗艦であり主力である。また「吉野」は日清戦争で帰趨を決めた黄海海戦での殊勲艦である。

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▲写真 1941年12月6日 真珠湾攻撃に向う南雲機動部隊(左より赤城・比叡・霧島) 出典 パブリックドメイン

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▲写真 1892年「吉野」 日本海軍の巡洋艦(二等巡洋艦)、吉野型防護巡洋艦の1番艦 出典 パブリックドメイン

特に海自は「あかぎ」を使いたい。太平洋戦争での日本軍艦5隻を挙げれば必ず「赤城」は含まれる。そして、それが使えるイージス艦や相当する高級艦の建造はしばらくはない。現実的にはここ30年で最後の機会である。「いま名付けなければならない」と考える。

そして「あかぎ」と釣り合いが取れる軍艦名は「よしの」しかない。「あまぎ」は験が良くない。「天城」は「赤城」とペアとなる艦名だが不運艦名である。二代目は建造中に関東大震災で被災処分、三代目は戦争末期に完成したあと特に海戦に参加せず内海で沈んだ。これは海自部外にも認識している。

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▲写真 1946年8月 空襲により横転した状態の「天城」(アメリカ海軍により撮影されたカラー写真) 出典 U.S. Navy investigation board

また「あかぎ」と「あまぎ」では音も似すぎている。「しらね」と「しらせ」も似ていたが護衛艦と南極観測船と艦種は異なっていた。それでも間違いは多かった。その点で同型艦に「あかぎ」「あまぎ」は向かない。

その点でも「よしの」は都合がよい。活躍は述べたとおりである。黄海海戦での実質的な主役として武勲は肩を並べる。そしてペアとなる艦名がない点でも組み合わせでの都合もよい。

 

■ 対抗は「ひえい」と「はるな」

あるいは「ひえい」と「はるな」だ。「あかぎ」「よしの」の殊勲には及ばないものの太平洋戦争での活躍艦名の継承となる。

「比叡」は格別の地位を持つ。米艦隊との真剣勝負、水上砲戦で沈んだ軍艦だからだ。その点で他の戦艦や巡洋艦とは異なる。これら軍艦の本来の役割は水上戦だ。だが本格水上戦で四つで組んで戦い沈んだのは「比叡」と「霧島」(イージス艦で採用)しかない。

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▲写真 1933年(昭和8年)大日本帝国海軍の巡洋戦艦「比叡」 出典 パブリックドメイン

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▲写真 1942年3月1日 艦爆の攻撃で大破した駆逐艦エドサル、すでに艦尾より沈みだしている 「比叡」は「霧島」と共に大破したエドサルにとどめをさしている 出典 パブリックドメイン

なお、戦没そのものは不吉不祥とはならない。戦って沈んだ点はむしろ評価要素となる。その点で「陸奥」や「信濃」とは異なる。

また「はるな」も活躍した艦名で記憶される。太平洋戦争で実際に活躍した戦艦は比叡を含む金剛級であり「榛名」はその一隻だからだ。そして「こんごう」と「きりしま」は既にイージス艦に使用されている。もし「ひえい」が再利用されれば残りの1隻となる「はるな」も復活する。

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▲写真 「こんごう」日本海軍が初の超弩級巡洋戦艦として発注した金剛型の1番艦 出典 パブリックドメイン

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▲写真 海上自衛隊の護衛艦「きりしま」 こんごう型護衛艦の2番艦 出典 PH1 (NAC) JAMES G. MCCARTER

 

■ 「ふるたか」「きぬがさ」には周辺対策の利益

最後に挙げるのは「ふるたか」と「きぬがさ」だ。これは太平洋戦争に参加した山岳の巡洋艦名である。今使われていない7隻のうちの2隻だ。

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▲写真 昭和16年11月「ふるたか」 大日本帝国海軍の古鷹型重巡洋艦1番艦 出典 パブリックドメイン

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▲写真 日本海軍の青葉型重巡洋艦2番艦「きぬがさ」 1927年(昭和2年)9月に竣工 出典 パブリックドメイン

功績としては他の山岳巡洋艦名と大差はない。第1次ソロモン海戦で頭一つ抜けている「鳥海」(イージス艦で採用)を除けば功績では極端な差はない。

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▲写真 昭和8年6月1日 日本海軍の重巡洋艦、 高雄型重巡洋艦の3番艦 出典 パブリックドメイン

その中から2隻分を選ぶなら功績以外での要素が影響するだろう。この点で「ふるたか」と「きぬがさ」は周辺対策効果で有利となる。艦名としての「古鷹」は旧海軍兵学校、今では海自の幹部候補生学校と1術校がある江田島の山名を採用したもの。また「衣笠」は横須賀の山名である。その採用は江田島市、呉市、横須賀市への配慮となる。

また、海自隊員にとっても特に縁を感じる艦名だ。両方とも教育課程等で登らされる山だからだ。古鷹山は幹部候補生学校・1術校の真裏にある。そのため保健行軍(実態は散歩)に組み込まれる。衣笠山も同様に横須賀教育隊の保健行軍の範囲である。

 

 「みかさ」は現役なので使えない

なお「みかさ」はない。最も有名な武勲艦ではあるが現用艦では採用されない。理由は現役だからだ。横須賀にある「三笠」は今でも防衛省の現役艦船である。国有財産台帳でも防衛省雑船「三笠」となっている。歴とした艦船である。(*2)

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▲写真 「みかさ」現存する世界最古の鋼鉄戦艦であり、日本遺産の構成文化財に認定されている 出典 横須賀集客促進実行委員会

 

*1 なお、前記事(「新護衛艦名「かが」は中国を刺激する」http://japan-indepth.jp/?p=21067)同様に本記事は公表情報のみで推測されている。防衛省未発表のインサイダー情報は用いていない。

*2 台帳は横須賀地方総監部施設課にある。2003年ころ筆者が勤務した際の財産名は「防衛庁雑船『三笠』」であり、台帳価格は60万円であった。なお海自は毎年1000万円以上の維持予算を三笠に投じていた。そのため毎回会計検査では現地確認をされたが、毎回とも「かの『三笠』」の説明で検査院は納得していた。

トップ画像:護衛艦「いずも」型 出典 海上自衛隊ホームページ


この記事を書いた人
文谷数重軍事専門誌ライター

1973年埼玉県生まれ 1997年3月早大卒、海自一般幹部候補生として入隊。施設幹部として総監部、施設庁、統幕、C4SC等で周辺対策、NBC防護等に従事。2012年3月早大大学院修了(修士)、同4月退職。 現役当時から同人活動として海事系の評論を行う隅田金属を主催。退職後、軍事専門誌でライターとして活動。特に記事は新中国で評価され、TV等でも取り上げられているが、筆者に直接発注がないのが残念。

文谷数重

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