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.国際  投稿日:2018/6/7

深まる文在寅・金正恩の「野合」


 朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

 

【まとめ】

・韓国文在寅大統領は5月26日「南北極秘首脳会談」を行った。

・この極秘会談は文政権の関与が疑われる。

・韓国保守層は「文・金両首脳」の「野合」に危機感。

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=40358でお読み下さい。】

 

韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が、親北朝鮮(従北朝鮮という人もいる)政治家だということは、韓国だけでなく日米でも認知度が広がっている。本人もそのことを隠そうともしていない。

 

それは韓国憲法と国家保安法を無視するだけでなく、「統帥権者」の空白まで作り出してまで行った5月26日の「南北極秘首脳会談」を見ても明らかだ。文大統領と金委員長との「野合」は、国民の目を避けた「秘密会談」を行うまで至っている。

 

板門店北朝鮮側エリアの「統一閣」で持たれたこの会談は、トランプ大統領による「米朝シンガポール会談中止の書簡」発表(5月24日)が直接の契機だった。韓日の多くの北朝鮮ウォッチャーは、「金正恩が慌てて会談を要求した」と見ているが、それは文在寅政権側の発表を鵜呑みにしたためと思われる。最近の韓国政府発表は真実を隠蔽したものが多いので注意する必要がある。

 

トランプ大統領のドタキャンで金正恩委員長も慌てたが、それよりも慌てたのは文在寅大統領の方であった。米朝会談が中止となれば、文政権が精魂込めて手にした「南北板門店宣言(4月27日)」が空洞化するだけでなく、それを「成果」として保守勢力の壊滅を狙う6月13日の「統一地方選と国会議員補欠・再選挙」に大打撃が及ぶからだ。

 

「米朝首脳会談」がなくなれば、政権基盤が揺らぎかねないと文在寅は金正恩に「SOS」を送り、急きょ金桂寛(キム・ゲグァン)北朝鮮第1外務次官の「謝罪談話」を発表させ、前後策を練るための「極秘会談」を持ちかけたと思われる。この「金・文秘密会談」の具体的内容は今もって詳細が発表されていない。

文中1

写真)金桂寛(キム・ゲグァン)北朝鮮第1外務次官(左)と王毅中華人民共和国国務委員兼外交部長 2013年6月21日 

出典)中華人民共和国在デンマーク大使館

 

「金・文秘密会談」への流れ

 

文在寅大統領が「金・文会談」を緊急に要請したのは、「非核化仲裁者・文在寅」の仮面が剥がれたことと関係している。その引き金は、5月16日に出された金桂寛(キム・ケグァン)北朝鮮第1外務次官の「一方的な核放棄を強要すれば首脳会談を再考するしかない」との「談話」だった。

 

この談話が出された後、トランプ米大統領はすぐさま文大統領に電話をかけ(5月20日)、「北朝鮮の言っていることと文大統領がこれまで米国側に伝えてきたことの間には大きなギャップがある。一体どうなっているのか」と問いただしたという。しかし文大統領からは満足のゆく回答を得られなかった。

 

これでトランプ大統領はこれまでの文在寅政権の「米朝仲裁」が「非核化問題で北朝鮮有利に運ぶための陰謀的仲裁」との心証を深めた。それは5月22日(現地時間)の米韓首脳会談でのトランプ大統領の対応に示された。

文中2

写真)韓国文在寅大統領と米トランプ大統領 2018年5月22日

出典)flickr : White House (Official White House Photo by Joyce N. Boghosian)

 

トランプ大統領は、首脳会談に入る前に異例とも言える記者会見を開き(34分間)文大統領を試した。そこで「2回目の中朝首脳会談後に金正恩は変化したと思うがあなたはどう思うか」との質問を文大統領にぶつけた。この質問に文大統領はまともに答えず頓珍漢な返答をし、北朝鮮の非核化約束が米国の求めるCVID(complete,verifiable,irreversible,dismantlementの略「完全で検証可能かつ不可逆的な非核)の意」)であるかどうかも曖昧にした。北朝鮮よりの「陰謀的仲裁」があからさまになった瞬間であった。

 

この会談時、トランプ大統領の表情には嘲弄・不快感・傲慢さがはっきりと見えた。文在寅大統領を記者たちの前で「ディス・イズ・ア・グッドマン(This is a good man)」と皮肉った。これは一国の大統領の面前で使う表現ではない。そして「6月12日に会談が開催されない可能性がかなり高い」との衝撃的発言が飛び出したのである。この記者会見後の単独会談は、通訳を伴っただけのわずか21分(通訳時間を除けば10分文大統領の発言はわずか2~3分といわれている)という異例の短かさで終えた。文大統領が「仲裁役」から外された瞬間だった。

 

文大統領は、「米朝首脳会談」がキャンセルになる危険を察知し、帰国途中の大統領専用機からすぐさま国家情報院要員を北朝鮮に送る指示を出し、金正恩との2回目の首脳会談準備に入るよう関係当局に命じた(青瓦台はこの報道を否定)といわれる。

 

トランプの「会談中止決意」を決定的にさせたのは、北朝鮮の崔善姫(チェ・ソニ)外務次官「談話」(5月24日)だった。崔善姫はこの談話でマイク・ペンス副大統領の「北朝鮮が非核化に応じなければリビアのように終わるかもしれない」との発言に噛みつき、ペンス副大統領を「政治的間抜け」などと罵倒し「米国が我々と会議室で会うか、核対核の最終決戦で対決するのかは、完全に米国の決断と振る舞いにかかっている」としたのだ。

文中3

写真)韓国を訪問した際のペンス副大統領(左)と文在寅大統領(右)2018年2月8日

出典)flickr : White House (Official White House Photo by Joyce N. Boghosian)

 

案の定トランプ大統領は24日朝(現地時間)「米朝シンガポール会談中止の書簡」を発表した。この時文在寅政権に事前通知はなかった。文大統領にとって一刻の猶予を許さない事態が発生したといえる。

文中4

写真)北朝鮮崔善姫(チェ・ソニ)外務次官 2017年10月

出典)Center for Energy and Security Studies

 

2回目の「金桂寛談話」も文政権関与の可能性

 

「トランプの米朝首脳会談中止書簡」発表後10時間という異例の速さ「米朝会談中止撤回」を呼びかける2回目の「金桂寛談話」(525日)が発表された。通常であれば、ある程度の時間を置き、もう一度駆け引きした上で、あたかも相手に恩恵を与えるかの如き立場で事態の収集を図るのだが、今回は全く違った。

 

その内容は「首脳の対面に努力してきたトランプ大統領を高く評価してきた」とトランプ大統領を持ち上げ「われわれは、いつでもいかなる方式でも対座して問題を解決していく用意があるということを米国側に再び明らかにする」との「謝罪」とも取れる「談話」だった。

 

 この談話の特徴としては、まず「異例の速さ」上げることができるが、それよりも際立つ特徴は「首脳の対面に努力してきたトランプ大統領を高く評価してきた」とトランプ大統領を褒め上げたところにある。

 

 筆者は過去数十年にわたり北朝鮮の「声明」や「談話」に数多く接してきたが、このような談話を見たのは初めてだ。これは金委員長が「米朝首脳会談」開催を切実に求めているとも受け取れるが、「談話内容」が韓国政府の「対トランプ話法」に似ていることから、むしろ文政権の関与が疑われる。この間、文在寅政権は一貫して、「北朝鮮が非核化の対話に出てきたのはトランプ大統領のお陰」「ノーベル平和賞はトランプ大統領が受けるべき」などとしてきた。韓国の「対米外交ライン」の介入は否定できない。

 

いま韓国保守層の間では、文大統領が国家情報院に指示を出し、北朝鮮の統一戦線部と協議させ、「南北秘密首脳会談」の準備をさせたとする認識が定着しつつある。6月6日の顕忠日(ヒョンチュンイル、戦没者追悼の記念日)にソウル光化門一体で開かれた文在寅退陣を求める「保守系デモ」がこれまでになく盛り上がり「青瓦台」にまでデモ行進したのも「文・金両首脳」の「野合」に危機感を感じた結果だと思われる。

トップ写真)北朝鮮金正恩委員長と韓国文在寅大統領 2018年4月27日

出典)韓国大統領府

 

 

 

 

 


この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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