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.国際  投稿日:2022/1/23

偵察総局元大佐キム・グッソン氏が語る北朝鮮 最終回 金正恩の対韓工作と対米戦略


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

・金正恩は、文在寅が北朝鮮の『主体革命』に賛同したと解釈しており、韓国に対する政治的隷属化がほぼ完成されたと考えている。

・北朝鮮は、非核化は絶対にしない。非核化交渉にのめり込めば限りなく北朝鮮に引き込まれる。

・だから米国は『非核化戦略』でなく『非核化しない時にどうするかの戦略』を作らなければならない。

 

1)北朝鮮政権の対韓国工作と韓国社会への浸透

韓国への工作員派遣について、キム・グッソン氏は「北朝鮮は2006年から特別なケース以外では韓国に工作員を派遣しなくなった。立法、行政、法曹、言論、教育、労組、市民団体などすべての分野に影響力を保持したとの意味だ。

北朝鮮の工作網はタコ足のように伸びている」とし、「必要があって工作員を派遣する時には捕まった時の量刑を正確に教え、軍事独裁政権時代とは異なり、死刑はないのだから転向するなと教育している」「対韓国工作は非常にやりやすくなり、現在は花畑の時代を迎えているが、北朝鮮工作員が最も入りやすいのが宗教界だ」と驚くべき実態を明らかにした。

また「呉克烈の息子呉セヨンが党作戦局にいた時、彼は韓国合同参謀本部と米軍平沢基地の極秘情報を入手して英雄称号を得た。現在北朝鮮は韓国の約70%〜80%の情報を入手している」と語り、「北朝鮮の韓国有力人士に対する包摂懐柔工作は想像を絶する。ハニートラップを始めあらゆる手を使う。北朝鮮に来て引っかからない人はあまりいなかった。韓国の『共に民主党』が朝鮮労働党方式で組織されていることがその証だ」と語った。

キム氏はさらに「北朝鮮支援の名分で北朝鮮に出入りする人々の中で、一部の人は忠誠を誓い労働党に入党した場合もある」とし「北朝鮮に来て『核は統一以後、民族の力なので、お願いですから非核化しないでと言った人もいる」と「民族どうし」の内実を暴露した。

そしてキム氏は「様々な経路を通じて韓国の国会議員と主要機関の長はもちろん数十万人の住民番号と連絡先、電子メールなどの個人情報を把握している」とした。「 こうした情報を利用して韓国の各種インターネットコミュニティに加入してサイバー工作を進めた」と語り、「北朝鮮には韓国の70年間の情報がすべてファイルされている」と韓国情報が北朝鮮に筒抜けになっている状況も明らかにした。

2)金正恩は文在寅をどう見ているか

キム氏は金正恩の文在寅に対する視点について、「北朝鮮では白頭山=金日成だ。金正恩は、文在寅を白頭山に誘い、そこで天池(白頭山の噴火口にできた池)の水を飲ませ、金正恩と手を握ってバンザイさせた。これで金正恩は、文在寅が北朝鮮の『主体革命』に賛同したと解釈している。韓国に対する政治的隷属化がほぼ完成されたと考えているのだ。文在寅が『主体革命』に服従したと解釈したからこそ、金正恩は、文在寅を『でしゃばりの仲介者』『蒸した牛の頭』などと罵倒した。また自分と同格と見なさなくなり、金与正に相手をさせている」と述べた。

文在寅が進めている「終戦宣言」については、「金正恩に黄金の杖を与えるためのものだ。『終戦宣言』が成立すれば、韓国は大混乱に陥り、北朝鮮の政治的属国となる。また中国の術中にはまる」との見解を示した。

3)北朝鮮政権の対韓国、対米観

北朝鮮は、韓国をバカにしており「米国は臆病」だと教育している。北朝鮮は、米国の軍事偵察船プエブロ号拿捕後に最先端機材の情報を乗務員から全て収集した。米国の思考方法も分析した。交渉で米国を欺き、いつも勝利できる基礎を築いたのだ。そうした分析に基づいて1994年からの「非核化交渉」を行い、30年近く米国を騙し続けた。北朝鮮が「非核化交渉」で得たものは莫大だ。

▲写真 1968年1月23日に北朝鮮海軍によって拿捕された、アメリカ海軍の情報収集船「プエブロ-GER2」(現在平壌に係留中)前で説明する北朝鮮のツアーガイド 出典:Photo by Alain Nogues/Corbis via Getty Images

4)米韓は「非核化しない時の戦略」を打ち立てるべきだ

北朝鮮の核ミサイルについては「核武装してこそ世界を動かせると考えている。70年間の血と汗の結晶が核ミサイルだ。非核化は絶対にしない。非核化交渉にのめり込めば限りなく北朝鮮に引き込まれる」とキム氏は語った。

そして「金正恩を除去する以外、非核化は実現しない。米国は『非核化戦略』ではなく、『非核化しない時にどうするかの戦略』を作らなければならない」と提言した。

(終わり。第1回第2回第3回

トップ写真:金正恩北朝鮮総書記夫妻と文在寅韓国大統領夫妻 (2018年9月20日) 出典:Photo by Pyeongyang Press Corps/Pool/Getty Images




この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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