.国際  投稿日:2018/6/17

米朝サミットで明らかになったトランプ大統領の「内通」

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岩田太郎(在米ジャーナリスト)

「岩田太郎のアメリカどんつき通信」

【まとめ】

米朝首脳会談専門家から厳しい批判。

・露・中・北朝鮮と「内通」しているのではとの疑いあり。

・「米国第一」のスローガンは敵国への利益供与を隠すアリバイ作りか。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=40465でお読みください。】

 

米国のドナルド・トランプ大統領(72)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(34)が6月12日にシンガポールで史上初の米朝首脳会談を行った。直後の米世論調査では、50%以上の回答者が大統領の仕事を評価する一方、専門家からは厳しい批判が出されている。

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▲写真 首脳会談に臨むトランプ米大統領と金正恩北朝鮮書記長 2018年6月12日 出典:facebook  White House

そのなかでトランプ大統領のイメージとして米メディアにおいて繰り返し浮かび上がるのが、ロシアや中国や北朝鮮などに表面的には厳しい態度を取りながらも、実は「内通」「裏切り」をしている国の最高指導者としてのイメージだ。

たとえばトランプ大統領が米朝首脳会談で、米軍と対峙する北朝鮮の努光鉄(ノ・グァンチョル)人民武力相に敬礼を行い、その動画が北朝鮮のプロパガンダ番組で同国に都合の良い宣伝に使われたことは、「内通」のイメージを増幅させた。

▲動画 北朝鮮努光鉄(ノ・グァンチョル)人民武力相に敬礼するトランプ米大統領

さらに、「絶叫おばさん」として知られる北朝鮮国営テレビの名物アナウンサー李春姫氏も満面の笑みで金・トランプ会談を絶賛し、トランプ大統領は金王朝に正統性を与える道具として使われている。このように、金正恩を「タフだ」「才能がある」と賛美するトランプ大統領は、独裁者に利益をもたらし、米国の価値観を損ねたとの批判も出ている。

加えて、会談から1週間も経ない6月17日に金委員長に電話をする予定で、日本など同盟国の指導者よりも親密な様子だ。トランプ大統領の一連の対北朝鮮融和策は、トランプ氏が米国と地政学的・イデオロギー的利益の面で相容れない北朝鮮と「内通」していると疑わせる結果を招いている。

 

■ 米世論はトランプ大統領を支持

米論壇では、リベラル・保守双方の論客が米朝サミットに関して、「一方的な金正恩の勝利に終わった」と受け止めている。北朝鮮主導で朝鮮半島を「完全非核化」させ、在韓米軍を撤退させることに、トランプ大統領がほぼ満額回答の理解を示したからだ。

特に、北朝鮮による非核化がただの「努力目標」であり、検証方法さえ決められなかったことについては、与党共和党と野党民主党の両方の連邦議員から強い非難の声が上がっている。

大統領は会談前に、「はずみによって(on the spur of the moment)、決まることがある」との意味深な言葉を述べていたが、本当にはずみによって重要な約束を行ってしまったように見える。

会談後の一連の批判を受けてトランプ政権は、大統領の任期が終わる2021年1月までに北朝鮮の非核化を達成したいとの「希望」を表明した。だが、あくまでもこの目標は「希望」であり、実質的には北朝鮮が核保有国であることを米国が承認することになるのではないかとの懸念も強い。

こうしたなか、トランプ大統領は金委員長の歓心を買うため、米韓合同軍事演習の中止を命令した。ジョージタウン大学の朝鮮半島問題専門家である韓国系米国人のビクター・チャ氏は、「こうした方針は、北朝鮮や中国が長らく欲してきたものだ。トランプ大統領は北朝鮮からの当てにならない口約束と引き換えに、米韓合同軍事演習の中止を差し出してしまった」と分析した。

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▲写真 米空軍B-1Bランサー爆撃機と米海兵隊F-35BライトニングIIによる米韓合同訓練の様子 2017年8月31日 韓国ピルスンレンジにて 出典:USNI News

このように政策立案者やシンクタンクの専門家などの間でトランプ大統領の「内通」に対する不安が高まる一方、一般米国民の多くはトランプ大統領の北朝鮮との取り決めを評価している。

ロイター/イプソスの世論調査によれば、有権者である1000人以上の回答者の51%が「トランプ大統領が朝鮮半島の緊張緩和のため起こした行動を評価する」と答えた。また、回答者の40%が、「トランプ大統領は金正恩朝鮮労働党委員長との首脳会談で最も評価されるべき役割を果たした」としている。

このエリートと民衆の意識の乖離は、トランプ氏の大統領当選の際にも見られた現象であり、それが今なお続いていることが示された形だ。何より、今年11月の中間選挙と2020年にトランプ氏が再選に挑むとみられる大統領選挙において、この民衆の支持が再び作用する可能性があることを示唆するものであり、興味深い。

翻って、トランプ大統領は「自分の北朝鮮との取引は米議会の承認を必要とする」との認識を示した。よく言えば、法の手続きに従うという意思表示で、悪く言えば、米国に不利益な部分の修正と北朝鮮へのさらなる要求を議会に丸投げして金正恩朝鮮労働党委員長に対する約束の責任逃れができる。

 

 中国とも「内通」か

一方、ブルームバーグ通信は、「米朝首脳会談で『勝ち組』となったのは中国だと広く考えられている」と伝えた。米シンクタンクの外交問題研究所エリザベス・エコノミー上席研究員がいみじくもまとめたように、「中国は自らの手を煩わせることなく、最も求めていたものを手に入れた」のである。

米韓合同軍事演習が中止され、北朝鮮の非核化の口約束と引き換えに在韓米軍が撤退すれば、習近平中国国家主席が追求して止まない西太平洋地域における中国の排他的かつ絶対的な支配、すなわち「中国夢」実現の決定的な一歩となる。

米『ニューヨーク・タイムズ』紙は、「東アジアにおける中国の究極的な目標は、同地域における支配を拡張し堅固にすることであり、トランプ大統領が推進する在韓米軍の撤退は、中国の長期的な目標に合致する」と分析した。ここでも、二大超大国の一つであり、米国の最大の仮想敵でもある中国を利するトランプ大統領というイメージが表れている。

事実、トランプ大統領は知的財産権の侵害を理由に、中国からの500億ドル(約5兆5000億円)規模の輸入品に25%の高関税を課す新たな制裁措置の発動を発表する一方、習主席に個人的に頼まれて、イランと北朝鮮への通信機器の販売を禁止する米国の制裁に違反したスマホ大手の中興通訊(ZTE)に対する制裁措置を超法規的に緩和するなど、実は中国の全般的な利益を擁護・増進しているフシがある。

2016年に大統領に当選したこと自体が、米国を弱体化させようとするロシアとの内通の結果であったと疑われるトランプ氏は、口先では中国や北朝鮮やロシアなどを攻撃する。だが、やっていることの総和は、米国や同盟国の犠牲の下にこれらの国々の利益を増やすことである。

こうした態度は、トランプ大統領の「米国第一」のスローガンが、実は敵国の中国や北朝鮮やロシアへの利益供与を隠すアリバイ作りではないかとさえ疑わせるものだ。トランプ氏は、実際は米史上初の「内通大統領」なのかも知れない。

トップ画像/首脳会談後合意文書に署名するトランプ大統領、金正恩書記長 2018年6月12日 出典:facebook  White House

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この記事を書いた人
岩田太郎在米ジャーナリスト

京都市出身の在米ジャーナリスト。米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の訓練を受ける。現在、米国の経済・司法・政治・社会を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』誌などの紙媒体に発表する一方、ウェブメディアにも進出中。研究者としての別の顔も持ち、ハワイの米イースト・ウェスト・センターで連邦奨学生として太平洋諸島研究学を学んだ後、オレゴン大学歴史学部博士課程修了。先住ハワイ人と日本人移民・二世の関係など、「何がネイティブなのか」を法律やメディアの切り口を使い、一次史料で読み解くプロジェクトに取り組んでいる。金融などあらゆる分野の翻訳も手掛ける。昭和38年生まれ。

岩田太郎

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