.国際  投稿日:2018/8/22

米外交安全保障チームの体たらく


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2018#34 2018年8月20-26日

 

 【まとめ】

ボルトン氏、金正恩委員長4月に1年以内の非核化に同意と発言。

新疆ウイグル自治区で急速に進む「漢化」に懸念。

・「東方経済フォーラム」でのハイレベル日朝接触の可能性遠のく。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て見ることができません。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=41654でお読みください。】

 

 今週も夏休みで世界の外交は開店休業かと思ったが、以下に述べる通り、案外そうでもない。特に、日本外交は頑張っている。16-24日には佐藤外務副大臣がコモロ、マダガスカル、モーリシャス及びセーシエルを、同じく16-25日には宮腰内閣総理大臣補佐官がブラジル、パラグアイ及びメキシコを訪問する。

 


写真)ラジャオナリマンピアニナ・マダガスカル大統領と佐藤正久外務副大臣
出典)佐藤正久Twitter

 

写真)宮腰光寛内閣総理大臣補佐官
出典)宮腰光寛Facebook

 

 更に、閣僚レベルでは、19-23日に小野寺防衛相がインドとスリランカを、21-26日には河野外務大臣が米国をそれぞれ訪問する。特に、防衛大臣のインド・スリランカ訪問は、「インド太平洋」構想を具体化する大事な出張だ。やはり、日本では夏休みはお盆で終わりなのか。みなさま、ご苦労様です。

 

 中東屋でもある筆者にとって今週最も気になったニュースは新疆ウイグル自治区の著名な女性学者が8カ月も行方不明になっているというNYTの記事だ。同地域は最近急速に「漢化」が進む中国の一部であると同時に、中央アジアであり、イスラム圏でもあるという意味で地政学的に極めて重要な場所だ。今週はこれについて英語コラムを書いた。ご関心の向きはご覧頂きたい。

 

 もう一つ関心を持ったニュースが最近のボルトンNSC担当大統領補佐官の発言だ。同補佐官は19日放送のテレビ番組で、金正恩委員長が4月の南北首脳会談で1年以内の非核化に同意していたと述べたそうだ。韓国の文在寅大統領から米側に伝えられたという。筋金入りの強硬派ボルトンはどこへ行ったのか。

 

 文大統領が金委員長に対し「1年以内の非核化実現」を呼びかけたのに対し、金委員長も「はい」と同意したという。だが、それがどうしたというのだ。米国はその発言内容を確認できたのか。文大統領が述べているだけで、何の「非核化」かすら明らかではない。ボルトンの毒気はもう抜けてしまったのか。

写真)ジョンボルトン氏
出典)flickr:Michael Vadon

 

 そもそも、最近の米国の外交安全保障チームの体たらくは目を覆うばかりだ。時系列的に見ても、2017年1月の大統領就任から同チームの人事は猫の目のように変わってきている。具体的にはこんな具合だ。筆者だったら、一週間と続かないだろう。トランプ氏の下で働いている皆さんには心から同情する。

 

1、2017年2月13日フリン国家安全保障(NSC)担当大統領補佐官の辞任とマクマスター補佐官の就任

2、同年8月のケリー大統領首席補佐官就任とバノン首席戦略官の辞任

 この時点では、首席補佐官、NSC担当補佐官、国防長官がすべて現役または元軍人となり、それまでトランプ政権の外交・安全保障政策に振り回されていた同盟国関係者から安堵の声が聞かれるようになった。ところが、そうは問屋が卸さないのがトランプ政権だ。

3、2018年4月2日コーン経済安全保障会議(NEC)委員長辞任とナバロ局長の台頭

4、同年3月13日ティラソン国務長官の辞任と4月26日のポンペイオ長官の就任

5、同年3月22日マクマスターNSC担当補佐官の辞任と4月9日ボルトン補佐官就任

 

 これにより、トランプ政権の外交安全保障チームの陣容は様変わりし、トランプ氏好みのボルトン、ポンペイオ氏など保守強硬派が主導権を握るようになった。しかし、誰も今の大統領に意見する度胸のある者はいない。これ以上、犠牲者を増やしても、トランプ氏のスタイルは変わらないと諦めているのだろうか。恐ろしい話である。

 

写真)金正恩朝鮮労働党委員長と会談したポンペオ氏(2018年3月31日)
出典)The White House

 

〇 欧州・ロシア

 

 西欧は今週も本格的夏休みで特記すべき事項はないが、唯一、先週プーチン大統領が訪独に先立ってオーストリアに立ち寄り、同国のクナイスル外相の結婚式に出席したという。同外相は連立政権に入る極右・自由党の推薦で民間から外相に登用された人物。EU分断を図るプーチン氏の行動には全く無駄がないようだ。

 

 中東・アフリカ

 

 トルコは米国人牧師の軟禁を続けているが、報道によれば、トルコが米国に対し、牧師釈放の見返りにトルコ国営ハルク銀行への捜査中止を求めてきたそうだ。米側は提案を拒否したらしいが、いかにもトランプ氏らしい動きだ。ハルク銀行といえば、元最高幹部が米国で対イラン制裁逃れの有罪判決を受けている。狐と狸の馬鹿し合いは当分続きそうだが、こんなことで欧州南部のNATO同盟は大丈夫なのだろうか。

 

 東アジア・大洋州

 

 23日に米中貿易戦争が更にエスカレートする。もう一つ、ロシアの大統領補佐官は9月にウラジオストクで開かれる「東方経済フォーラム」に金正恩委員長も文在寅大統領も来ないとの認識を示し、「別の機会を調整する」と述べたそうだ。これでウラジオでのハイレベル日朝接触もなくなったということか。されば、次の可能性は国連総会ということなのか。

 

〇 南北アメリカ

 

 トランプ氏と米国情報機関関係者との喧嘩が再燃している。先週は元CIA長官が、機密情報アクセス権限剥奪を受けて、テレビで「彼(トランプ氏)は権力に酔いしれていると思う」と強く批判。トランプ氏もツイッターでブレナン氏を再度攻撃している。両者の非難合戦は続くだろうが、子供じゃあるまいし。どっちもどっちではなかろうか。

 

〇 インド亜大陸

 

 先週パキスタンのカーン新首相は就任後初の演説で自身の政策構想「新パキスタン」を打ち出し、富裕層に適正な納税を求めるとともに、緊縮財政を通じた債務削減や貧困対策の実施などを表明したという。同新首相はクリケットの元スター選手で近年は反汚職運動の旗手として若者と中間層の間で人気が高いらしいが、人気だけでパキスタンの抱える問題を捌けるかは疑問だ。

写真)カーン首相
出典)Jawad Zakariya

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真)ジョンボルトンNSC担当大統領補佐官
出典)ジョンボルトンTwitter


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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