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.国際  投稿日:2018/8/31

米海軍士官学校の柔道部長退役


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視 」

【まとめ】

アメリカ海軍士官学校、教授兼柔道部部長の退役式に出席。

上官、同僚、部下たちが部長の長年の貢献を讃え、別れを惜しんだ。

・最後の挨拶で日本の柔道指導者を迎えての交流の意義を強調。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全部が掲載されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=41770でお読みください。】

 

首都ワシントン近郊のアナポリスにあるアメリカ海軍士官学校での同校教授兼柔道部長トム・テデッソ中佐の退役式に招かれて、出席した。8月24日のことだった。

アメリカ各地から愛国心が強く学業成績のよい男女学生が集まる同校では海軍と海兵隊の将校を養成する。日本の防衛大学にも似た4年制の国立大学である。卒業生には単なる軍人だけでなく著名な政治家となった人も少なくない。たとえば民主党のジミー・カーター大統領、さらにはつい最近、死去したジョン・マケイン上院議員である。マケイン議員の遺体はこの海軍士官学校の構内の墓地に埋葬される。

▲写真 海軍士官学校の構内の墓地 出典:クリエイティブコモンズ

この大学でテデッソ氏は2014年から柔道部の部長となり、日ごろの練習のまとめだけでなく日本からの柔道の選手やコーチの受け入れをも引き受けてきた。テデッソ氏の本来の職務は現役の海軍中佐である。しかも電氣工学や原子力エンジンに詳しい博士号を持つ専門家で、この4年ほどは海軍士官学校の教授として学生たちを教えてきた。

▲写真 東海大学柔道部助監督の熊代佑輔コーチを迎えたテデッソ部長(左)©古森義久

▲写真 海軍士官学校柔道部員たちと並ぶテデッソ部長(最前列の一番左)©古森義久

24日の退役式典は同校内の広大なホールで上官や同僚、学生、家族が100人近くも出席して、厳粛に開かれた。ホールのある伝統的な建物の前庭には太平洋での日米戦争で日本海軍が使った魚雷のレプリカが二基、飾られていた。アメリカ海軍の歴史では日本海軍との戦いがどれほど大きな比重を占めたかの例証でもあった。

儀式はまず制服の士官たちが運ぶ星条旗の入場、そして国歌の斉唱、キリスト教牧師の祈りの言葉という順で始まった。送られるテデッソ中佐が出席者たちへの歓迎の辞を述べ、進行役をも務める。同中佐の直接の上官にあたる海軍士官学校の電氣・コンピューター学部の学部長ジョセフ・リーズン大佐がこれまで28年間にわたる同中佐の履歴を紹介し、感謝と賞賛の言葉を述べた。

▲写真 退役式でリーズン大佐から感謝状を受け取るテデッソ中佐(左)真ん中の女性は桂子夫人 ©古森義久

イリノイ工科大学を卒業して、22歳で海軍に志願したテデッソ氏は戦艦「サウスカロライナ」の乗艦勤務などの後、海軍大学校で電氣工学の修士号を得て、さらに艦隊勤務を続けた。

その後は日本の横須賀米海軍基地の勤務や原子力空母「エンタープライズ」での乗務を重ねて、電氣工学の博士号を取得した後、2014年から海軍士官学校の教官となり、教授ともなった。そして50歳で定年の退役を迎えたわけだ。

退役式では上官、同僚、部下たちがそれぞれテデッソ中佐の長年の貢献を讃え、別れを惜しむ言葉を送った。同中佐はときには夫人の横須賀出身の桂子さんと並び、こうした式辞に耳を傾けていた。そして最後に感謝の意を表する挨拶をしたが、そのなかでは海軍士官学校の柔道部長としての責務についても熱をこめて語り、とくに近年の日本の柔道指導者を迎えての交流の意義を強調した。

▲写真 記念写真におさまるテデッソ夫妻 ©古森義久

テデッソ教授は2014年以来、日本側の柔道国際普及団体「柔道教育ソリダリティー」(山下泰裕理事長)や「東京学生柔道連盟」(白瀬英春会長)から海軍士官学校柔道部に送られた指導者や選手たちを迎えての米側との合同練習をアレンジしてきた。自分も柔道着をつけ、日本側の選手らと練習するほどの熱心さだった。

柔道教育ソリダリティーと海軍士官学校との柔道交流は2010年に本格的に始まり、世界の覇者の井上康生コーチがまず来訪した。その後、日本側では東日本大震災で米海軍が日本への救済支援として実行した「トモダチ作戦」への謝意をこめてという形で、毎年、塚田真希、熊代祐輔、奥村達郎、藤井岳、田知本愛といった男女の一流選手を海軍士官学校へ派遣してきた。テデッソ柔道部長はこれまで4年間、この日米交流の米側の責任者として同士官学校柔道部員30人ほどを指導してきた。日本側の柔道関係者にもテデッソ中佐の退役を惜しむ向きは少なくないだろう。

トップ画像:別れの挨拶をするテデッソ中佐 ©古森義久


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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