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.国際  投稿日:2018/3/16

柔道がはぐくむ日米交流


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視 」

【まとめ】

・柔道は効果の高い交際交流の手段である。

・ワシントン地区で東京学生柔道連盟海外研修団の日米合同練習が行われた。

・言葉や世代の差を越えての柔道交流が独特の親しみを生んでいる。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=38919でお読み下さい。】

 

日本とアメリカとの交流はまさに多様多彩である。幅が広く、奥も深いが、柔道というのはなんとも独特の効果を発揮するようだ。一つには柔道はなんといっても日本が本家である。アメリカ側が日本側から素直に学ぼうとする数少ない領域だといえる。

それに柔道の交流には言葉がそれほど必要ではない。おたがいに礼をして組み合い、体をぶつけ合い、投げ合い、という接触では自然と肉体言語のような疎通ができてしまう。人間同士の国際交流にはこれほど効果の高い手段もあまりないのではないか。

日本の大学柔道の選手たちが首都ワシントン地区にきて、アメリカ側の男女と激しく、かつなごやかに練習をする光景をみて、そんなことを改めて実感した。

文中1

写真)東京学生柔道連盟と研修団の選手たちと、ジョージタウン大学ワシントン柔道クラブの合同の練習風景(2018年3月6日)
撮影:SHK

 

ワシントン地区に3月はじめ、東京学生柔道連盟の海外研修団(団長・鈴木良則法政大学柔道部長)が来訪した。東京圏の大学14校の選手17人がジョージタウン大学ワシントン柔道クラブ海軍士官学校柔道部とでそれぞれ日米合同の練習を4日にわたり展開した。

私も中学から大学卒業まで柔道に励んだ。その後も海外で国際報道という職業活動の合間に試合や練習を断続的なから続けてきた。この10数年はジョージタウン大学ワシントン柔道クラブでコーチを務め、日米柔道交流の連絡調整役をも果たしてきた。だから今回の研修団来訪でも受け入れや、付き添いにあたった。

東京学生柔道連盟の研修団はワシントンにはすでに3年おきぐらいに3回ほど来訪した実績がある。今回は一部の柔道の強豪大学に偏らず、なるべく多数の大学からの参加選手を募ったという。確かに研修団全体のキャプテンの森田大我選手は大正大学、高見駿選手は亜細亜大学、山村佳輝選手は立教大学、前原良美選手は東京女子体育大学と、多彩の大学からだった。

日本側の女子は国士館大学の吉田安奈選手や日本大学の齋藤郁選手ら6人が元世界大会覇者の西田優香コーチに率いられ、日ごろ外部との練習の少ない米側の女性選手たちと活力いっぱいに稽古をした。

文中2

写真)東京学生柔道連盟と研修団の選手たちと、ジョージタウン大学ワシントン柔道クラブの合同の練習風景(2018年3月6日)
撮影:SHK

 

最初のジョージタウン大学ワシントン柔道クラブは大学の柔道部と町道場が合体した形で70人ほどの男女が日本の研修団を2日にわたり、迎え入れた。アメリカ側の男子が日本の女子に練習を挑むことも多く、国士館大学の川本優選手ら軽量級の女子が屈強な米側の男子を鮮やかに投げる場面もあって、拍手を浴びていた。

男子は日大コーチの甲斐隆文氏の指導で早稲田大学の下田将太、慶應大学の井上頌悠、日大の坂口真人各選手たちがワシントン柔道クラブの有段者たちと熱のこもった練習を重ねた。同クラブでは一時に練習をする選手たちの数が多すぎて、規制を要するほどだった。

日本側はアメリカ側の要望で、個々の選手たちがそれぞれ得意技をも披露した。日大の橋本海、順天堂大の秋村毅、専修大の佐藤大樹、駒澤大の渡井明道各選手らが独自の投げ技をみせ、アメリカ側から感嘆の声を浴びた。

こうした合同練習の合間や終了後に両方の柔道家たちがそれなりに語りあい、交歓する場面も多かった。言葉が自由でなくても、柔道が共通の言語となって、交流がはずんでいた。同クラブは学生以外に種々の職業分野の社会人も多かったが、世代の差を越えての柔道交流が独特の親しみを生んでいるようだった。

研修団はワシントンから車で50分ほどのメリーランド州アナポリスにある米海軍士官学校の柔道クラブをも2日間、訪問した。海軍や海兵隊の士官を養成するこの大学では合計20数人の男女学生の柔道クラブ員が研修団と合同練習をした。

日本側では拓殖大学の水谷公、法政大学の木下将充、東海大学の北郷颯各選手らが先頭になって米側の男女と乱取り練習をした。子供のころから柔道をしてきた日本側選手と大学に入ってからの米側選手とではどうしても技の水準が異なったが、米側は持ち前の体力と気迫とで必死に食い下がり、熱戦も多かった。

士官学校側は日ごろ外部の選手と練習する機会がほとんどないためか、日本側の選手を奪いあうように捕まえて、稽古に励んでいた。

文中3

写真)東京学生柔道連盟と研修団の選手たちと、ジョージタウン大学ワシントン柔道クラブの合同の練習風景(2018年3月6日)
撮影:SHK

 

海軍士官学校のトム・テデッソ柔道部長は「日本の現役選手たちの技の鋭さは本校の学生もよくわかり、よい体験だと大喜びです」と語った。この柔道クラブでも練習後は選手同士が交歓し、日米大学生交流の花を咲かせていた。

なお研修団はワシントンでは在米日本大使館をも見学に訪れ、島田丈裕公使川野真稔参事官から日米関係の現状などについての解説を受けた。また米側との柔道以外の交流ではジョージタウン大学の日本研究のケビン・ドーク教授から新渡戸稲造と日本の武士道についての特別講義を聞いた。

文中4

写真)ケビン・ドーク教授   出典)ジョージタウン大学

 

トップ画像)東京学生柔道連盟と研修団の選手たちと、ジョージタウン大学ワシントン柔道クラブの合同の練習風景(2018年3月6日)
撮影:SHK

 

 


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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