[為末大]<作り話でも“原点”を欲しがる私達>「自分は本当にこんな人間なのか?」を考えてみた
為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)
民族の歴史や、宗教の歴史、それから神話等を見ていると、必ずと言っていいほど原点の描写が出てくる。「私達はここでこうして始まりました」という事が丁寧に描かれている。長く続く会社も創業時の事が語られる場合が多い。
「私達は何々です」と語る時、実はそれを底で支えているのは“原点”だと思う。「あそこから始まったんです」という“原点”が共有されている事で“私達”とみなしている。逆に言えば“原点”がないと、自分をどう定義づけていいのかわからないのではないか。
「私はこういう人間です」と説明する時、現在の事より、過去どういう行動や言動をとってきたかによって決めている事が多い。よくよく詳細に見ていくと、「そういう性格だったから、そういう行動をとった」というより、「そういう行動をとる自分は、こういう性格に違いない」と認識している側面もあるのではないか。
“原点”の話のほとんどは「作り話」。
「作り話」ということはみんな知っているのだけれど、そうだとしても「何か定義するもの」がないと今の自分が不安でしょうがない。だから“原点”についての議論では「そういうもんだ」としか言えなくなる。
インタビューに答えながら、「自分は本当にこんな人間なんだろうか?」と考えた事がある。振り返ってみれば、人生で覚えている幾つかの自分がとった行動を根拠に自分を定義づけている。本当にそういう性格なのかどうかすらわからない。
人生の勝負所で、「立ち向かったか、そうでないか」という事は、その場においてはたいした事ではないかもしれない。けれど、それは将来の自分にずっと影響を与え続け、結果として性格をかえ、人生を変えるのではないかと思う。
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