[宮家邦彦]今週の注目はウイーンで始まるイランの核問題協議[連載21]外交・安保カレンダー(2014年3月17日-23日)
宮家邦彦(立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表)
今週もワシントンの関心事はウクライナとマレーシア航空機のようだが、筆者が注目するのは2月17日からウイーンで始まるP5+1とイランの核問題協議だ。イラン外務省は既に「今回のラウンドで最終合意に達することは期待していない」と述べている。当然だろう、関係者の誰も簡単に合意できるとは思っていないはずだ。
理由は簡単。
なぜなら、イランのウラン濃縮の権利をどの程度認めるかが交渉の焦点だからだ。されば、最終合意の可能性は低い。西側、特にイスラエルはイランに濃縮の権利など到底認めないのに対し、イランは濃縮の権利確保が最低条件だ。今回の交渉で結果が出ることはない。交渉期限は7月に来るが、その時点でも最終合意は難しいだろう。
実際には当面双方とも、合意も、決裂も出来ないのではないか。P5+1が下手にイランに濃縮の権利を認めて合意すれば、イスラエルが黙っていない。決裂すれば、ローハニはハメネイ最高指導者と国民の信頼を失うだろう。場合によってはイラン国内で力関係の逆転が起きるかもしれない。
されば、イランはウラン濃縮(もしくは核兵器開発技術の取得)を再開するだろうから、いずれイスラエルはイランを攻撃するかもしれない。どちらに転んでも出口はない。筆者が交渉担当者なら、今年7月には3ヶ月か、6ヶ月程度交渉を延長することでお茶を濁す。とりあえず現状が維持できるからだ。正念場は来年1月以降ではないか。
2月17日にクリミアでの住民投票の結果が出た。95%以上の賛成でクリミアのロシアへの編入が支持されたという。次の焦点はロシアの対応だ。クリミアの代表団はモスクワに向かっている。
理論的にロシアは、
- 歓迎はするが何もしない
- クリミアの独立は認めるが編入はしない
- ロシア連邦に正式に編入する
・・・等の選択肢がある。
だが、この期に及んで西側に配慮して何もしなければ、プーチンはロシア国民の失望を買うだろう。されば、独立を認めるだけにするか、編入まで踏み込むか否かだが、ロシア側の対応によって欧米の制裁レベルも変わってくるだろう。
問題は米国と欧州の温度差だ。ロシアの大金持ちならともかく、ビザ発給停止や資産凍結などにプーチンは痛みを感じないだろう。それでは、ロシアの天然ガスに依存する欧州諸国は(対イラン制裁のような)厳しい天然ガス輸入禁止措置に踏み切れるだろうか。
要するに、欧米対ロシアの我慢比べは始まったばかりということだ。いずれにせよ、これを「新冷戦」と呼ぶのは、「冷戦」の本質を知らない人の議論だと思う。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
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